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勇者の少年

 声のした方へ目を向ければ、目がこぼれ落ちそうなくらいに見開いた熊の獣人の男の子が立っていた。男の子は持っていた瓦礫をその場に放り捨て、目にまとまらぬ速さで駆け寄ってきて私にタックルをかます。驚きで受身が取れず私はそのまま後ろに倒れ込んだ。ティアが作った即席水クッションのお陰で頭は打たなかった。


「会いたかった!!会いたかったよ、お姉さん!」


 男の子は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、しかし笑顔でそう言った。


「はいはい、まずはレイから降りような。」

(レイ、コイツ知ッテルノ?)

「あー、多分…?向こうの世界の子だ。」


 男の子の首根っこを掴み私から引き剥がしているクロと、隠蔽を解いて本気で威嚇しようとしてるティアにそう返す。


 熊の獣人、そして男の子。身長は高くなっているし、体もしっかりとしているが多分あの子で間違い無いだろう。向こうの世界で、公園で虐められていた彼に。

 ただ、一目見ただけで大泣きしながら抱きつかれるような事はしていないはずだ。いじめっ子を追い払ったのもあの時だけ。私と一緒にいた事であの後さらに虐めが酷くなったかもしれない。


「僕、ずっとお礼が言いたかったの。…あの後、一生懸命、お姉さん探したのに、見つからなくて…。だから、酷い怪我してたから、死んじゃったと、思っ…。」


 首根っこを掴まれ、持ち上げられた状態で経緯を話だし、また泣き始める。とりあえず降ろしてあげて、とクロに念話をし降ろさせる。警戒心が高い状態のティアを私の後ろに待機させ、地面に座り込む。村の人達に目配せをしたら「護衛が依頼だから、魔物が来るまでは自由にしてていいよ。」と一言もらい、話を聞く体勢を整えた。

 私とティア、正面に男の子、斜め右にクロの三角形の形を作り地べたに座る。ちょうど木陰になっていて涼しい場所だ。


「向こうの世界で虐められていた子だ。ちょうど通り掛かったから虐めていた奴らを追い払ったっていうだけだ。…あの後平気だったか?虐めが酷くなったりとかしただろう?」


 クロとティアに彼との関係を話し、気になっていた事を聞く。必死に泣き止もうとしゃくりあげる彼に、飲み水を渡し急がなくていいと伝える。

 クロとティアは2人して念話で「レイならやりそうだ。」とか(アリ得ル。)とか話していた。


「ん、ううん。虐め、無くなったの。あの後、パパ達がお姉さんは悪い人だって、近づいちゃいけないって言われたんだけど、お姉さんは優しい人だよ!って言ったのに…聞いてくれなくて…。だから皆に内緒でお姉さんをずっと探してたんだけど…。」

「見つからなかった、と。」


 クロの言葉に深く頷き、言葉を続ける。


「悔しかったんだ。パパ達皆、優しいお姉さんを悪者にして虐めるから。だから、見つけて、お礼言って、お姉さんはいい人なんだ!って皆に教えたかったの。」

「…そうか。わざわざ探してくれてありがとう。お礼もちゃんと受け取ったよ。」


 泣き止んだ彼の頭を優しく撫でて、礼を言う。彼の中で私がした事は大きな事だったようだ。私的には声をかけたと言うだけの瑣末な事だったし、何度も優しい人だと言われるとむず痒くなる。

 適当に話を切り上げ、逃げるように瓦礫撤去の手伝いに向かう。クロとティアはまだ彼と話したいと言うから置いていく。


「遅れてしまい申し訳ありません。瓦礫撤去と護衛の依頼できたレイと申します。3日間、よろしくお願いします。」

「いいんだよ、気にしないで。勇者様は貴女の事をずっと探しておられていたから…。お話しできたようで良かった。俺はこの村の村長をやってる。つっても肩書きだけだけどな!3日間よろしく頼む。」


