疲労困憊
街に1歩入れば外の空気とガラリと変わり、発展した街特有の空気になる。簡単に言ってしまえば汚れ空気だ。
回らない頭でなんとかギルド付近の宿に部屋を取り、荷物を置いて上着を脱ぎベッドにダイブする。ベッドに沈んでいく感覚がとても心地よく、そのまま目を瞑れば眠ってしまいそうになる。さすがにベトベトの体のまま眠る気にはなれないから、襲って来る眠気を押し返し体を起こす。
ティアを影から出し毛布をかける。
「先に風呂入ってくるわ。」
「おう。鍵2つ貸してもらったから持っていけ。俺も風呂行くから。」
投げられた鍵を受け取り、タオルと着替え、それをいれる袋を持って部屋を出る。
ここは部屋に風呂やシャワーは無く、皆で入る大浴場がある宿だ。
脱衣所について服を脱ぎ、体を洗ってから湯船に浸かる。体の疲れが湯に溶けていくように、じんわりと抜けていく。さっき必死で押し返した眠気が再び襲ってくる。
「おとなり失礼するわね。」
「…あぁ、どうぞ。」
湯船の端でウトウトと船を漕いでいたら、ヒョウの耳と尻尾の生えた女性が隣に座った。開けられるスペースも無いため、軽く返事をするだけにした。
「あなたも冒険者?よね。体は傷だらけだし、線は細いけどしっかりしてるし。私ここの隣の食堂の娘なの。この辺り最近酷く物騒だから気をつけてね。」
「物騒?」
「そう。知らない?不死の森の近くに、人や魔物を取り込んで瘴気を放つ巨大な蜘蛛が出るらしいの。まだ噂だから本当かは分からないけど。」
まだ眠気でぼんやりする頭を叩き起し、気になる話を持ちかけた女性に耳を傾ける。
きっとシュピネベルクの事だろう。しかしもし奴の他にそんな魔物が付近を闊歩しているのだとしたら、この街は結構危険な状態だ。私には関係ない事だが。
そろそろダンジョンに潜って、新しい魔石を見つけないと生きていくのですらきつくなりそうだ。部屋に帰ったら2人に相談した方が良さそうだ。
「情報ありがとう、気をつけるよ。」
「えぇ。お礼に明日にでも隣の食堂に来てよ、サービスするわよ。あなた細いから、街の外に出てそんなら魔物に出くわしたら直ぐに死んじゃいそうで心配。」
「あの子、冒険者だって。弱そ。」
「パーティに寄生してるんじゃない?じゃないとあんな子、この街まで来れないでしょ。」
「ありがとう」と返そうとした時、小さい声でそんな会話が聞こえてきた。こちらをチラチラと見ながらクスクス笑う2人がきっかけとなり、次々と「パーティメンバーに守ってもらってるのね」だの「ただのお荷物じゃん」だの「メンドくさそ」だのと聞こえてくる。そんな奴らに腹が立ったのか、隣の獣人は文句を言おうと立ち上がるのを阻止する。
「なんで止めるのよ。言われっぱなしじゃ悔しいじゃない!」
「貴女が気にすることじゃない。ありがとう。」
怒ってくれた事に礼を言って、浴場を出る。あぁ言う奴らは相手にするのも馬鹿らしく。
「ね、ねぇ。その…今の、気にしない方がいいよ…?」
体の水気を取り服を着て、雑にタオルドライで乾かした頭を鏡の前に座り、風と炎の魔法を組み合わせて乾かしていたら、そう声をかけられた。今日はやけに話しかけられるな。
「別に気にしてない。お気遣いどうも。……まだ何か?」
下を向きながら去る様子も無い、声をかけてきた同い年くらいの少女に目を向ける。何か言いたげだが、モジモジとしていていつまで経っても返事は返ってこない。
髪も乾いてやる事も無くなったから、荷物を取りにロッカーに戻ろうと歩き出す。
「ま、待って!あなた強いんでしょ!?私に戦い方を教えて欲しいの!私、戦えないからずっとパーティのお荷物になってて、ここに辿りつくのだけでも精一杯だったの。これ以上パーティに迷惑かけたくないの…!お願い!私に戦い方を教えて!」
服を掴まれ後ろによろける。いきなり話しかけてきて、戦い方を教えろとは、だいぶ図々しくはないだろうか。知り合いだったらメルディアの時のように軽く話すことはするが、初対面の奴に教える義理なんてない。ギルドに向かう時間になるまで休もうと思っていたから、これ以上話もしたくない。
「ちょっかい掛けられてる私に勝手に自分を重ねてるの丸わかりなんだけど。あんた事なんか知らないし。強くなりたいなら1人でダンジョン潜れば?嫌でも強くなるよ。」
掴まれた服を引っ張って手を振り払い、ロッカーから荷物を取り出してそう一言放つ。
呆然と立ち尽くす少女を置いて脱衣所を出る。我ながら酷い対応だとチラッと思うが、最初に話しかけてきた彼女の顔に「可哀想」「私と同じ」と書いてあって腹が立ったのだ。お互い様だろう。
遠くから悪口を言ってくる奴らは無視をしておけば勝手に飽きて離れていくから放っておけばいいが、勝手に同情して絡んでくる奴はいくら無視をしても付き纏ってくる。そういう奴はさっさと突き放した方が楽なのだ。
「戻ったぞ。」
(オカエリー!)
私がかけておいた毛布を振り回して遊んでいたティアが、返事をよこす。骨だから顔色は分からないが、元気に遊んでいるから体調もだいぶ回復していそうだ。
ティアの両頬を撫で回す。嬉しそうな顔を見ていたら、先程の嫌な出来事など記憶から吹っ飛んでいった。
毛布の端を掴み、引っ張り合いをして遊ぶ。ティアの力が強く、体全体で引っ張らないと振り回されそうになる。
「……随分楽しそうだな、2人とも。」
本気になってきたティアティアに対抗して、私も影を使って全力で相手をしていたら、いつの間にか帰ってきていたクロから暖かい声が飛んでくる。
「おかえり。ちょっと交代して。」
(オカエリ!遊ボー!)
「ただいま。レイは非力だからなぁ、俺が相手してやるよ。ティア、外行こうぜ。」
(瘴気でまだ調子でないだろう?帰ってきたら起こすから、ちょっと寝ておけ。)
呆れた顔から一転、人をからかう表情に変わり少しムッとしたが、念話で送られてきた言葉でその表情に納得し、念話でお礼を言ってから2人を送り出す。
「耐性が上がったとはいえ、まだLv3。ティアの本気の瘴気をまともに喰らっていたら即死だったな。危なかった…。」
クロの言葉に甘え、ベッドに横になり眠くなるまでの間、自分のステータスを確認する。不死の森で瘴気耐性が一気に2つ上がりティアが影の中に居たから死ななかったものの、もしティアが外に居て、耐性が上がるのが遅かったら間違いなく…。考えただけでもゾッとする。
不穏な考えを振り払うため、寝返りをうって布団を抱きしめ、3度襲ってくる眠気に身を任せる。
「戻ったぞー…。…ティア、レイが寝てるから静かにな。」
(ワカッタ。時間?マダ平気?)
(あぁ。あと20分は平気だ。ギリギリまで寝かせておこう。)
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