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第104話 白くて大きなモッフモフ

ゆずあめが書きたかったのは.....こういう世界!


 木々の隙間から覗く、熱い光で目が覚めた。

 まだ少し重い体を起こすが、すぐに何者かに背中を触れられ、『まだ寝てていいよ』と言われた気がする。


 徐々に覚醒する意識の中でも、声は聞こえなかった。

 そうして俺は、身体強化を使い、再び入眠した。




◇ ◇




「ガイア、具合はどう?」


「もう大丈夫だ。身体強化で毒の分解を早めたからな」


「......良かった」



 夜になると、ミリアに頭を撫でられる感覚で起きた。

 背中からモフモフの布団が俺を逃がすまいと包み込んでくる。温かい、良い香りのする布団だ......!


 ん? 布団? 小屋に布団なんてあったか?



「な、何だこのモフモフは!」



 俺を包むナニカは、白くて大きなモッフモフの生き物だった。



『ガルルゥ』


「安倍くんよ。忘れたの? 私たちの家族を」


「忘れる訳無いだろう? そっか、安倍くんも復活出来ていたんだなぁ......良かった」



 改めて振り向き直し、顎の下を撫でてあげると、気持ち良さそうに喉を鳴らした。

 2メートルは超える巨体が小さな俺に懐いている光景は、何も知らない人から見れば異様だな。


 また安倍くんと暮らせるなんて、幸せだな。



「久しぶりだな。元気にしてたか?」


『う、ん。げん、き』


「喋れるようになったのか!? 凄いな!」



 安倍くんの死の直前に聞こえた声だ。

 明るくて優しく女の子のような声。でも何故だろう?

 物凄く聞き覚えがある気がする。

 

 これは......誰だろうな。セナ......ではないし、アンさんやエメリアでも無い。もっと底抜けに明るくて、純粋な人の声。



「......なるほど、サティスか」


「サティス?」



 俺は無意識のうちに安倍くんの声とサティスの声を同じ認識で創り上げていたんだ。それ故に、幼少期に過ごしたサティスとの会話で俺は、安倍くんの声に懐かしさを覚えたんだな。


 そっか......サティスか......会いたいな。

 そう思ってしまうのは、許されない行為なのだろうか。



「なんでもない。それより心配かけたな。ごめん」



 俺の横にある、本来のベッドに座っているミリアの頭を撫でて言うと、やはりというか当然というか、申し訳なさそうな顔で言葉に詰まっていた。



「本当にごめ──」


「謝らないでくれ。しょんぼりしたミリアの顔も好きだが、俺はお前の笑顔の方が何十倍、何百倍も好きなんだ。今回のことも『やらかしちゃった☆』くらいの気持ちでいいんだぞ?」


