新しい足
「どうです?着れましたか?」
「あ、はい。」
外套を羽織り、試着室のカーテンを開ける。「お似合いですよー!次コレ試してみましょ!」と看板娘が次々に服を持ってくる。止めてくれとクロに目で合図を送っても、こっちの方がいいんじゃないか、やっぱりあっちの方が…と、クロまで服を持ってくるので仕方なく着せ替え人形になり、数時間が経った。慣れない片足での着替えは疲れる。
着せ替え人形の時間が終わり、気に入ったセットの服を2つ購入し、店を出る。店に入った時は天高く登っていた日がすでに傾いていた。
クロに宿に戻ろうと声をかけ、慣れない松葉杖でのんびり帰路についた。
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義足の依頼を出してから4日が経った。今日が受け取りの日だ。
この4日間、私は宿屋に籠り、影遊のスキルレベルを上げるためずっと練習をしていた。その甲斐あって、今は半径30m以内の影がある場所に、影の中を高速で移動する瞬間移動もどきができるようになった。もっと練習していけば範囲も増えるだろうし、本当に瞬間移動ができるかもしれない。少し反則のような気もするが、生きるか死ぬかの世界で反則も何もない。これからどうスキルが進化していくのか、少し楽しみだ。
クロに影遊で義足を受け取りに行く事を伝え、さっそくスキルで移動する。まだ仮ではあるが新しい足をもらいに行くのだ。心が弾んで仕方ない。
「シンさーん!レイです!受け取りに来まし」
「待ってたよー!!」
店の中からロケットのようにロザイアが飛んで抱きついてくる。衝撃で後ろに倒れそうになるも、影で支えて体制を整える。彼女の存在を忘れていたわけではなかったが、先に声が出てしまった。けして忘れていたわけではない。
「早く見て欲しくてずっと待ってたの!設備が少なかった割には、結構頑張ったんだから!」
「付けてみて付けてみて」と私を店内に引っ張り込んでいく。エルフだから私よりも年上だと思うが、随分言動、行動が幼いと思う。顔が整っている彼女だからこそできる動きなんだろうな。
なんて現実逃避していたら、椅子に座らされ義足と神経をつなぐための部品を取り付ける作業まで進んでいた。
「はーい、ちょっとピリッとするよー。そいっ!」
返事をする暇もなく部品が取り付けられた。痛みはほぼ無かった。
その後も「はい、はい、ほーい!」とリズム良く義足が取り付けられていった。
義足はシンプルなもので、下腿部は金属が一本で、足部は機械で精密に作られていた。何だかよくわからないが、凄いものであることはわかる。
「よし!取り付け完了。立ってみてくれる?」
言われた通りに立ち上がる。ここ数日片足の状態で過ごしてきたからか、違和感がある。けれどしっかりと動かせる。
「よしよし、立てたね。んじゃ次は…」
少しずつ出される指示に従いながら、義足の動きを確認する。義足に重心を寄せてみたり、軽いジャンプをしてみたり。
結果的に義足に問題はなく、スムーズに確認が終わった。
「それでお会計なんだけどね。本当は金貨15枚なんだけど、金貨12枚まで負けちゃう!その代わりといっちゃ何だけど、おじいには設備が足りなくてロマンが詰められなかったって伝えて欲しいの!後、おじいの家までの地図も書くから!…お願いできる?」
むしろお釣りが多めに返されてるような感じがするが、それを口に出すのは野暮ってものだろう。笑顔で「もちろんです。」と返し、金貨を12枚渡す。
「それじゃ地図書いてくるね!」と店の奥にロザイアが引っ込み、代わりにシンが出てきた。今まで使っていた鎌と小型の棒状のものを持っている。
「お待たせ、こっちが鎌な。損傷が酷かったから打ち直した。大鎌だけだと小回りが効きにくいだろうだと思って、小型の鎌も作ってみたんだ。こっちは試作品だから金はいらねぇ。」
棒というより筒だったようだ。中に鎌の刃となる部分が収納されていて近距離戦で重宝できそうだ。
お礼を言ってお金を支払い、奥から出てきたロザイアから地図ももらって店を出る。
外にいたクロと合流し、義足になれるため体を動かそうと誘い街の外に出た。
「にしてもすごい足だな、本当。痛覚とかどうなってんの?」
しばらく動いた後、休憩をしていたらクロが首を傾げながら聞いてくる。
「不思議なことに痛みは感じない。さっき木を蹴った時、なんか当たったなって感じだった。」
振動は感じるが、痛みはない。本当に不思議な足だ。久しぶりの重さにもだいぶ慣れてきた。飛んだら跳ねたりしても問題ない。そろそろロザイアが言っていたおじいという人に会いにいくのも良いかもしれない。
「…?」
遠くから異様な気配が近づいてくる。魔物のような、でも死んでいるような、変な気配だ。気配感知という魔法を習得できていたら何なのかすぐにわかるのだが、今は練習中で習得できていない。
こっちの世界が向こうの世界と融合してしまった今では魔物の強さもどうなっているのか分からない。手招きでクロを近くに呼び寄せ、戦闘態勢に入る。
ガサリと茂みが揺れ現れたのは、動く死体、アンデッド。しかし通常のアンデッドではなく、キラーハウンドだった。
普通キラーハウンドはダンジョンの中間層あたりで出現する魔物。ダンジョンの外で出現したという情報は一切ない。アンデッドもそうだ。
何故こんな街の近くに?世界が変わってダンジョン外の魔物も強くなってしまったのか?
「グルル…。」
おかしい。こちらの姿を確認した途端、座って動かなくなったのだ。出方を伺っているようにも、攻撃を仕掛けようとしているとも思えない。明らかに普通の魔物のする行動じゃない。
普通の魔物なら敵を見つけた瞬間に襲い掛かり、相手の生命を奪おうとする。なのにこいつはその動きが全くないのだ。
「なぁ、どうしたらいいんだ?こういう場合。」
襲いかかって来ない、敵意を感じない魔物を問答無用で斬り殺したくもなく、クロの袖を軽く引っ張り問いかける。
「いや、俺にも分かんねぇよ。どうしたらいいの?」
2人で首を捻っていたら、キラーハウンドのアンデッド、アンデッドハウンドとでも言うべきか。アンデッドハウンドはゆっくり腰を上げ、少しずつ近づいてきた。相変わらず敵意も殺意も感じない。
さっきより半分くらい距離を縮めたところで、アンデッドハウンドは寝転がった。意図が全くわからなかった。しかし、ハウンド系の魔物が腹を上にし寝転がるポーズは、降参を意味すると本で読んだ覚えがある。
すぐにでも戦闘に入れるよう影遊の準備し、アンデッドハウンドの近くにしゃがみ込む。
「…ん?」
この状況、前にも一度、経験したことのあるような…。
ダンジョンの中で、同じ場所を怪我した子の手当てを…?
いや、そんなまさか。しかし、別の魔物だったらこんなおかしな行動は取らないはずだ。それに、怪我の場所に巻いた覚えのある包帯が巻き付いている訳がない。…だとしたら本当に?
「…お前、あの時のキラーハウンドか?」
「ワン!」
「…包帯をあげたあの?」
「ワウ!」
「…でも、アンデッドになってるけど本当に?」
「ワン!」
…まじでか。
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