束の間の癒し
村が安全になった事を喜び、村人達は小さいながらも宴を開いた。
宴の中心にいるティアは大喜びで塊の肉に食らいつき、クロは両手に収まりきらないほど巨大な盃で酒を飲んでいる。とっくの昔に成人を迎え、私と同じように毒耐性が高いからいくら飲んでも問題ないそうだ。私はそのクロの隣にいたが眠くなったからと、クロの背中を借りて軽く眠った。
肌寒くなり目を覚ますと、周りはすっかり暗くなり村人達も部屋に戻らずその場で眠っていた。
「何度も言うが、お前はラモンには連れて行かない。」
静かなクロの声が響く。相手はあの獣人だろう。マザーの討伐を終え、村に戻ってからずっと近くで気配がしていた。面倒臭くなりそうだったから、話しかけるタイミングを潰していたのだ。
「どうしてよ!僕も強くなりたいんだ!お姉さんみたいに人を守りたいの!」
「それで付いて来るって?あそこ周辺の敵の強さも知らずに?」
「僕だって、魔物を追い払ったことあるんだよ!?倒すくらい僕にだってできるよ!」
「…あのな、なんでレイがお前をマザーの所に連れて行かなかったか、分かってるのか?危ないからじゃ無いんだよ。"邪魔"だったからだよ。俺もこいつも鑑定のスキルを持ってる。周りの雑魚のレベルは大体30〜40程度。マザーは45。お前はたったの10。戦い方も覚えてない、自分の腕を過剰に信用した奴を連れて行っても荷物になるだけなんだよ。それに今のラモン周辺の敵は平均60。Bランクの冒険者がパーティ組んでようやく一体倒せるか倒せないか、だ。そんな奴らがうじゃうじゃいる所に、たったの10しかないやつが生きていけると思ってんのかよ。助けてもらった命をドブに投げ捨てたいんだったら、止めねぇけどよ。」
「じゃあ…じゃあ僕は、このまま村で呑気に瓦礫どけてなきゃいけないの?」
「別に村から出るな、なんて一言も言ってねぇよ。周囲の森で特訓でもいいし、ウルティの街に行って実戦でもいいんじゃねぇの?そこら辺は自分で考えな。」
クロの一言に考え込むメルディア。何だかんだ言いながらもヒントを散りばめている辺り、クロはメルディアの事を気にかけているんだろう。
会話はそこで終わり、また静かな夜が訪れる。また眠気に襲われ、膝の上で眠っているティアをひと撫でし眠りにつく。背中の人より少し低い体温が心地いい。
朝日が昇ると共に目が覚める。クロと出会ってから寝つきも夢見も良くなったような気がする。クロとティアを起こさないよう伸びをして、のんびりと空を眺める。
向こうの世界では味わえなかった澄んだ風を浴びながら、手の中で魔法の練習を行う。今やこの練習は日課になっている。
魔法を組み合わせてみたり相殺させて遊んでいたら、ティアが目を覚ました。おはようと挨拶を交わし、私の魔法遊びにティアも加わりしばらく遊ぶ。
ティアが水を出し、私が風で吹き飛ばして遊んでいた時だった。天然の風がティアの作った水の球を私の方へ吹き飛ばし、水浸しになる。2人で静かに笑っていたら背中からピリッと軽い電気が流れた。
「人が気持ちよく寝てる所に水掛けやがって…!」
「やっべ起きた!」
(逃ゲロー!)
