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第102 虚構の真実



「え〜っと? 色々とごっちゃになってきたので整理をしたいんだが、まずミリアさん」


「えぇ。何でも聞いて」


「134年と12日とは何だ? 俺とミリアが離れてしまってから、まだ2年が経ってないくらいのはずだが」



 妹を名乗る女神と、最愛の妻。

 そして何も知らない俺。


 二人は色々と知っているようだが、俺の持っている認識とは全く違う。それ故に、知識の擦り合わせタイムを始めたところだ。



「私が言っていたのは、貴方があの勇者を倒し、私達を転生......というより蘇生してからの時間よ。あの後、貴方だけはずっと眠り続けているの」



 あっるぇぇえ? 僕ちん、あの後転生したんだが?



「兄様、今から言うことを理解して頂ければ、その疑問派解消致します。聞きますか?」


「是非とも。俺は自分よりミリアを信じるからな」



 正直に言って、俺は俺を信じていない。

 主観で物事を判断し、感情に結果を揺さぶられるような人間だからだ。だから俺は、一歩引いた視点で判断するミリアを信じる。



「まず知っておくべきことを。ミリアさんの居る世界が、本来の世界です。兄様が転生の魔法を使った後の世界は、全て兄様が創り出した世界です」


「......ほう」


「聖剣により魂ごと貫かれた兄様は、死の淵に転生の魔法を使いました。それは大丈夫ですね?」


「あぁ。ゼルキアとミリアの魔力も混ぜて、100年後に転生する魔法を使ったな」



 今でも鮮明に覚えている。異常なくらいにな。

 森に指示を出して勇者以外を拘束し、完全な一騎討ちでの相討ち。ミリアも殺され、ただ目の前の男を殺す以外に選択肢が無かった。


 ......ん? 待てよ。


 ついこの前レヴィが怪我をした時、血を出たと言っていたよな? でもミリアが刺された時は、光の粒が出ていたはず。



「気付かれましたか? 確かに兄様の世界との違いが存在するのです。精霊の血液、ダンジョンの共通性、スタンピードの時の、少な過ぎる犠牲。あの世界は兄様を中心に回っていた、夢の世界なんです」


「恥ずかしくなってきた。ちょっと死んでいい?」


「私も一緒に死ぬわ。どうやって死のうかしら?」


「ツッコミ役が居ないと大変だ。ゼルキアさ〜ん!」



 嫌だよ俺ぇ......一人妄想の世界にズブズブと浸かって、勝手に苦労して勝手に喜んで、チヤホヤされて楽しくなって......恥ずかしい。死にたい。


 夢ならもっと早く覚めて欲しかった。



「じゃあドッペルゲンガーの話は......」


「それがですね、兄様の力が強過ぎて、夢の世界から現実世界に幾つかの物が流れ込んだのです。その一つに、エメリアさんが居ます」


「ん?」



 俺の力が強過ぎるって、どういうことかね?

 確かに戦闘面での経験値は他を逸するだろう。だがしかし、夢を現実に持ち込める力なんて、俺は持っていないはずだ。


 顎に手を当て、改めて自分を見つめ直していると、横からミリアがちょんちょんと腕をつついてきた。



「ガイア。貴方の魔力傾向と私の魔力傾向、そしてゼルキアの魔力傾向が混じったことが力の原因だと思うわ」


「魔力傾向?」


「正解ですよ、ミリアさん。兄様の魔力傾向は『増幅』と『改変』。ミリアさんの魔力傾向は『自然』と『支配』。そしてゼルキアさんの魔力傾向は『時間』と『観測』です。これらが一点に集まった時に使われた魔法が、兄様の使われた魔法。転生ではなく蘇生に近い、世界を改変し、肉体の時間を巻き戻す魔法だったのです」



 あら、俺のもうひとつの魔力傾向が明らかになった。

 改変かぁ......夢の世界を書き換えたり、本来使えなさそうな魔法を使えるようにしてくれたのが、この傾向なのかな。


 力、現象、観測。強過ぎる存在が集まり、皆を蘇生出来たということだな。


 じゃあ、どうして俺は夢を見ていたんだ?



「それは兄様があの魔法の行使に失敗したからです。正確に言えば、『本来使えない魔法を強引に使ったから』ですがね」



 イリスの答えを元に、俺は仮説を立てる。



「俺の改変の傾向が、その事実を変えて行使した。だけど完全には成功しておらず、俺は眠ったままだった、と」


「概ね仰る通りです。神の介入無しに輪廻の環を乱したのは、どんな世界でも成し遂げた者は居ませんでした。ですが、私の兄様はやってのけました。愛する人の為に、神ですら予測出来ない、イレギュラーになりました」



