不死の森
(早イー!気持チイー!)
「馬車よりも早いし、乗り心地も最高だな。」
「…そりゃどうも。」
ティアとの話を一旦区切って少し休んだ後、竜化したクロの背に乗りフィラジエールへと向かう。
羽ばたく時以外の揺れは一切無く、流れていく風がとても心地良い。下を覗き込むと、ドラゴンの影に驚き逃げいく小さな魔物たちが見える。影を動かして少し追いかけてやろうかと思ったが、影遊のレベルが足りないのかクロの影を動かすことは出来なかった。自分と接触している影以外はまだ動かせないようだ。
黒く輝くクロの鱗の上に座っていると、照り返しが眩しい。意外とする事も無く、暇だとぼんやり辺りを眺めたり、流れる風を集めては散らしたり、ティアにそよ風にして送ったりして遊んでいた。
「街が見えてきたから下りるぞ。」
「しっかり掴まっておけよ。」と言ってから、クロは翼をたたみ森の中へ急降下する。影で私とティアをクロに固定したから落ちはしなかったが、強風で飛ばされそうになった。
地面が近くなり、1、2度羽ばたいて勢いを殺してからクロは竜化を解いた。
「こっちに真っ直ぐ歩いて大体2時間くらいで着く。」
「了解。」
クロが示した方向へ、空の移動で眠くなり重くなった体を動かし歩き出す。
森は普通は、鳥の声が聞こえたり風に揺られる木の音が聞こえたりするはずだが、この森からはなんの音もも聞こえない。水滴が浮かぶ森もあったから、そういう地なのかもしれないが、明らかにおかしい。不気味すぎる。
「ん…?大丈夫か、ティア?」
しばらく歩いているうちにティアが息切れを起こした。いつもの元気は無く、どことなく苦しそうだ。体力は私達よりもあるはずだから身体的な疲れでは無いだろうから、心配になる。
(何カ変…。レイ、影ノ中入ラセテ。チョット疲レタ…。)
座り込み必死に呼吸しながら話すティアに、水を渡してから影の中に入れる。
「いつから具合悪くなったか分かるか?」
(チョット前…。)
「うーん…。クロの背に乗った始めの時は楽しそうにはしゃいでいたから…。この森の近くになって段々静かになったかも。」
森の上空に来る前から少しずつ口数が減っていったのを思い出し、それを伝える。この森のせいだ。
2人で顔を見合わせ、アイコンタクトで早く森を出ようと伝える。クロが頷き私の意見に同意した。それを確認して走り出そうと踏み込んだ時、周囲の地面から何かが這い出てくる音が聞こえてきた。
「なるほどね、だからか。」
後ろの茂みから姿を現したのは、腐った人間に溶けた魔物。つまり、ここはアンデッドが大量にいる森だったのだ。
囲まれる前に走り出す。後ろから横からと次々にアンデッドが這い出てくる。人型の方が多いからきっと世界が融合した後、魔物から逃げられなかった奴らだろう。
影の中の瘴気が段々強まっていくのに焦りを感じながら、森を抜けようと走る。影の中に入った方が早いのだが、今中に入れば混乱したティアと戦わなければならなくなる為入れない。
私の耐性を上回る瘴気に体力を奪われ、汗が滝のように流れ始める。
影から出てこようと暴れるティアを抑えつけながら走っていると、何かに足を取られ地面に顔を打ち付ける。
「レイ!」
クロの焦った声に平気だと返し、上半身を起こして足元を見る。泥と肉でぐちゃぐちゃになった手が私の足を掴んでいた。
「キショい!!」
苦しんでいるティアの為、一刻も早く森を抜けたかった。それなのに足止めをしてきたアンデッドに腹が立ち、軽い暴言と共に火力を高めたファイアボールを放って、足をつかみながら顔を出し始めたアンデッドを焼き払う。
「クロ、光系の魔法持ってないのか!?」
再び走りながら、クロに聞く。アンデッドは光系の魔法が弱点だと本に書いてあったのを思い出したのだ。
「残念だが持ってねぇな!レイは持ってねぇのかよ!?」
「持ってても職業的に使えない!」
私の職業である鎌闘士は炎と闇に適性があり、水と光には適性がない。適性がないだけで使えはするのだが、他の人が使えば水の刃となるアクアカッターは、私が使えばただの水溜まり生成魔法と化す。光系の魔法でもきっと同じだろう。他の人が使えば光で浄化できるだろうが、私が使えばただの豆電球だ。使えばするが威力が激減するのだ。
周りのアンデッドを焼きながら走る。ファイアボールを放ちながら後方のアンデッドを、火焔の鎌を使いながら前方のアンデッドを焼く。この間にもティアは暴れ続けているのでそれも抑える。ティアの方に意識が持っていかれているから、焼く方はてきとうだ。クロがブレスとファイアボールで掃除し、雷で牽制もしてくれているから、非常に助かる。
体力が限界に近くなり足が縺れ始めた頃、薄暗かった森の前方が明るくなってきた。
「待て、止まれ!」
急に出てきたクロの腕に止められ、勢いが殺せずに前のめりになる。一瞬気が緩みティアが影から出そうになったが必死に抑え、前方に目を向ける。
「はっ、囲まれてるじゃん。」
前にも横にも大量のアンデッド。探索スキルを使ってみれば、頭に浮かぶマップ全てが赤丸で覆われていた。軽い絶望に思わず笑みがこぼれる。
「一掃できるスキルなんて持ってないぞ。」
「…レイはティアに集中しててくれ。俺がやる。」
そう言った瞬間にクロは竜化し、辺りに大量の雷を落とす。大量すぎて地面が揺れ動く程だ。
私の耐性レベルが上がったのか、瘴気で奪われる体力が減り頭がだいぶスッキリしてきた。雷に当たらないよう土を操作し、ドームを作る。周囲をクロに任せ、奪われた体力を少しでもと回復させる。森の出口が近いからかティアの動きが若干大人しくなっている。今ならそんなに意識を向けなくても平気そうだ。
6つのファイアボールを準備しながら、ドームを壊す。陽の光で目が眩まないようにと閉じていた目を開くと、ちょうどクロが最後の一体を爪で切り裂いた所だった。
「声かけるまで出るなよ。危ないだろ。」
「ティアがだいぶ落ち着いたから平気だと思って。ごめん。」
竜化を解きながら眉をひそめたクロが、私に注意する。確かに1人で片付けられてしまったから心配は無用だった。反省しよう。
「いいよ。さっさと出よう。」
「うん。」
森を抜け、向こうの世界の街が廃れて出来たようなコンクリートの道を、クロにMP回復薬を渡しながら歩く。ティアもすっかり落ち着き今は眠っているようだ。相変わらず瘴気は出ているが、量も少ない。完全に抑えることはまだ出来ないようだ。
「レベル上げには丁度いいが、もう二度と入りたくないな、あんな森。」
「同意見だな。」
欠伸をしながらのんびり歩く。緊張がほぐれ、襲ってきた疲れのせいで頭が回らず、会話は「腹減った。」「肉、果物。」「ん。」というような単語のみだった。
「お、アレじゃないか?街。」
ツタや苔で覆われたコンクリート街の中に小綺麗なレンガでできた街が見えてくる。融合の影響が少なかったのか、だいぶ発展しているように見える。
街に着いたら真っ先にギルドへ向かってくれと言われているが、今依頼の内容や説明を再び聞いても絶対に頭に入ってこない為、先に宿を探して夕方まで休むことにした。
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