 村人達にそう挨拶して回り、案内してくれた人と共に最後に村長へ挨拶をする。村長に3日間使わせてもらう部屋やご飯について教えてもらい、ついでに勇者について聞いてみる。


「メルディア様は、村が壊滅寸前の時に空から降ってきて魔物を蹴散らしてくれたんだけど、どうやって蹴散らしたのか、どうして空から降ってきたのか分からないご様子で。申し訳ないが、勇者という存在については何も分からないんだ。ここは辺境の村。周りには街も港もない。お陰で情報なんて入ってこないんだ。すまないね。」


 聞きたかったのはラモンで会ったあの勇者についてと、他にも勇者という存在がいるのかについてだった。空振りで終わってしまったが、彼、メルディアはただ村を救ったから勇者と呼ばれているだけの様だった。クロを始末しようとする人間が何人もいたら潰すのが大変だったから、ここにはその類がいない様で安心した。

 それからクロとティア2人と合流し瓦礫の撤去、狩りの手伝いをし、あっという間に初日は終了した。


 2日目、クロが買ってきた物と初日に狩って余った肉で朝食をとり、作業場に向かう。初日と同様、のんびりと作業を行なっていた。


「ま、魔物が出たぞ!!こっちに来てくれー!!」


 作業場から少し離れた森から男性の叫び声が響き渡る。3人でその場に急いで駆けつける。

 鹿の頭と鹿の足、そして鳥の体をした魔物が倒れた女性に襲い掛かろうとしていた。ティアが魔物を蹴り飛ばし、その間にクロが女性を救出、私が死神の鎌で魔物の首を切り落とす。

 鹿と鳥の魔物、ペリュトンは群れで襲い掛かってくるという情報がある。姿は首を落とした一体しか見えなかったが、近くにまだ潜んでいるはず。しかし場所がわからない。森に火をつけて炙り出す方法もあるが、この依頼は森と共存しているこの村を守る為の依頼だからそんな愚行は出来ない。群れが襲いに来てくれるのを待つよりこちらから迎えに行った方が、相手にもこちらがどれほど強いか知らしめ、また襲いにくる事を防止できる。


「クロ、索敵出来たよな?私が護衛に移るから、クロとティアで群れを潰してきてほしい。まだ近くにいるはずだ。」

「オッケー。任せ」


 抱えていた女性を旦那と思しき男性に渡し、離れようとした。しかし、助けた女性の子供がクロの服をしっかりと握りしめていた。母を助けてくれた人の側なら安全だと思っているのか、説得しても離す様子はない。


「なら仕方ないな。クロが護衛にまわってくれ。私も索敵スキルを取って群れを潰してくる。」

(マダ近クニイルヨ。早ク行コウ!)


 気配と臭いに敏感なティアが、ペリュトンがいる場所を見つめながら言う。クロから「気をつけて行けよ」と見送りの言葉をもらって森に入る。


 索敵スキルを取り使ってみる。すると視界に映ったペリュトンのある場所が赤く光り出した。頭の中には群れの場所を赤いマークで記された、周囲の地図が浮かんだ。これは便利だ。


「ティア、どっちが多くペリュトンを狩れるか勝負しない?」

(!面白ソウ!負ケナイヨ!)


 ティアが走り出し、私も赤く見えているペリュトンの元へ走ろうと踏み込んだ瞬間、頭の中の地図に青のマークが表示された。なんだと振り返ってみれば、そこにいたのはメルディアだった。


「あの、僕も連れてって!僕もお姉さんみたいに強くなりたいんだ!」

「……別に良いが、今日は見てるだけにしてもらうぞ。それでもいいなら。」

「うん、それでもいい!」


 早く狩りに行きたかった私は、返事を聞いた瞬間にメルディアを影に突っ込み、私も影に入り移動を始める。走るより影を移動する方がずっと早い。私だってティアとの勝負、負けたくないのだ。

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