 おぉ、何か語り始めたぞ。しかも怖いな。

 大きく見開いた目が血走っている。



「禁忌に近いものね。蘇生なんて......」



 やはり命を動かす魔法は神の御業でもあり、禁忌でもあると。その代償として100年ちょっと眠っていただけなら、安いものなんじゃないかな。


 自分の意思で起きれるみたいだし、11年の夢の旅はこれで終わりか。



「そういえばミリアはどうやってここに?」


「魔力を繋げて眠ったら来れたわよ。ただ、他の子に見付かったら誤解を生む体勢だけれど」


「現在の状態をお見せしますね」



 イリスの優しさで見せて貰えた俺の姿は、小屋の寝床の上に俺が仰向けで眠り、その上にミリアが覆い被さるように眠っている。


 う〜む、確かに誤解を生みそうな体勢だ。



「誤解じゃなくて、事実にする日も近いけれど」


「それは起きてからの話だな。というか俺、体が成長して......るのか? これは」



 改めて見てみると、俺の体付きが少し良くなっているように感じる。眠る前は一切成長しなかった肉体が、あの魔法のお陰で変化が訪れたのだろうか。



「少しずつですが、成長していますよ。ただ、常人の何千分の一と言えるペースですがね」



 ほほう。夢の中では成長をしていたこの体も、現実でもゆっくりと大きくなってくれて嬉しいな。


 と、ここでミリアが俺の手を強く握ってきた。

 潤んだ瞳の上目遣いで心を掴み、紅い唇から漏れる吐息が妖艶な色気を放っている。



「大人の体になるまでなんて、私は待てないわよ?」


「ミリア? ちょっと落ち着こうか。別にイリスは俺を取って食おうとしてる訳じゃないんだから、そう焦るな」


「......取って食べちゃダメなんですか?」



「「ダメに決まってる だろ!/でしょう!」」



 やはりこの自称妹、危険だ。

 記憶が無いせいで、俺からすれば他人なのに色々とぶちまけるし、ミリアの前でも俺を奪おうとする鋼の精神。


 早めに帰りたいのだが、聞きたいことが多過ぎる。

 くっ、これがジレンマ......なのか!?



「話を戻すが、エメリアはどうなったんだ?」


「私の指示でゼルキアと一緒に学園に行ってるわよ。急に現れたと思ったら、いきなりガイアに抱きついたから一発だけ殴ったわ」


「......なんか、ごめん」



 俺の頭が作り出したと言われても、不思議とそんな気がしない。エメリアはエメリアで、本来の世界でも生きていると思うんだ。



「エメリアさんは兄様の描くミリアさんの対極の存在ですものね。人に魔力を与える精霊と、生物を絶滅の危機にまで追い込むドラゴン。容姿もミリアさんの髪色を反転した艶やかな黒髪ですし」



 言われてみれば、ミリアの対になっているような。

 深層心理でミリアを求めるあまり、本人ではなく対極の存在を求め、創り出してしまったのがエメリアなのかもしれない。


 名前の由来も、家族を意味する『ファミリア』から取ったミリアに対し、女性を意味する『フィーメル』から取ったエメリア。


 きっと、俺の本能的な欲求が働いたのだろう。



「エメリアの想いとか、意思は聞いたのか?」


「......まぁね。仮の第二夫人として認めたけれど、その後のことは起きてからじっくり話しましょう」



 諦めたような、けれど自信のあるミリアの表情に安堵した俺は、イリスが言っていたドッペルゲンガーがどういうものか、理解したのだった。



「全く、貴方は私を好き過ぎるのがいけないわ」


「......好きじゃダメ、なのか?」


「えぇ、ダメよ。好きじゃダメ。私を愛して?」



 上手い、一本取られた。しかもカウンター付きだ。

 あれだけ一緒に居たというのに、まだまだ俺を魅了するミリアには敵わないな。


 自然とミリアを抱きしめ、唇を重ねかけた瞬間──



「あの〜、私も居るのですが......というか私もしたいんですが!」


「絶対にダメよ。女神であろうと、彼を取ることは許さないわ。ガイアがイレギュラーであるように、私もまた精霊のイレギュラー。どんな存在でも敵と認識すれば全力で排除するから」


「カッコイイな。クーデレさんみたいだ」


「私だって強いもの。力を使うべき時は全力で使わないと」



 素敵だな。甘える、甘えられる存在でもあり、お互いに守り合う関係でもある。

 二人でお互いをカバーし合うから、深く信頼し、より良い結果を出せる。



「うぅぅ......私はただ兄様に甘えていただけ......くっ!」



 悔しがるイリスを横目に、俺はミリアの頭を撫でた。



「これからもよろしく」


「......え、えぇ、勿論。ふふっ」




 照れ臭そうに笑う姿を見ると、また一段とミリアが好きになった。これが愛に変わる日もそう遠くない。

 もう少しだけここでお喋りをしたら、ちゃんと目を覚まそう。

★プチ色★

ガイア君が影にぶち込んだ諸々の品は、エメリアと同じように現実のフェリクスにもぶち込まれている。

ある日のミリアは、小屋に帰る途中、大量の魚が森の上空から降っていくるという恐怖体験をしたとか。


次回『おはよう』お楽しみに!

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