クロから離れティアに跨り森へ走る。すかさずクロも半竜化し腕に纒雷を使いながら追いかけて来る。
土操作で妨害したり下手くそな水魔法をクロに浴びせたり、飛んできた雷に感電したりティアから転げ落ちたりして、朝からはしゃいだ。贅沢な時間だ。
ひとしきり遊んだ後は濡れた服を風の魔法をうまく調節して乾かし、朝食を取り、村人に挨拶をして回ってから馬車に乗り込む。行きと同じように座席に毛布を敷き揺れ対策をしてから座る。
「お姉さん!お兄さん!僕、ちゃんと強くなって会いに行くからね!」
馬車内にメルディアの声が飛び込んでくる。昨晩のクロの言葉が効いたんだろう。これからどうするか、自分でしっかり考えた事を村から声を大にして伝えて来る。頑張れよの意味を込めて窓から手を出して振る。
馬車が走り出してからは、朝と同じように魔法の練習をしたり、3人で妨害しあったりしながら日没後にラモンに戻った。
ギルドに向かい、依頼達成の報告と、ペリュトンが湧き出る原因を、マザーの肉片を渡しながら伝えた。すると受付嬢は顔を青くしながらすぐに謝罪を述べる。
「申し訳ありませんでした。こちらの情報不足であなた方をAランクの魔物の巣へ放り込むことになってしまい、本当に申し訳ございませんでした。」
Aランクの魔物とは、今まではAランクの冒険者であればパーティを組んで数分で倒せるくらいの魔物の事である。しかし世界がおかしくなった今、前のランクの基準となったものは意味が無くなってしまった。
そして本来ならAランクに上がるためのランク試験では、そんなランクの魔物を倒せという試験は無いようだ。
受付嬢の話を聞く限り、今までペリュトンのランクはCでマザーの確認はされていなかった。異変が起きたあの日の前日にも試験から帰ってきた冒険者から話を聞いてもマザーの話は出てこなかったようなのだ。まぁ倒せたのだから私にはあまり関係ない話だが。
ランク制度を今一度見直すと再度謝罪され、「あぁ、はい。」と適当に返事をし宿を探しにギルドを出る。辺りはすっかり暗くなり騒がしいラモンも落ち着きを取り戻しつつある時間だ。この時間からはいい宿などそうそう見つからないので、近場にある空いている宿に入り、部屋で夕食を済ませる。
「マザーってそんなに強い奴なのか?話聞いた感じ雑魚っぽかったけど。」
着替えを済ませ、後は寝るだけだとベッドに横になりグダグダしていたら、クロがそう話を振って来る。
「いや、全然。HPが高すぎるだけで一気に圧縮したら死んだし…。強かったイメージは無いけど。」
(周リガ煩カッタケド、弱カッタヨ。)
「だからランクの見直しって言われても…なぁって感じ。」
「まぁ、向こうの世界と融合しちゃって、雑魚のスライムも大人5人がかりじゃないと倒せないって言うくらいだし、見直しは良いんじゃないか?俺達にはあまり関係ないし。」
「確かに。」
ランクの見直しがされ、今一番上がSSだがその上が増えたとしてもあまり私達には関係がない。
今は何となくで旅をしているが、明確な目標ができたらその時障害になる奴らは蹴散らすつもりだ。こいつらは強いから逃げようという発想は、腕ウサギと対峙した時に既に頭から消え去っている。どんなやつでも死ぬ気で潰すつもりだから、ランクは関係ないのだ。
話を終わらせ、布団を被る。明日は鍛冶屋に行って武器を受け取って、ギルド長に会いに行って依頼の内容を聞いて、とやる事が沢山ある。どこから回るのが効率がいいか考えながら眠りに落ちた。
翌朝、支度をし露店で朝食を買って食べながら鍛冶屋に向かう。結局4日経ってしまったがヴァルドは怒っていないだろうか。
鍛冶屋の扉を開け近くにいたドワーフに教えてもらった通りにお願いをする。
「こんにちは。ヴァルド爺を呼んでくれ。」
「おぉ、それじゃあんたらが!待ってな、すぐ呼んでくる。」
いい笑顔でサムズアップをしてすぐに呼びに行ってくれた。
「前も思ったが、顔の広い人なんだな。」
(ココノボスダッテ聞イタ!)
「なるほどねぇ。」
「よぉ!遅かったじゃねぇか!」
奥からヴァルドが2人のドワーフを侍らせやってきた。
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