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第100話 魂を斬る白剣

更新頻度「ちょっとコンビニ行ってくる」


 順調に勝ち進み、準決勝。

 最初の頃に漂っていた俺の年齢に対する力の不安は無くなり、観客も最大限に楽しめるようになった頃、俺の相手は歴戦の猛者へと変わっていた。


 今回の相手は所詮同様、《白金級(プラチナ)》冒険者だ。

 主に魔法を得意とする様子で、魔法使いならではの大きな杖を構えている。



「......申し訳ない。魔法も鍛えてる」



『なんとぉ! ガイア選手、圧倒的な量の魔法でスフェーナ選手を瞬殺だぁぁぁ!!! 圧倒的......圧倒的ですッ!!!!』



 通過点なんだ。今も、この先の戦いも。

 目的であるギドとの戦闘だって、ただの興味を満たす為の通過点でしかない。


 俺の終点はミリアとの平穏な生活。

 頭痛に苛まされることも無く、ただ穏やかに自給自足をして、精霊樹の森で生きることだ。


 戦いたくないと言いたい気持ちと、強さへの興味がぶつかり合う。早く大会を終わらせて、王国に帰らないと。



『決勝戦、対戦するのは帝国出身の最強と言われた冒険者、ルザリオ選手と! 圧倒的な戦闘を繰り返す謎の少年、ガイア選手です!!!』



 ルザリオは見るからに筋肉モリモリのマッチョマンだな。力勝負になれば油断出来ない。かと言って、魔法と剣を同時に使えば技量を計られるから辞めておきたい。


 身体強化のみでこの男を倒そうか。



「よろしく。お前さんみたいな子どもと戦うのは初めてだ。容赦は出来ないから許してくれ」


「こちらこそ。サイクロプスみたいな筋肉をしている人間と戦うのは初めてです。楽しみましょう」



 この男を何かで表すなら、オーガだろう。

 岩のような筋肉に車かと思うほどの巨体。

 遠目で見てもすぐに見付かる存在感は、まるで王のオーラだ。


 この人には刀を使おう。それだけの価値がある。



『それでは決勝戦......始めっ!!』



 まずは互いに様子見......なんてする訳がない。

 鯉口を切った俺はすぐさまルザリオの背後に周り、抜剣を誘導する。



「うっは! 何だその速度は!」



 反射的に剣を抜かせることに成功した。予定通りだ。

 次に首元まで跳躍し、ルザリオの首に足を付ける。

 すると空中に居る間は俺が不利と一瞬で判断し、ルザリオはしゃがんだ。


 王手だ。この局面、俺が上になったら勝負が着く。



「身体強化......増幅!」



 俺は身体強化に使う魔力を更に増やし、練り上げた。

 あまりの魔力使用量に空色のオーラが体から出るが、ここでルザリオを倒さないと絶対に長期戦になる。


 行き過ぎた身体強化で空気をも蹴った俺は、次手のルザリオが突き上げた剣を回避し、音速を超えた斬撃を浴びせた。



「......消えた?」


「はぁ......はぁ......あっぶねぇ」



 数瞬の後、ルザリオの首が落ち、光となった。



『......しょ、勝者、ガイア選手!!!!』


『おおおおぉぉ!!!! 何という速度だぁぁぁ!!!! 夕方になる前に決勝戦が終わるなんて、何が起きているんだぁぁぁあ!!!!!』



 危なかった。あの人、最後は生存本能で首元に刃を向けていた。あと数ミリ程度ズレていたら、ルザリオの首と共に俺の体もバラバラになっていただろう。


 恐ろしい人間だ。そんな恐ろしい人間を倒した自分もまた、恐ろしい。


 身体強化のお陰で反応出来たから助かったんだ。

 ミリアに教えて貰っていなかったら、今の俺は──



「うっ!............ふぅ、ふぅ。落ち着け。考えるな」



 考え過ぎた。頭痛で頭が割れそうだ。



『さてさて! 本日最後のプログラムは、生ける伝説とも言われる《幻級(オリハルコン)》のギドさんと、優勝者であるガイア選手の試合になります! エキシビションマッチとなっておりますので、双方の実力を見て楽しみましょう!!!』



