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急降下する機嫌

 タングルから鉱石を外し始めてどれだけの時間が経っただろうか。最初に死体を山積みにしティアと2人で延々と外し続け、お腹が空いたらタングルの肉を焼いて食べ再び作業に戻るを繰り返し、今やっと最後の1体から鉱石を外し終えた。

 バキバキに固まった体を伸ばし、バングルに入りきらなかった鉱石と死体を影の中にしまう。死体と言ってもティアが凍らせて殺したから、体に傷はほとんどついていない。素材の宝庫なのだ。

 隠蔽のスキルを覚えたティアは自分で姿を変えて、私と未だに寝息を立てているクロを背中に乗せ地上へ向かう。体も一回りほど大きくなったティアの足取りは、信じられないほど軽かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「待っていたぞ、鎌闘士、いや戦神の末裔よ!さぁ、俺達と共に世界に光を取り戻そう!」


 鉱夫の方達に「無事で良かった」「ありがとう」と言われながら鉱山から出たら、やけにキラキラとした妙な連中に声をかけられた。急に何なんだ、こいつらは。

 意味がわからず無視して隣を通り抜けようとしたら、腕を掴まれる。


「離せよ気色悪い。」

「失礼。俺はレンヤ、炎の勇者だ!こっちは魔道士のハンナ、治癒士のユーイ、武闘家のコウだ!これからよろしくな!」


 どうやらこいつの頭はお花畑のようだ。誰も着いて行くとも行きたいとも言っていないのに、もう私を仲間だと思っている。

 ポンと肩に置かれた手を振り払い、ティアにギルドに向かうよう念話で指示をする。


「ちょっと待ちなさいよ!せっかくレンヤが一緒に行こうって言ってんのよ?快くはいって言いなさいよ!」

「まぁまぁ、落ち着いてハンナ。きっと恥ずか……鎌闘士くん、ちょっと待って。君の前にいるやつ、魔王じゃないか!?」


 クロを指差しながらそう吠える自称勇者。「今ここで仕留めてやる!」と剣を抜いた。反射的に私は自称勇者と楽しい(頭のおかしい)仲間達を影で殴り飛ばした。ティアは追撃をしようと氷柱の嵐を降らせる準備をしている。

 クロをティアに託し、背から降りて影を使って足を支え自称勇者達におぼつかない足取りで近づく。


「お前らが何なのか知らないし、何をしようがお前らの勝手だ。だか、私の仲間に手を出そうってんなら話は別だ。今すぐ失せろ。殺すぞ。」


 背中にファイアボールを6つ、鎌に闇系魔法を纏わせそう告げる。いつかの奴隷商相手に使った威圧感を最大限に引き出して。

 すると目の前に転がった勇者どもは顔面を真っ青に染め涙を流し、中には失禁するものもいた。汚ねぇ。腰を抜かしたのか、必死に足を動かし逃げようとするも後ろにある壁のせいで後ろに下がることもできていない。

 影でこいつらを掴み、二度と来んなの意味を込めてかなり遠くに放り投げた。


「はぁ…。楽しかった気分が一気に冷めた。」

(何ダッタノ、アレ。次来タラ殺シテイイ?)

「勿論。……美味い肉買って帰るか。」

(オ肉ー!)


 殺気立つティアをお肉で釣り落ち着かせる。タングルの肉を食べていたとはいえ、あれは美味しくなかったのだ。身は筋だらけで固く、脂もほとんどない。臭みもあり、あんな状況じゃなければ食べなかったとも思えるほどだ。


