新たな足
「あの後なぁ…。鉱石全部外して、鉱山から出たら勇者とかいう頭のおかしい連中に声かけられたから殴った。あー…あと、Aランクになったら依頼したい事があるからギルドに来いって。」
操られていた時の記憶が無いようだから、そこは省いて説明する。勇者を殴り飛ばした理由も一緒に。
串焼きをモリモリ食べながら、「鉱石外し、手伝えなくて悪かった」と落ち込みながら言う。外すのにかかった時間も説明していないが、あの数を倒した事は記憶にあるようで大変さは想像できたみたいだ。
「気にすんなよ。明日はまた鍛冶屋に行く予定だから、それ食べたらシャワー浴びてこいよ。」
「……あぁ、わかった。が、ティアの気配が前と随分違うんだけど、進化でもしたか?」
(ウン!ティア進化シタ!ミテ!)
クロは4本目の串焼きに手を出しながらティアにそう問いかけると、ティアは隠蔽のスキルを解いて元の姿に戻った。少し禍々しさがあるが綺麗で美しささえ感じられる。
「おぉ、見違えるほど綺麗になったな!」
(デショ!強クモナッタンダヨ!)
「凄いじゃないか!」
「立派になった!」とティアを撫で回すクロを眺めながら、折れた義足をソケット部分を残して取り外す。誤った形でソケットを取り外すと神経ごと引っこ抜いてしまう事があると教えてもらった。右足が完全に動かなくなるのは困るから、自分で外す事はしないとロザイアとあのおっさんと約束したのだ。
ベッドに倒れ込むといつのまにか眠っていたようで、体を揺すられ目を覚ます。黒い炎の揺らめきに癒され、再び眠りに落ちそうになるのを抑えて起き上がる。いつも日が昇る前に起きていたから、昇っている最中に目を覚ますのは初めてかもしれない。
宿のサービスである朝食を3人で仲良くいただき、ティアに乗って鍛冶屋に向かう。時折クロが何かを気にしているようだったから、質問をしてみたのだが煮え切らない返事が返ってくるだけで、結局何に気を取られているのか分からなかった。
「こんにちはー。鉱石持ってきましたよー。」
クロが鍛冶屋の扉を開けながら言う。すると奥から煙草を吸いながら例の大柄な髭を蓄えたドワーフが出てきた。
「おー、おかえり。無事…じゃなかったようだな。こっちにこい。そのソケットも外す。」
鍛冶屋の中に酒場があるのはおかしな気がするが、酒豪が多いのだと勝手に納得し、案内されたテーブルに着きソケットを彼の方へ向ける。腰に巻いたベルトから工具をいくつか取り出し、あっという間にソケット取り外した。
「しかし、言った通りにぶっ壊してくるとはな。約束通り武器も作らせろよ。」
「えぇ、これお願いします。あと1つ、聞きたい事があるのですが、良いですか?」
「なんだ?」
鉱石を渡してからバングルの中から巨人の角を取り出す。今までも別の店で売れないか聞いてはいたのだが、値がつけられないものだと言われ、取っておくしかなかったものだ。
彼に角を渡し何かに使えないか、もしくは売れないかと聞いてみる。すると、彼は目を丸くし手袋を嵌めてから受け取りじっくり眺め始めた。何してるの?と目線でクロに問いかけても、肩をすくめてわからないと返ってくるだけだった。
「お嬢、これをどこで?」
「ダンジョンの裏階層に。」
「…なるほどなぁ。こいつを持て余してるって言ってたな?使わせてくれ。こいつがありゃあ、最高のもんができる!」
良い笑顔をしながら渡した鉱石と角を持って「足作ってくるからしばらく待ってろ!」と、返事を聞かずに隣の鍛治台ではなく奥の部屋へ戻ってしまった。元々渡す予定だったから別に構わないが。
「ちょっとおっちゃんに個別で依頼したい物があるんだ。話してくるから少し待っててくれ。」