 遂に来た。《幻級(オリハルコン)》の強さを知る時が。

 ツバキさん以外の、真の強者と戦える。


 あぁ、ワクワクするなぁ。楽しみだなぁ。

 旅の最後に土産話を作りたいんだ、体が疼く。



「本当に来るとはな。実力は確かなようだ」


「当たり前じゃないですか。元はと言えば、俺は対人戦がメインです。ここで負けたら、ツバキさんに指導も出来ない」


「......アイツに師事?」


「はい。刀、好きなので。それにツバキさんはモフモフですからね。ウィン・ウィンの関係なんですよ」



 あんまりツバキさんに構うと怒られるんだけどな。

 でも仕方ないじゃないか。モフモフで可愛いんだから。



「お前、ツバキとも恋仲なのか?」


「どうでしょうね。ツバキさんには好きだと言われましたが、俺がどう思ってるか、それは俺自身にも分かりません」


「はっ、色男で良かったな。両手から花が零れてるぞ」


「俺は一人の女性を死ぬまで愛するタイプですよ。強いってだけだ魅力的に見えるのは、この世界の良い所でもあり、悪い所でもありますね」



 皮肉には事実で返していく。

 例え頭痛に苦しめられようと、俺の根幹にある想いは変わらない。



「周囲の責任にするのは感心しないな。自分の持っている物を把握し、最大限に活かすのが理想だろう? 何故自ら捨てるんだ?」


「この話に至っては単純です。俺がミリアを心の底から愛しているからですよ。俺の......理想は......ミリアと、静かに暮らす............それ、だけ......です」



 頭痛に苦しむ姿を見て、ギドさんが訝しむ。

 試合もそろそろ始まるし、落ち着かないとな。

 


『それでは! エキシビションマッチを開始します! 御二方とも、準備の方はよろしいでしょうか!?』



 頷いて応える。そして同時に武器を構える。

 ギドさんはあの大剣を。

 俺はヒビキから譲って貰った刀を。


 切っ先が互いの体を向いた時、静寂に包まれた。



『......始めっ!』


「ふっ!」


「速いな」



 1秒にも満たない時間差で、ギドさんは出遅れた。

 通常なら大剣ごと切り裂く袈裟斬りも、この人相手には火花を散らすだけで終わる。


 体勢を立て直す時間も作らず、俺は自分の背後に魔法を展開する。数本の氷の槍だ。これだけでいい。



「この状況で魔法だと!?」



 危険と判断したギドさんは後ろに下がる。

 ......が、下がった位置には俺の槍が浮いている。



「しまっ!」



 大腿部から血を流すギドさんだが、今のは演技だな。

 この人が大袈裟に痛がるなんて、罠以外有り得ない。

 本当に痛くても、どんなに相手が強くても、自分を追い詰めるような反応は絶対に見せないはずだから。


 剣士なら。



「......化け物か」


「この速度に着いてくるギドさんも化け物ですけどね。流石にこれはツバキさんでも追えないでしょうし、ちょっとビックリしましたね」


「まぁな。俺は誰よりも強い。自覚しているぞ」


「......え? エメリアよりも弱いのに、何言ってるんですか? あぁ、『人間の中では』誰よりも強いということですか? 何と言うか、微妙にダサいですね」



 寡黙な人かと思ったが、自信家なだけか。

 それにしても、弱い。エメリアなら魔法で消し炭に出来るだろうし、鎌を出されたら為す術なく死ぬだろう。



「............腹が立つ。子どもだからと許される発言ではないぞ?」


「失礼ですね。これでも200歳は超えてるんですが。まぁ、一度死んだらリセットされると言うなら、まだ11歳ですけど」


「一度......死んだ?」



 口が滑った! 何とか誤魔化して戦闘に戻らねば!



