マザー
影の中に入り移動したままペリュトンを切り裂き、影で握り潰し、土で圧縮していき、次々と群れを潰していく。倒した数は数十体。周りの反応はほとんどないが、スタートダッシュが遅れたからティアよりも倒した数は少なそうだ。
影に突っ込んだメルディアはなんとなく状況を理解した様で、今は影の中で座り静かにしている。
そろそろ倒したペリュトンの数が50に到達しそうな時、頭に浮かんでいる地図の端に大きな反応があることに気づいた。手にかけていた群れを片付けながらその反応に注意を向けていたが、一切動かない。何かありそうだ。
(ティア、聞こえるか?村から南東の方角にデカい魔物を見つけた。一区切りついたら向かってほしい。)
(ワカッタ!レイモ来ルノ?)
(今片付けているのが終わり次第向かうつもり。)
(ワカッター!)
念話でティアに指示を出し、最後の一体の首を落とす。
村の周りに異常な数の魔物がいた為、クロも防衛で手一杯だろうから、念話で村の南東に大きな反応があること、今からそこに向かうこと、必ず帰る事を伝えてメルディアと共に一度影から出る。
「今からデカい魔物のところに行く。君は今から村に行って、その事を伝えてきてほしい。」
「でも、僕も戦えるよ!ここに来た時、いっぱい魔物倒して村を助けたんだよ!僕も行く!」
「その時の記憶はあるのか?どうやってここに来たのか、どうやって大量の魔物を倒したのか。全部覚えているのか?」
「そ、それは…。」
少し意地悪いが、食い下がってくることは予想していたから、村長が言っていた事をそのまま突きつける。
いくら周りのペリュトンが雑魚だったと言っても、あの巨大な反応を出す魔物も雑魚とは言えない。もし巨人やタングルの様な厄介な魔物だとメルディアを庇いながら戦う余裕など無くなる。だからここで帰ってもらわなければ困るのだ。
「君にしか出来ない事だ。やってくれるね?」
「…うん。うん、分かった。伝えてくる。」
「ありがとう。」
再びメルディアを影にしまい、出来るだけ村に近づけてから取り出す。周りに魔物がいないことは分かっているが、念の為だ。
影に入り大きな反応の方は向かう。荷物がなくなり軽くなったから、さっきよりもスピードが出る。
目的地に到着し、ティアと合流し茂みの中から魔物の様子を見る。
巨大な反応を出していたのは、ペリュトンとほとんど見た目をしている巨大な魔物だった。大きさは竜化したクロの3倍くらい。5階建てビルくらいの大きさだ。明らかな違いは身体にある無数の目と、手足が存在しない事だ。中々に気持ち悪い。
巨大な魔物を数えきれない程のペリュトンが囲んでいる。観察している間もその数は増え続けている。
(ティア、前にタングルを殲滅したやり方覚えてる?)
(ウン。雨ヲ、ドバババッテヤッテ、氷ヲ、ジャジャジャッテヤルヤツダヨネ?)
(そう、それ。周りのやつをそれで片付けよう。私も手伝おう。)
(ワカッタ!)
ティアの説明は擬音語が多くて分かりにくいが、あのやり方は覚えているようだ。それがわかれば十分。
群れの上空に雲が集まり出し、雨が降る。私はティアと共に影に入り群れに気づかれない様出来る限り近づき、纒雷を発動。クロの様に焼け焦げるほどの高威力にはならないが、火傷を負うくらいの威力を出す。
周りが完全に水で濡れた頃、氷の槍が降り注ぐ。前よりも広範囲だから撃ち漏らしが少しあるが、そこを私が影で仕留める。
倒しても倒しても数が減らない。襲撃開始から約20分。村を囲っていたペリュトンもこちらに加わっているが、これくらいの雑魚ならとっくに殲滅し終わって、中央のやつに手をかけている筈だ。おかしい。
(ネェ!アイツ、ズット子供産ンデルヨ!)
「は?マジで!?」
ティアの言葉通り、中央のやつは延々とペリュトンを産み出し続けていた。しかし、産んでいる子供の形がどこか歪になってきている。足が一本足りなかったり、目がなかったり。酷い状態のやつは顔がない。産む数よりも殺される数の方が多く、適当になっているのか成長しきる前に産んでいるのか。
そんな事はどうでもいいので置いておいて。形が歪なやつらは通常のペリュトンよりもさらに弱く、砕けた氷の槍が少し刺さるくらいですぐ動けなくなる。周りはほぼ形が歪なやつしか居なくなり、相手の防御が薄くなった。
巨大なペリュトンに近づきながら鑑定をかける。
『ペリュトン・マザー』と呼ばれる、女王蟻の様な働きをする魔物であり、群れをいくつも形成する魔物には必ず一体はこの『マザー』が居るようだ。
ステータスを見てもHPだけが異様に高いくらいで、その他は周りの雑魚よりも劣っている。ティアの氷の槍のおかげで5分の1程度は既に削れていた。
影から出て一瞬でこっちを見た身体中の目を、気持ち悪いから片っ端から潰していく。ティアにはマザーの周りに瘴気を振りまいてもらっている。巨人のように回復されないように、少ないMPをさらに削ってもらう為だ。ついでに私の瘴気耐性も上がって一石二鳥だ。
目を潰しまわっているのだが、HPを見ても減っているのはごくわずか。マザーも周りも攻撃してこないからゆっくり対処できるので助かってはいるが、ちまちま削ってもキリがない。面倒だからもう一気に潰してしまおう。
「ティア!こいつの真上にこいつと同じくらいの大きさの氷塊作れるか?」
(デキル!)
「よし、私が土でこいつの周りを囲うから、合図したら塊を落としてくれ!」
(ワカッタ!)
ティアに説明した通りに、マザーの周りを隙間なく土で囲う。マザーは今も産み出し続けているから、隙間は存在しなくなる。マザーの2倍の高さで土壁を作り、壁に沿って氷塊も大きくしてもらう。準備完了だ。
「いくぞ!せーのっ!」
「ウォォォォォン!!」
ティアの遠吠えで氷塊が落下し、下にいるマザーに直撃する。重みか勢いが足りないのか、マザーの反応は消えずにいる。もう一度氷塊を作って叩きつけてもらい、上から土で圧縮する。水風船が弾けるような音と、骨が砕ける音が鳴り響き、反応が消える。
土壁を壊し、肉塊の一部を取ってからファイアボールで火をつける。肉塊の一部は村とギルドへの報告用だ。他の素材は取っても大した額にならない為、森で倒し拾っておいた死体も炎の中に放り込む。森に火が移らないようにティアに見張ってもらっているから、遠慮なく散らばる死体にファイアボールを打ち込む。
肉の山が骨の山に変わった所で、土を操作して地面に埋める。マザーのいた場所だけ禿げてしまっているから、少しでも土地の栄養になればと思ったのだ。埋葬したという意味ではない。
ティアと合流し、どちらが多く倒したかの話をしながら村に戻った。決着はついていない。
「お、お疲れ様ー。怪我はしてないか?」
こちらに気づいたクロが歩み寄りながら聞いてくる。村は攻撃されたような痕も見れず何の被害も出ていないようだ。
「お疲れ。私もティアも無傷だ。お前は?」
「こっちも無傷。村にも被害はない。ていうか、レイとティアが大元を叩いてくれてたお陰でこっちに一体も来なかった。」
クロを連れて3人で村長の元に行きマザーの事を報告して、しばらくは安全だろうという結論になった。明日の夕方、予定通りラモンに帰る事になった。
さて、家の陰で話を聞いている獣人をどう撒こうか。
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