「それはダメよ! もし、あの植物の毒がもっと強かったら、貴方は本当に死んじゃってたかもしれないのよ!?」


「その時はその時だ。森の主とはいえ、森を舐めてかかったのが悪いからな。そして毒の有無を確認しなかった俺とミリアが悪い。事故なんだよ、これは」


「でも......」



 仕方ない、とは言わない。だがもう過ぎた事だ。

 改善策としてパッチテストをすれば良いのだから、『これからは気を付けよう』でいいのだ。


 俺はミリアを抱きしめて続く言葉を遮ると、ボフッと安倍くんのお腹に倒れた。

 驚くミリアを更に抱きしめ、更に撫でた。



「今日だけは落ち込んでもいい。俺が許す。でも明日も引きずることは許さない。俺達は家族だ。言わば一心同体。あとはミリアが考えろ」


「ん......ごめんなさい。いえ、ありがとう?」


「あぁ、俺からもありがとう。長い間待っていてくれて、本当にありがとう」



 月光を反射する魔力湖の光が、小屋の中を照らす。

 泥と木材で造られたこの小さな空間も、魔力というファンタジー要素のお陰でどこか特別感がある。

 それに愛する人を抱きしめ、大切な家族と共に居れる穏やかな時間は、誰にとっても幸せと言えるだろう。


 もう夜も更けて、ミリアも眠くなった頃だと思っていたら、何やらゴソゴソと動き始めた。



「安倍くん、少し席を外してくれるかしら?」


『ガルゥ!』



 安倍くんは優しく俺とミリアをベッドに移すと、そそくさと森の中へと歩いて行った。

 俺は驚きのあまり呆然としていると、ミリアが純白のネグリジェを脱ぎ始めた。



「え? ま、待て待て。何する気なんだ?」


「あら、分からないの? ガイアってばお子様ね」



 ふふっとからかうような笑みを浮かべているが、ミリアの頬は真っ赤に染まっていた。

 そして俺はと言うと、理解してはいた。理解は。

 ただ緊張して体が強張り、口すら上手く開けないのだ。



「ガイア......初めてもその後も、全て貴方に捧げるわ」


「......こ、心の準備を......!」


「私は出来てるわ。一応、味見は済んでるから」


「味見!?」



 ペロっと舌を出したミリアに、俺は味見の意味を悟った。きっと、寝ていても肉体は反応していたのだろう。

 予想するに、その気が強くなったミリアが申し訳なさを噛み殺しつつ、行為の準備をしちゃったんだろうな。



「お姉さん、意外と肉食系なんすね」


「私は精霊よ? 魔力しか摂らないわ。貴方のね」



 あら嬉しい。それなら俺も、ミリアの手料理しか食べないと言いたいが、後出しで言っても負けた気がするな。


 ......大丈夫、大丈夫だ。何世も前の俺の記憶を蘇らせれば、この行為も初めてじゃない。落ち着け、落ち着け。



「や......優しくしてね?」


「それは私のセリフでしょ? でも知っているわ。結局は激しくなる展開なのでしょう?」


「やめろよ。それは暗黙の了解だろ?」


「ふふっ、大丈夫よ。初めてだもの、お互いの愛を深めるプロセスに過ぎないわ。ガイア......愛して?」



 月明かりに照らされ、ミリアの髪が白銀に光る。

 ルビーの如く紅い瞳は俺だけを真っ直ぐ貫き、一瞬も目が離せない。

 白い肌がほんのりと赤みを帯び、その熱の籠った指で頬を撫でられると、俺の体温も上昇する感覚がした。


 日本人として産まれた時から換算し、一度目の転生。

 活動期、約200年の間ミリアと共に過ごし、二度目の転生である休眠期、約130年を終えて覚醒した今、待たせに待たせたミリアに幸せを感じて欲しい。


 もうこれ以上、ミリアに我慢をさせたくない。

 これからは一緒に、一生を過ごして生きたい。


 今は夏なのだろうか。少し蒸し暑く感じる中、俺は、跨るミリアの肩をそっと抱きしめた。



「愛してるよ、ミリア」


「私も。愛してるわ、ガイア」




◇ ◇ ◇




 目が覚めたら昼だった。

 体を起こして小屋の入口を見ると、魔力湖の奥に見える森が青を見せ付けてくる。


 ふと隣を見ると、ミリアがすぅすぅと寝息を立てていた。

 額に掛かる髪が汗でベタ付いており、撫でるように払ってあげると小さく震えた。



「んぅ......ガイア......?」


「おはよう、ミリア。体調は問題無いか?」


「......うん。ねぇ、ぎゅってして」



 甘える子猫のようにお願いするミリアに、俺はNoと言えるはずが無かった。

 体を起こしたミリアを優しく抱きしめると、満足気に頬を擦り付けられた。


 可愛い子猫だな。ずっと構っていたい。



「着替えるか?」


「......そ、そうね。あと水浴びもしたいわ!」



 あ、もしかして寝惚けてたのか?

 凄く顔が赤いし、無意識に甘えていたことに今気付いたんだな?


 これは......からかうか? いや、しかし......!



