ウルティの街
ギルドに戻り、エテルに依頼を達成した事を報告した。帰ってきた私に気づいたユフィアが心配そうに、怪我はないか、痛いところはないかと何度も聞かれた。そんなに心配だったのだろうか。嬉しかったが、心配されることがなかった為困りながらも、聞かれる度に怪我はないと伝えた。
「今日は疲れたろう?そろそろ交代の時間だし、宿屋の紹介がてら、軽く街を案内してやろう。」
ジェシカが椅子から立ち上がり、コートを羽織りながら言った。
前にも言っていたが、ジェシカは街のことについて詳しいそうだ。困ったらジェシカに相談するといいと教えてもらった。ウルティの街はよく来てはいたが、よく使う店の場所等が全然分からない。ここはジェシカの誘いに乗ることにする。
「是非、お願いします。」
「あぁ、任せな。じゃ、後のことよろしくな。お疲れ様ー」
ジェシカと共にギルドからでて、宿屋が多い通りに出る。
どうやらこの街は、ギルドを中心に円形に広がっている街らしい。住宅街のエリアが階級別に分かれてふたつと、武器、防具を製造する工業エリアが1つ、商品を販売する店と宿屋、レストラン等が合わさった商業エリアと分かれている。昼頃に買った回復薬や大鎌は商業エリアで買ったものだ。
ジェシカはこの街では相当顔が広いらしい。店番をしている小さな子供から、店長らしき大人まであらゆる人から挨拶をされている。その度に私のことを軽く紹介してくれて、店のおすすめ品を教えてくれる。しかし、量が多すぎて全て覚えきれていないから、今度買う時に店の人にまた聞くことにする。
「ここが、アタシイチオシの宿屋だ。飯が美味いし、ベッドはふかふか。風呂までついてる!それなのにリーズナブル。冒険者になりたての子は大体がここにお世話になるんだ。母さん、ただいま!」
宿屋のドアを軽く押しながら、ジェシカが他の店よりも詳しく宿屋の紹介をしてくれた。これからお世話になろうと思っているところなのでありがたい。
「あぁジェシカ、おかえり。その子があんた達がいつも話していた薬草取りちゃんて子かい?可愛い子じゃないか!あたしはヒルダだ。よろしくね!」
ジェシカのお母さんらしい女性が、気さくに挨拶をしてくれた。
どうやらエテル達がいつも私の事を話していたらしい。どんな話なのかすっごく気になるが、毎度薬草取りの依頼しか受けていなかったから、悪口は言われてはいないだろう……きっと。
「よろしくお願いします。ギルドの子に一時的にリヤって呼ばれているので、リヤって呼んで下さい。少しの間、お世話になります。」
ユフィアに付けてもらった仮の名前を名乗り、お辞儀をする。
ヒルダさんに挨拶をしてから、部屋を借り、夕飯の時間まで少しあるからと、ジェシカと街を見て回ることになった。ヒルダさんは少し強引な所があるが、いい人そうだ。
「そういえば、大鎌はあのお店にしか売ってないんですか?」
今日ダンと行った武器屋は剣や大剣、斧、弓、大鎌と幅広く取り扱っていたが、約100年間鎌闘士の適性がある人がでていないのなら他の武器屋にも鎌があるかどうか分からない。今日行った武器屋は子供が鎌に憧れて買いたがるからと、置いていただけだった。
「そうだな。あの店の他で売ってるのは見たことがない。だが、武器屋で買わずに鍛冶屋で買うのはどうだ?」
「鍛冶屋ですか…?」
鍛冶屋は今日行った商業エリアではまだ見ていない。店は、工業エリアにあるようだ。
鎌は後に必要になってくる物だから、買える場所は知っておくべきだろう。
「そうですね、見てみたいです。」
「分かった、ついておいで。」
ジェシカについて行き、工業エリアに入る。中に入っていくにつれて、熱さと鉄の匂いが増していった。
「ここには1人しか知り合いがいなくてね。しかもそいつがかなり職人肌のやつなんだ。リヤなら心配ないと思うが、話し方には気をつけな。」
「分かりました。」
商業エリアではどんな人でも知り合いだったジェシカが、ここまで言う人だ。かなりの人なんだろう。もしかしたら父親以上に、話し方に気をつけたほうがいいかもしれない。
そんなことを考えているうちに、鍛冶屋についたようだ。
「ここだよ。おーい、シンディ!依頼持ってきたぞー!」
話し方に気をつけた方がいいんじゃ無かったのか?ものすごくフレンドリーな話し方じゃないか、それ?