 先にギルドに報告をしに受付に行く。バングルをかざし、証拠品のタングルの死体を数匹取り出し、報告は終了。したはずだった。


「レイ様、当支部のギルドマスターがお呼びです。こちらへどうぞ。」

「……今じゃなきゃダメですか?」

「ダメ、だそうです。」


 クロがまだ起きていないから早く宿のベッドで寝かせてやりたいのに、という思って額に眉を寄せ、嫌だという顔をしたのに無駄だった。

 ため息をつき、受付嬢についていく。案内されたのはギルドマスターの部屋だ。

 部屋の両面に天井まで届く本棚、真ん中に机が置いてある。マスターに促され、机の前に置いてあるソファに腰掛け、クロをソファに、ティアを隣に来させる。


「何の御用ですか?急ぎの用事があるのですが。」


 1秒でも早く帰りたい思いを全面に出し、マスターに問う。「呼んでくれてありがとう、助かった。仕事に戻りなさい。」と受付嬢を部屋から追い出し、マスターは私の正面まで来て深く頭を下げた。


「鉱山の依頼遂行、感謝申し上げます。元々、タングル達は温厚な魔物。しかし暴れ出すと危険ということからBランク以上の冒険者向けに提示していた簡単な依頼だったのですが、最近になって凶暴になりBランクでは手がつけられなくなっていたのです。しかし、ここの街にはBランク以上の冒険者はおりません故、推奨ランクを引き上げようにもできなかったのであります。そこで表面上Bランク、実力Aランクの冒険者を探すためそのままで貼っていたというわけでございます。失礼を承知で申し上げますが、レイ様のランクは今幾つなのでしょうか?」

「B。」


 ギルドの依頼というものは自分のランクによって受けられるものが変わってくる。Fランクの採集依頼なら誰でも受けられるのだが、討伐依頼はそうはいかない。自分がFランクならばFとその1つ上Eの討伐依頼、Eならば1つ下F、E、1つ上のCというように、自分のランクの上下1ランク差の討伐依頼が受けられるという形だ。

 Bからランク試験があるのだが、それに自信過剰な奴が受けて落ちる冒険者が多い。それでA以上があまり増えないのだという。表面上Bランク、実力Aランクというのは、死ぬ危険もあるため試験に落ちるのが怖くて受けられない冒険者や、実力がありBに上がったばかりの冒険者のこと。ランク試験を突破するには、そのランクになった日を1日目とし最低1週間が必要である。


「左様でございましたか。こちらの依頼をランク試験にすることも可能なのですが、Bランクになられて何日が経過いたしましたか?」

「この街に来た時点で4日目だが、鉱山にどれくらい潜っていたかわからん。」

「このギルドに依頼を受けに来てくださったのが、2日前ですので今日で6日目でございますね。……明日から正式なランク試験を受けていただく事が可能でございますね。特例を作るわけにも行きませんので、申し訳ございません。」

「ランクにこだわっているわけじゃないから、別にいい。話は終わりか?帰りたいのだが。」

「いえ、あと1つ。Aランクになられましたらまたこちらへお越しいただきたいのです。レイ様への指名依頼がございますので。」

「…わかった。」


 冒険者になれば、誰にも縛られず自由に動けるものかと思っていたが意外とそうでもなかった。冒険者になった事に少しだけ後悔し、ため息をついて立ち上がる。クロをティアに乗せて部屋を出る。未だに影で足を支えて歩いているが慣れれば便利だ。鎌を支えにしなくていいのだから。


 ギルドを出て近くの露店でティアの大好物である骨つきの塊肉を2つ、私とクロ用に串焼きを5本買い、鉱山に入る前に泊まった宿よりも少しいい宿に入る。

 クロをベッドに寝かせ、シャワーを浴びてティアと肉を食べながらゆったりとした時間を過ごす。


「…ん……知らない天井だ…。」

「起きたか。気分はどうだ?ゆっくり眠れたか?」


 上体を起こしたクロに串焼きを1本渡し、顔色を見る。正気に戻り倒れた時よりもはるかに良くなっている。体調は平気そうだ。


「あぁ、大丈夫だ。バッチリ寝れたし、いい夢も見れた。すごい腹減ってるけど。」


 2日も食べていなかったんだから、そりゃそうだ。ついでに買った果物を齧りながら残りの串焼きを全てクロに渡した。


「あの後どうなったんだ?あんまり記憶なくて。」

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