「死にかけたと言いますか、体が幼児退行したと言いますか、人間に襲われた時に色々とありましてね。ほら、精霊樹の森って知ってますか? あそこには野蛮な人間が居るので......なんちゃって」



 ......ヤバい。何故かギドさんから表情が抜けたぞ。

 担任の先生がブチ切れた時くらい静かな教室。そんな例えが似合う程に虚無の表情だ。


 これは戦闘どころではない可能性があるな。



「精霊樹の森......お前は行ったことがあるのか?」


「はい。俺が作った森なので。愛の巣です」



 イチャイチャスローライフを送った場所だからな。

 そして、これから送る場所でもある。



「お前が作った!? 訳の分からない事を言うな!」


「そんな怒鳴らなくても......事実ですし。というか、どうしてそんなに精霊樹の森で怒るんですか?」



 精霊樹の森って、危険地帯なんだっけ?

 俺の魔力で有り得んくらい強い樹木が防御体勢をとっているんだから、魔王とかじゃないと抜けるのは厳しいだろうな〜。


 俺とミリアの居場所でもあるんだし、外部の人間を入れる気なんて無いけどな。暫くは森に指示も出さないだろう。



「あそこは......俺の目的地だ。あの森に居る魔物を倒せば、最上級の森の恵みが手に入る。そうすれば俺の妹が......」


「そんな恵み、ありませんよ。あそこには果物と野菜しかありません。魔物も生まれますが、皆話せば仲良くなれます。ギドさんが目標とするには、些か無益な場所です」



 本当だ。精霊樹の森は、名前こそ神聖な場所だと思えるが、その実はただの森だ。

 俺の魔力の池があり、その魔力で育った植物で溢れ返り、またその植物の身を食べた鳥や虫の動物が居て、自然の環を作っているだけなんだ。


 そこに妹を助ける何かは無い。

 薬草も、他の森で生えている物と同じ。

 この人はきっと、入れない森に理想を抱いている。



「さて、そろそろ終わらせて妹さんの元へ向かうのが最善でしょう。ほら、剣を捨てて掛かってきてください」


「誰が捨てるか! 斬り捨ててやるッ!!」



 激昂したギドさんは、大剣を地面に突き刺した。



「来たれ白剣(びゃっけん)、剣帝の名の元に汝を欲す」



 白剣? 魔法の剣か?

 そう思い、警戒すると......