「聞こえてるから大声出すな!シンって呼べって言ってるだろ!依頼って何?そいつ誰?」
ジェシカの声に反応し、出てきたのは若い小柄な男性だった。声も男性的な声だったから成人はしていそうだ。
「今日冒険者になったリヤです。鎌が欲しいのですが、ほとんどの武器屋に売ってなかったので作っていただけないかと思いまして。」
「なるほどな。ここの鍛冶屋の7代目店長のシンディだ。シンって呼べ。にしても、鎌か…。なんでそんなもんが欲しいんだ?でかいし、重いし、扱いにくいだろ?」
「それがな、リヤに適性があった職業が鎌闘士ってやつで、鎌を武器として使う職業なんだよ。」
「なるほどな。それで、店に無いから作ってもらおうって事か。いいぜ、作ってやるよ。」
説明したかったことを全てジェシカが簡潔に話してくれた。その説明で理解したシンが作ってくれるそうだ。話がトントン拍子で進んでいて少し不安になるが、大丈夫だろうか。
「出来上がり次第、ジェシカに伝えるからそん時に金を持ってこいよ。今日はもう暗くなるから帰れ。」
「分かりました、ありがとうございます!」
シンに頭を下げ、ジェシカと宿屋に戻る。夕飯までの時間潰しが有意義な時間になった。どんな武器が出来上がるのか今から楽しみだ。
宿屋に戻り、ヒルダさんの好意で風呂に入らせてもらうことになった。
元いた世界では、時々水を浴びることは許されたが、お湯に浸かるなんてもってのほかだった。前に採取依頼が上手くいかなくて収入が少なかった時に、父親に熱湯をかけられたことがあったから、お湯は熱湯というイメージが強い。火傷をしないか少し心配だ。
服を脱いで籠に入れ、体を水で流してからお湯に浸かることにした。火傷する熱さだった時に少しでも体を冷やしてから入れば、軽く済むのではないかと思ったからだ。
湯船につま先からゆっくり入っていく。思っていたよりもお湯は熱くなかった。熱いというよりも、温かく優しい温かさだった。こんなお湯が存在したのか。驚いて体が跳ね上がった。
腰を下ろし、浴槽に凭れた。今日1日の疲れが、お湯に溶けていくような感覚になった。いつまでも浸かっていたい気持ちになる。人生で初めて入ったが、私は風呂が好きなようだ。
ヒルダさんが作ってくれた夕飯が待っているので、早めに浴槽から出て体を洗って、風呂から出た。正直、もう少しだけ湯船に浸かっていたかった。
「上がってきたね。ちょうど夕飯が出来たところだ。さぁ、召し上がれ!」
美味しそうな鶏肉が乗った皿を机に並べながらヒルダさんは言った。私が出てくるのを計算して夕飯を作ってくれていたようだ。
私は料理が並べられた机の前の椅子に座り、「いただきます」と手を合わせてから、料理に手をつけた。
どれもが暖かかった。冷めている料理なんてひとつもなく、温かくて、暖かかった。こんなに美味しいご飯は初めて食べた。食べているうちに涙が零れてきた。
「泣くほど美味しいかい!嬉しいねぇ。ご飯は逃げないから、ゆっくりお食べ。」
泣きながらご飯を掻き込むように食べていた私に、ヒルダさんは優しく声をかけてくれた。その声にもっと涙が溢れてくる。
ここの世界の人は、優しい。優しすぎる。悪魔だ、化け物だと言われて育った私は、この世界の人の優しさを素直に受け取ってもいいものなのか。ギルドの受付嬢、ギルドマスター、ヒルダさん達から貰ったものは、本物の優しさなのか、裏がある優しさからなのかが分からない。
本物の優しさだったら良いな。そう思いながら完食した。
「ご馳走様でした。すっごく美味しかったです。こんなに美味しいご飯、初めて食べました!」
「いつも美味しいって言ってくれる人はいるけど、泣きながら一生懸命食べてくれた子は、あんたが初めてだよ。ありがとうね。」
精一杯のお礼を伝えて、軽く談笑してから借りた部屋に戻った。簡素な部屋だがベッドはふかふかだし、小さな暖炉まで付いているいい部屋だ。
私はベッドに横になり、これからどうするか考えながら眠りについた。