「たまには素直に甘えていいんだぞ?」


「あぅ......ち、違うの! これは、その......」



 可愛いなぁオイ。でもこれ以上はやめておこう。



「ほら、行くぞ。安倍くんも呼んで、朝ご飯の材料も取りに行こう」


「......はい」



 ミリアの頭をポンポンと叩いて、俺は傍にあった服を持った。

 一旦服を着てから出ようと思ったけど、他に誰も居ないし泉まで裸でいいかな?


 そう思っていると、ミリアも同じ風に考えたのか、着替えだけ持って出てきた。



「もう昼なのね」


「暑いよな。日焼けとかは大丈──」




 バッシャァァァァァァァァン!!!!!!!!




 言いかけた瞬間、何かが高速で魔力湖に墜落してきた。



「いてて......あのドラ子、音速を超えるならそう言って欲し......い..........」



 湖から這い上がってきた人物と目が合った。




「「きゃぁぁぁぁぁぁあ!!! 変態! 誰かお巡りさん呼んでぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!!!」」



「安心して、二人とも変態だから大丈夫よ」



 方や急に湖に落ちてきた不審人物。

 方や真っ裸で森を徘徊する不審人物。


 裸? ......ハッ! ミリアがまだ!


 と思ったが、ミリアは既にネグリジェを着ていた。

 流石の対応の早さだ。素晴らしいな。



「起きたんだね、ガイア! おはよう!」


「よっ、ゼルキア。お前はまだ魔王なのか?」



 ゼルキアだ。黒い髪に黒い目を持ち、最期に遺言を聞いた時より幾分かイケメンになっている。

 厳密に言うなら、日本人顔から西洋人の顔になったと言うべきか?



「ううん、僕は人間に転生したよ。何かね、転生する時に女神様に会って、『魔王の枠はすぐに入れ替わるんです。ですので人間に転生します』って言われて、寿命が長い人間になったよ」


「そうなのか。これで仕事はおサラバって訳か」



 俺がウンウンと頷いていると、気まずそうにゼルキアが口を開いた。



「それがねぇ......公爵家の長男として誕生しちゃったから、順当に行けば僕は公務というとても大変なお仕事人生が待っているんだ」


「......つらくなったら言えよ? 力になる」


「勿論。マブダチだからね! それより二人は......あっ」



 なんだその『あっ』は。

 察しが良いのに続く言葉に迷ってんじゃねぇよ!



「これから水浴びだ」


「それはそれは......おめでとう? お疲れ様?」


「幸せだったわ。ゼルキアも早く相手を見付けなさい」



 少し嫌味ったらしくミリアが言うと、ゼルキアは片手で顔を覆った。



「フッ、実は僕、第2王女に縁談持ち掛けられてるんで。そこんとこよろしく」



「「うっざ」」



 腹が立つ行動を取りやがる。こんな奴だったか?

 でもまぁ、あの時より明るそうで何よりだ。

 ゼルキアも今の人生が幸せなら、俺としても嬉しい。



「それじゃあまた後で話そっか。お二人はイチャイチャしながら水浴びしてらっしゃい」


「「言われなくても」」


「......なんだろう、負けた気がする」



 胸を張ってミリアと手を繋いで歩くと、後ろから敗北者の声が聞こえた気がする。


 久しぶりの再会に明るい気持ちで森を進む。

 昨日より笑顔が増したミリアと歩いているうちに、俺はずっとゼルキアと真っ裸で会話していたことを思い出した。


 流石に親友とはいえ、もう少し配慮すべきだったな。


 軽く反省をしながら二人でイチャイチャしながら水浴びをしていると、頭上を大きな黒い物体を通り過ぎた。



「来たわね」


「今のは......まさか」



 何かが進んだ方向は、魔力湖の方だ。

 そしてあの大きな影は、俺もよく知る物だった。




「えぇ、ドラゴン。つまりはあの子よ」

寝惚けて甘々ムーブするミリアが一番好き。


次回、『経過報告と事後報告』お楽しみにッ!(こり)

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