「聖......剣......?」




◇ ◆ ◇




 一方、観客席の方は盛り上がりを見せていた。

 しかし、唯一エメリアだけは不安を抱えている。

 ギドという人間が、ガイアにとってかなり危険な人物だと見ているからだ。



「んなっ!? 白剣じゃと!?」



 ギドが見せた純白の直剣に、いち早く反応したのはエメリアだった。



「ミリア殿はあの剣をご存知なのですか?」


「当たり前じゃ! あの剣は、聖剣を勇者以外が持った場合に変化する、魂を斬る剣......並の龍であっても、掠っただけで死ぬ」


「魂? ご主人様、大丈夫なのかな〜?」



 エメリアの膝に座っていたセナの心配の声に、エメリアは優しく頭を撫でた。



「分からぬ。余には効きにくい故、ガイアもそうであって欲しいが......アレが危険なことに変わりない」



 きっとガイアなら大丈夫。誰よりも強いから。

 最強のドラゴンである自分を超えたガイアなら。

 そう思わずには居られなかった。

 白剣とは、聖剣の裏の姿である。

 その力が向けられる方向によっては、守るべき人を滅ぼす悪魔の兵器に変わってしまう。


 でも。でもと、皆願う。



 しかし、現実はそう甘くなかった。



「あれ? すり抜け......」



 打ち合おうとしたガイアの刀は白剣を通り抜け、ギドの振った切っ先がガイアの胸を穿いた。

 傷一つ無い体で、ガイアは倒れた。

 まるで内部だけを攻撃したように、鮮やかに。



「あぁ、あああ......」


「エミィお姉ちゃん?」



 彼女の何かが爆発すると察したのか、セナは直ぐに離れた。が、しかし、予想していた展開が訪れることは無かった。



「......ヒビキ、今すぐミリアに報告せよ。ギドを殺し、その魂を触媒にガイアを治すと。あの人間は......余の敵じゃ」



 静かに、ピシャリと言い放たれた言葉に殺意は無い。

 そこに敵意も無ければ、寄り添う心も無い。

 完全なる虚無。一頭のドラゴンが、この世で最も大切にしている物を奪われた瞬間、憤怒に染まることも無く、全てが無くなった。



「セナよ、すまんな。ガイアを頼むぞ」


「エミィお姉ちゃんは? 一緒じゃないの?」



 大切な家族が離れる。直感でセナは理解した。



「人間に仇なすことは許されぬ。故にセナやスタシア、アン達とはもう会えぬ。じゃから、ガイアを......頼む」



 最後にセナを抱きしめたエメリアは、その手に漆黒の鎌を握り、リングへと入った。

 誰も言葉を発しない。否、発せない。

 ガイアと同じ地面に足を付けたその瞬間から、スタジアム全体が濃密な殺気で包まれたからだ。


 あまりの恐怖に失神する者も現れる。

 だけどエメリアは歩みを止めない。



「......お前は」


「ほれ、ガイア。古龍の秘術を使うぞ。諦めずに帰ってくるのじゃ。よいな?」



 咄嗟に構えたギドの白剣は、瞬時にして真っ二つに斬られた。これがエメリアの魔力傾向、『破壊』の効果だ。

 魔力と鱗を混ぜて作られた漆黒の鎌を前に、白剣はそこらの剣と違いを見せない。



「ギド。お前さんはその武器を扱うに適しておらぬ。このアーティファクトも、その剣を前にすれば効果を失うからの、便利よなぁ?」


「............っ」


「じゃが、斬るべき相手を間違えたな。世界を良い方向へ進む道標、そう例えられようガイアを斬るとは......クックック。最期じゃ、言い残すことはあるか? 余の敵よ。聞いてやるぞ」



 恐怖。圧倒的な恐怖を前に、ギドの体は動かない。

 これまでに戦った幾万もの魔物とは比較にならない強さを前に、ギドは自分の世界の小ささを知った。


 だが、全て遅かった。白剣を出した時点で、半ば詰みに近かった。



「......俺は、本当に──」



 魂が斬れると思っていなかった──そう言いかけた瞬間、首が飛んだ。



「時間切れじゃ」



 エメリアは即座に周囲を魔力で覆い尽くすと、ガイアの隣に龍の言葉で文字を書く。

 鎌の石突きで地面を掘り、魔力を流して書き連ねられた文字は、古より生きる龍が使う、秘術と呼ばれる魔術の一種。


 その中には魂を癒す秘術『快魂術』という術があり、これならば白剣に破壊された魂も治る。

 しかし、何の対価も無しに秘術が使える訳ではない。

 それぞれの術に見合った対価が必要になる。


 今回の場合は『新鮮な魂』だ。

 命のバトンを強制的に渡させるこの行為は、古龍の中でも禁忌としている者もいた。



「ふっ、禁忌が何じゃ。龍も人も、醜い者共よ」



 数分かけて円形に龍の文字を書き終えたエメリアは、優しくガイアを抱きかかえ、円の中心に置いた。



「希う、廻り散りゆく魂よ。龍の魔、贄の魂を糧に、彼の者の魂を癒せ!」



 黒く文字が輝き出す。夜の帳が如く当たりを包むと、光はガイアに集まり、その手を胸に集めていく。

 不思議とエメリアは失敗する気がしなかった。

 初めて使う秘術だが、絶対に成功する気で居た。

 想いの強さ故か、すぐにガイアを包む光は弱まった。


 そして光が完全に消えた時、ガイアは──






 目覚めなかった。

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