神話
「そうか、そんな事が……。分かった。君の種族について私が知っている事を話そう。
今よりはるか昔、神がこの世を統べていた時代。多くの神は能力に多少の差はあれど、気にすること無く仲良く過ごしていた。ある星空が輝く夜、神々は集まり酒を交し、雑談を楽しんでいた。
しかし、ある1人の神の言葉により、穏やかな空気が一変した。酒に酔った勢いで
「私が全ての神の中で1番の能力と権力を持っている。お前達のつまらぬ集会に毎度仕方なく参加してやっているのだ。」
と、言い放ったのだ。
前者の言葉で神達は自身を見下されていたことに傷つき、後者の言葉で楽しい空気を台無しに、大勢の神が楽しみにしていた集会を侮辱された事に怒った。
しかし、集会には何百、何千、何万もの神が集まる。空気を壊した神と同意見の神達も当然存在する。
その場で口論が始まり、血の気の多い神達は喧嘩を始めた。それが次第に大きくなり、いつの間にか戦争での権力争いにまで発展してしまった。
神は死ぬ事がない。故に相手の口から「まいりました。」と出るまで血が流れ続ける。
穏やかな街並みは血の匂いが立ち込める廃墟に変わり、神々が集会で使用していた会場は拷問部屋へと変わった。
血で血を洗う戦争に終止符が打たれたのは戦争開始から何百年と過ぎた時。2人の神、戦神と竜神が強制的に戦争を終わらせたのである。
戦神とは、戦争への参加はしない穏やかな性格の持ち主であり、集会の主催者である。戦いでの圧倒的な力はあれど、私利私欲の為に振るうことはけしてしない優しき神である。
竜神とは、好戦的な性格ではあるが、親友である戦神がこの戦争を嫌がっていたため戦争へは一切関わっていない、友人思いな神である。この神も戦神と肩を並べる程の戦いでの力を持っていた。
2人の神はこの戦争に飽き飽きしていた。個によって得意な能力が違うため、能力の差や権力などは意味を持たないという事を知っていたからである。
2人は戦地に赴き、戦っていた神々を次々にのしていった。武力でこの2人に叶う神などいないのだ。
こうして何百年と続いた各地に拡がっていた戦争は、ものの5日で血を一切流す事無く終わりを迎えた。
しかし、戦争を終わらせただけで、また戦争が始まってもおかしくないと考えた2人の神は、戦争を引き起こした神々にこう告げた。
「権力は意味を持たない事に気づくのを待っていたが、その日は来なかったようだ。そしてこれからもそなた達が気づく事はないだろう。もう二度とこの穏やかで美しい世界を血で汚して欲しくは無い。よってそなた達を別世界へ追放とする。」
こうして新たな世界が生まれ、戦争を引き起こした神々は新たな世界へ追放されたのだった。
それからまた何百年と経ち、改心した神々が2人の神に「そちらの世界へ行き来できる道を作りたい」とお願いをしてきた。
新たな世界での出来事をこっそり見守っていた2人は、これを了承し扉を作った。
そして、神々が再び悪さをしないよう、戦神は毛先が水色の白い髪に赤い目を持つ自身の分身、アーレウスを、竜神は稲妻の角に黒く輝く鱗、金色の目を持つ自身の分身、テュラニスを生み出し、世界が乱れぬよう守り続けた。
時が経ち、神が世を統べる時代から神々の分身が生み出した人間達が世を統べる時代になった今も、戦神と竜神の分身はこの世界を守っているのだ。
という話だ。これがただの伽話ではないと、君達2人を前にして思ったのだ。世界を戦争から救い、平和を守ってきた2人の神から産まれた分身と、姿がそっくりだからな。もし分身では無かったとしても、その一族である事に変わりは無い。そんな君達にはこんな金、端金なのだ。」
私達の種族についてと、この世界が2つに別れたきっかけである神話をアルフォンスは食い気味に語った後、報酬の入った小箱を小突いた。
童話のような話であるから信用した訳では無いが、もし仮にこの話が本当であるとするならば、私の種族は戦神の一族という事になる。自分の戦闘の力が受け継がれてきたものなどと聞いても、いきなり信じられるものではないし、信じる気にもならない。
とりあえず話の内容を頭に入れておき、渋々報酬を受け取る。
「とりあえず報酬は受け取りますが、成功後の追加報酬は受け取りません。私達では扱いきれないので。それに、いきなり神の一族だ、などと言われても信用できませんし。今日はこれで失礼します。」
こっそり小箱の中身を少し取り出し、影を経由してアルフォンスの机の中へ移す。いきなり今後一生遊んで暮らせる金を渡されても困るだけなのだ。いくらそういう依頼だとしても、嬉しさよりも疑心が勝り、正直に受け取れない。
ソファから立ち上がり、2人を連れてギルドから出る。外はすっかり暗くなっており、人気も少ない。
情報収集は明日に回し、今日は宿に戻って休むことにした。
報酬を受け取った日から10日が経ち、オークションが開催される日になった。
朝食として朝から少し高めのステーキを食べて腹ごしらえをし、アルフォンスに言われたドレスショップへと向かう。一応ティアに隠蔽スキルをかけて。
「おはようございます。ギルドからの紹介で来ました。レイと言います。」
扉をノックして返事を待つ。ここのドレスショップは一見さんお断りの店で、誰からの紹介で来たのか、それが本当なのか確認が取れないと入店すらできない仕様になっている、とても厳重な店だ。
「お待たせ致しました、レイ様、クロウディア様、ティア様。どうぞ中へお入りください。」
ノックしてからしばらく経ち、ようやく扉が開く。中から顔を出したのは、ボサボサの頭に大きな隈をこさえたエプロン姿の女性だった。店の外観とはあまりマッチしていない。
促されたまま中に入り、待っていろと言われたから大人しく支持に従う。
(結構大変そうだな、この店。)
(入店方法が特殊だし、依頼も高価なのが多いんじゃないか?)
(休ンデ無サナソウ。大丈夫カナ…?)
珍しくティアが人を心配している。それほど他人の目には不健康に映る見た目をしていた。
手土産でも持ってくればよかったと少し後悔をしていれば、奥から3つのドレスとアクセサリーがかかったハンガーラックを引きずりながら、店主が現れた。
「お待たせ致しました。……あー、もう面倒くさいから素の話し方でいいよね。貴族じゃなさそうだし…。」
ボソッとそう呟く店主はピンと伸ばしていた背筋を丸め、精一杯開かれた目はじっとりとした目付きに変わった。相当頑張っていたようだ。
「クロウディアさんの方から着付けていきますね。店員は私1人なので、時間かかりますけど。じゃあ、これ。更衣室でこれだけ着てきて下さい。」
店主がシャツとスラックスだけ渡し、更衣室にクロを押し込む。少しして着替えて出てきたクロは、まだシャツとスラックスしか変わっていないのに雰囲気が若干異なっていた。
「では、ここからは私が着せていくから、指示に従って動いて。」
そう言うと店主はテキパキとクロに服を着せていく。さっきのダラダラしていた店主と本当に同じ人物かと疑うくらいに、クルクルとよく動く店主によってあっという間にクロの着替えが終わった。
腰あたりまでの深緑色のコートに赤いタイ、前を開けるように付けられた黒い外套。ヘアセットまでされていて、オールバックになっている。
「終わりです。」
「良いじゃん。どこぞの貴族って感じ。」
ちょっと意地悪をしながらクロを褒める。クロは「やめろ」と言いながら、ふいと顔を背ける。しかし満更でも無さそうだ。
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