私の肩に軽く手を置いて、クロも行ってしまった。いつ足が出来るか聞いていないから、動くわけにもいかず店員に頼み酒場で飲み物を飲みながら待つ。
ここは酒豪しかおらず酒しか置いていないと言われ、仕方なく酒を頼み飲んでみる。私の毒耐性が高いからアルコールの味は全く分からないが、フルーティで美味しいお酒だった。
「おう嬢ちゃん、何か待ってるのか?ちと話し相手になってくれや。」
顔をほのかに赤く染めたドワーフが私の隣に座る。ティアが小さく唸っているから念話で大丈夫と伝え、隣のドワーフに足の完成を待ってる事を軽く伝える。
「ほう。その足、俺が作ってやろうか?すぐにでも仕上げてやるよ!」
「いえ、もう材料の鉱石も渡しましたので、のんびり待つことにします。」
「そうかい、そりゃ残念だ。」とカラカラ笑う。
飲んでいたものが無くなり、次のものを頼む。今度はサラッとした口当たりの酒だ。
隣のドワーフの話を聞きながら酒を飲んでいたら、いつの間にか周りに人が集まっていて、何故かどちらの方が酒を多く飲めるかの大会になっていた。私は毒耐性のおかげでお酒もただのジュースになるのだが、彼らはそうはいかず次々と地面に転がる。
「また嬢ちゃんが勝ったぞ!」
「チクショー!もう賭ける金がねぇ!」
「次は俺が相手だ!」
「お前が叶うわけねぇだろ!」
オーディエンスが騒ぎ出し、私の前に新たな男が座る。すでに酔った状態の熊の亜人だ。店員が度数の高い酒を机に置き、飲み始める。米が元に作られた酒で白濁している。口当たりがどっしりとしているがほのかに甘く美味しい。目の前の熊の亜人は、結構な量を飲んできてもなお酔わない私に対抗心を燃やし、酒を一気に流し込む。するとすぐに焦点が合わなくなり床に倒れた。
飲んでは前で人が倒れてを繰り返し、朝日が差し込む頃には起きている人は私と店員といつ帰ってきたのか分からないクロだけだった。
店への支払いは挑んで散って行った敗者たちに任せる事を店員に伝え、好意で水を一杯もらいクロと駄弁りながら足が出来上がるのを待った。
「待たせたな、嬢ちゃん!出来上がったぞ!!」
ドアが取れる勢いで開き、中から隈を拵えたおっさんが義足を掲げながら出てくる。私の周りで転がる酔っ払い達を蹴り、踏みつけながら説明を始める。
「嬢ちゃんからもらった角を軸にタングル鉱石で補強して、硬度を増しつつも軽く仕上がったんだ。それに角を調べたら毒を付与できる上に氷に耐性がついていた。それを上手く使えるように義足に魔力を流すと変形する仕掛けをつけた。今の竜型の足から、簡単に言えばハイヒールのような形状に変化する。これで側面で切り裂く事も底で突き刺す事もできる!どうだ、最高だろう!!」
竜の足の形をした義足が早速取り付けられる。
全体的に黒光りしているが、中心には丁寧に磨かれた巨人の白い角が正面に顔を覗かせている。足首の辺りで角が後ろに大きく反り踵の役割をしている。つま先は鋭く尖った竜の爪のような形が3つあり、ピンヒールのような印象だ。関節部分は細く球体になっていて滑らかに動いてくれる。
試しに魔力を流してみれば、淡く黒に輝きながらつま先が変形し棘のような形状になった。つま先と踵の角の2本の棘で立っているような形で、地面との接着面が遥かに少なく慣れるのに苦労しそうだ。
「相棒が竜の兄ちゃんだからな。寄せさせてもらったぜ。…かっこいいだろう?」
ずっと足を動かし続けていた私の前にしゃがみ、彼は笑顔で問いかけてくる。確かに見ていると心が躍る。色々なものに疎い私でもわかる。これはかっこいい。
彼の目を見ながら、私は笑顔で答えた。
「はい!」
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