地の底から
少ししゃがれた声で、しかし元気よく返事をするアンデッドハウンド。あの手当ての後、どうやら亡くなってしまったらしいが、なぜか生き返ってここにいる。毛が所々抜け落ちている尻尾を一生懸命に振りながら、お腹を差し出してくるので「撫でても良い?」と一応許可を得て、毛と骨と肉が怪我のせいでぐちゃぐちゃになってしまったお腹を優しく撫でる。痛くはなさそうだ。
この子が私に何をしにきたのか会話ができないとわからない。一応こちらの言葉はなんとなく理解できているようだから、さっきのようにYESかNOでの会話はできる。しかしそれでは何をしにきたのかさっぱりわからない。撫でながらクロにも聞き、一緒に解決法を探す。
「そうだ、ギルドの受付嬢が人を呼ぶ時に使ってるアレってスキルなのかな。」
クロがそう呟いた。そう言えば、この世界に来た時も治癒士を呼ぶ為に目をつぶって何かしていたような。もしあれがクロの言う通りスキルなのであれば、私達もこの子と会話ができるかもしれない。
「…それだ。聞きに行こう!」
アンデッドハウンドを私の影にしまい、しばらく待っててもらう。街中で魔物が出たとなると討伐されたり捕獲されたりと面倒くさい。
ギルドの門を開け、エテルにスキルの話を聞く。どうやらあのスキルは念話といい、ギルドで働く際の必須スキルの1つでSPを多く消費するらしい。そしてもう1つ必要なスキル、多言語理解も必要なのだそうだ。
念話は前にやっていた通り、遠くの相手とも声を出さずに会話が可能になるスキル。そして多言語理解とは、その名の通り多くの言語を理解できると言うもの。簡単に言えば同時通訳のようなものらしい。
多言語理解があの子に通じるかは、やってみない限りわからない。もし通じなくても取っておいて損はないスキルだ。幸いあのダンジョンの隠し階層に入ったおかげでレベルも大幅に、というよりおかしいくらいに上がった。SPも有り余っているくらいだ。実験的に少し使っても問題はない。
エテルに礼を言って宿に戻る。
部屋はダンジョンに行く前は1人部屋だったが、クロと一緒に生還したため2人部屋に変えてもらった。別々の部屋でも良かったが、ダンジョン内で共に寝起きしてきたから今更だろうと同じ部屋にしてもらった。同じ部屋の方が安心もできる。
アンデッドハウンドを影の中から出し、ベッドに腰掛ける。念話や多言語理解より先に『隠蔽』というスキルを取る。
隠蔽はその名の通り、モノを隠したり姿を変えたりするスキルだ。物だったり、者だったり。アンデッドハウンドを通常のキラーハウンドに見せる為、これは必要だ。
キラーハウンドをイメージしながら、アンデッドハウンドにスキルをかけてみる。
「ワン!」
血肉や骨が丸見え状態だった体が、綺麗な体に『見える』ようになった。これならアンデッドと言うことはバレないだろう。それほど腐ってもいないから臭いも、顔を近づけて嗅いでみないと分からない程だから平気だろう。
アンデッドハウンドは綺麗な体になったのが余程嬉しいのか、千切れんばかりに尻尾を振って全身で喜びを表していた。その姿に思わず顔が綻ぶ。
「魔物って進化するみたいだぞ。キミも進化したら本当に綺麗な体になるんじゃないか?」
図書館から本を借りてきたクロが、アンデッドに本を見せながら言う。
本の内容は魔物の進化。ある条件を満たせば進化が可能になるといった内容だ。例えば、レッサートレントは進化するとミミクリートレントという、普通の木に擬態する魔物になる。分かりにくい上に動き回るという厄介な魔物だ。
本を見ながら目を輝かせるアンデッド。ずっと尻尾を振っているから、自分が進化したらどんな姿になるのか想像して喜んでいるのかもしれない。
クロとアンデッドが話をしているうちに、念話と多言語理解のスキルを取って、試しにクロに念話を送ってみる。
(クロ、聞こえる?)
「うお!?びっくりした!聞こえる聞こえる。それが念話?」
(魔力を使って声を出さずに遠距離でも会話ができるんだと。クロも取っておいてくれ。多言語理解っていうスキルもセットでな。)
「りょーかい。」
体を跳ねさせ返答したクロ、どうやら上手くいったようだ。
さて、問題はアンデッドハウンドに対してだ。こちらの言葉は理解しているようだから、少なくともYESかNOの反応は返ってくる。言葉が返ってきたら万々歳だ。
(キミは?聞こえる?)
アンデッドに対し念話を送ってみる。すると、聞こえたようで、振り返った。首を傾げて、まるで「なぁに?」と聞いているかのようだ。可愛い。
(聞こえるみたいだな。なら何か頭の中で話せるか?)
念話は思っている事を相手に送る為のスキル。ただ送らずに思うだけならスキルは要らず、スキルを持っている側が相手の考えを掬い取る事もできる。
この子は魔物だ。人のようにSPが存在するのかも、スキルを自由に取れるのかも分からない。本にも書いてはいなかった。もしSPが無く、スキルはレベルによって覚えていくのであれば会話は多少困難になる。ここではっきりさせておきたい。
(声、ワカル!)
「!」
女の子のような、しかし少ししゃがれた声が聞こえてきた。これがこの子の声なのだろう。多言語理解のスキルのおかげか
、しっかり聞き取れた。会話も可能な事もわかった。
何回か会話をし、念話のスキルを取ってもらった。多言語理解は魔物な為か、アンデッドだからか取ることが出来なかった。取れなかったものは仕方ない。
(レイ、言葉ワカル、嬉シイ!探シテタ!前助ケテクレタ、オ礼シニキタ!ワタシ、レイ、ツイテク!)
「お礼?助けたと言っても、キミはもう…。」
死にかけていたこの子を手当した事ははっきりと覚えている。しかし、今アンデッドとしてここにいる。助けられなかったという事だ。お礼をされる事など…。
(関係ナイ!嬉シカッタ!オ礼スル!ドラゴン、ワタシ、逃シタ!レイ、ワタシ助ケタ!オ礼スル!)
少し強めの口調で話すアンデッド。何がなんでも私達についてこようとしているようだ。一緒に来てくれるのはありがたい事だ。戦力が増えるし、戦いやすくもなるだろう。
軽く「分かった」と返事をし、アンデッドを抱きしめる。冷たい体、動くことの無い心臓。見た目は綺麗でも体は汚れたままだ。服に血が付くがお構いなしに強く抱きしめる。
少し手当をしただけで、生き返って地の底から私達を探してお礼をしに来たと言ってくれた。こんな良い子が本来なら1つしかない命を失ってしまったのだ。もし私が回復系のスキルや魔法を使えたら、もう少し早くこの子を見つけていれば、この子が命を落とすことは無かったかもしれない。
私はアンデッドを抱きしめながら何度も何度もごめんねと、ありがとうを繰り返した。
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