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辺境の村

「次は武器だな。鉱石がまだ余ってるからそれを使って新しく作る。後は兄ちゃんからの依頼だな。全部で2日から3日くらいかかるから、のんびり街でも回ってきたらどうだ?戻ってきたらヴァルド爺を呼んでくれって言え。」

「それがおっさんの名前か?」

「そうだ、自己紹介が遅れて悪かったな。ロザイアが名前を教えてると思ってた。」


 もう一度私達も自己紹介をし、頭を下げる。驚いた顔をしヴァルドが口を開く。


「レイの嬢ちゃん、1ついいか?」

「何でしょう?」

「苗字は無いか?」

「…?名前だけで、苗字はありませんけど。」


 眉に皺をよせ、そうかと呟くヴァルド。

 確か、母の二つ名のようなもので呼ばれていたと思うが、わたしには関係ない名だろう。


「じゃ、また3日後にここに来な。」

「はい、よろしくお願いします。」


 礼をして鍛冶屋を出て、ギルドに向かう。街を見て回って、またあの頭の中お花畑勇者には会いたく無い。さっさとこの街での用事を済ませて、ゆったり過ごせる場所を見つけに旅をしたい。

 ギルドのカウンターに顔を出し、Aランク昇級試験を受けに来た事を伝える。


「かしこまりました!それではこちらの中から試験として受けるものをお選びください。」


 受付嬢が提示した依頼書は3つ。希少な薬草採取、奴隷商の護衛、辺境の村の護衛の3つだ。

 希少な薬草採取はクロが真っ先に除外した。奴隷商の護衛はティアがやりたくないと言って除外。消去法で辺境の村の護衛になった。


「村の護衛ですね、かしこまりました。こちら依頼期間が定められておりまして、期間は3日間でございます。依頼内容は、いきなり出現した瓦礫の撤去の手伝いと、撤去作業中にペリュトンという、鹿と鳥が融合した魔物が群れで襲いかかってくるのでそこから守って欲しいという依頼です。ペリュトンは来ない日もあるので、そういう日は撤去作業の軽い手伝いだけでいいとも記されております。こちら難易度が高いですが、本当によろしいですか?」

「えぇ、この依頼を受けます。」


 拒否したところで別の依頼は2人が嫌がるし、ならばとAランクを先延ばしにしてもいいが、あのギルドマスターからの依頼はさっさと終わらせてしまいたいのだ。ここで延期にしたところで心のつっかえは取れない。


「かしこまりました。ではこちら、依頼用馬車利用券でございます。当該の村はここから徒歩で5日の場所にあります。ですので、馬車で移動をしていただきます。こちらの利用券をラモン西部にある受付にお渡し下さい。それではお気をつけて。」


 受付嬢に見送られながらギルドを出る。3日かかる依頼ならば、準備もそれなりにかかる。クロは食料を、ティアは素泊まりになった時風邪をひかないための毛布等を、私は回復薬をそれぞれ調達し、日が傾きかけた頃ラモン西部の受付に集まった。受付に利用券を渡し、説明を受ける。

 馬車と言っても荷台を引くのは馬ではなく、馭者が召喚した召喚獣というものだという。簡単に言えば獣の形をした魔力の塊だ。召喚獣は疲れを感じる事がないため、一日中フルスピードで走り続ける事が可能だという。整備されていない道でもフルスピードなため非常に揺れる。その揺れで怪我をしても責任は取れないという話だった。


 注意事項を聞き、早速馬車に乗り込む。衝撃を緩和させるためにティアに買ってきてもらった毛布を座席一面に敷き、その上に並んで座る。

 6人まで入れる馬車だから、3人で利用するには少し広めに感じる。内装はごく普通。窓に遮光生地のカーテンがかかっているだけの簡素な馬車だ。


「到着は明日の朝からお昼頃になると思いますので、それまでごゆっくりどうぞ。それでは、出発しまーす!」


 馭者が合図をすると、ハーネス部分に馬形の召喚獣を呼び出し馬車が動き出す。窓から見える景色がどんどん変わっていく。

 馬車がスピードに乗り始めた頃、クロが口を開いた。


「あのヴァルドってドワーフ、何かおかしく無いか?」

「何かって?」

「自己紹介もしてないのに俺の事を竜神の血も入ってるとか、レイと契約してるとか。鑑定してもそこまでの情報は出てこないだろ?」


 確かにおかしい。初対面なのに知りすぎている。クロの言う通り鑑定をしても見れるのは相手の名前と年齢、種族、職業、ステータスのみ。血筋など分かるはずがない。契約をしているか否かは、契約の知識を持っていれば分かる気もするが。


「鍛治の腕は確かだし、悪意も今のところは感じない。けど、用心しておくに越したことはない。」

「そうだな。」


 ヴァルドが今ここにいない以上、何を考えても無駄という結論になり話を切り替え談笑する。夕飯としてクロに買ってきてもらった軽食を食べ、揺れる馬車の中で眠りに落ちた。


 急にガタンと馬車が揺れ、頭を壁にぶつけ眠りから叩き起こされる。窓の外を見ればまだ日は昇っておらず仄暗い。しかしだいぶ村に近づいてきたらしく、ぽつりぽつりと小さな灯りが通り過ぎていく。


(モウ着イタノ?)


 顔をあげあたりを見回すティア。まだ眠い、寝ていたいと表情に出ている。


「まだだよ。この先も揺れるから影の中に入ってるか?」

(入ル。)


 相当眠かったのかいつもより滑舌が悪いティアを影の中に入れて、窓の外を眺める。森の中を走り始め空は見えなくなってしまったが、心なしか空気が澄んでいて心地よい。揺れが半端ないからリラックスは出来ないが。ふとクロの方へ目を向ければリズム良く頭を壁に叩きつけられていた。よくその状態で眠り続けられるな。

 起こさないようにクロも影の中にしまい、軽く使いこなせていない魔法の練習をする。


「そういえばお客さん知ってます?今向かってる村に勇者がいるって噂。」


 辺りがだいぶ明るくなり、馬車のスピードも落ち着いてきたところで馭者が話を振ってくる。揺れも落ち着いてきたからそっと2人を影から出し、馭者に話の続きを促す。


「いやね、最近世界がおかしくなってしまったでしょう?鉄の塊が其処彼処に落ちていたり、大人しかった魔物が急に暴れ出したり。それが今向かってる村にも起こったようで、沢山の魔物に村が荒らされて、生き残った村人も食われる寸前だったらしいんです。でもそこにいきなり現れた1人の少年が魔物を蹴散らして村を救った、勇者が現れたーって。風の便りなんですがね。どうです?気になる話でしょう?」

「気にはなりますけど、そんなにおかしな話じゃないような。その少年が戦闘の才能に秀でていた子だったんじゃないですか?」

「それがどうやら向こうの世界で暮らしていた子らしいんです。」


 向こうの世界で暮らしていたという事は、戦闘には関わらないで過ごしてきたという事。そんな剣を握ったことも無いような子供が、凶暴化した魔物を一掃できるのだろうか。先日会った勇者と格が違うなら出来ないことはないのかもしれないが。


「着きましたよ、勇者のいる村に。」


 クロとティアを起こし、馬車から降りる。森と瓦礫に囲まれた小さな村だ。男も女も仲良く瓦礫の掃除をしていた。


「では、帰る時に利用券にむけて声をかけてくださいね。」

「ありがとうございました。」


 「それでは。」と馭者は馬車と一緒に村の奥へ引っ込んでいった。

 欠伸をするクロを連れて村人へ挨拶に行く途中


「ーーーお姉さん?」


 聞き覚えのある声が響いた。

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