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悪魔、冒険者へ

 扉《ゲート》から魔世界に入り、ウルティの街に来た。

 ウルティは、そこそこに大きな街で冒険者も多くいる。街の隣には大きな森があり、そこで薬草を取り売って生計を立てていた。

私は町の中心にある大きな建物に入った。


「あら!『薬草取りちゃん』!いらっしゃい。今日も採取依頼?」


この人はエテル。濃い緑の瞳に、金色の髪をしていて緩くひとつに纏め肩に流している大人しげな女性だ。彼女はこの建物、冒険者ギルドの受付嬢だ。私は採取依頼を毎日受けに来ていたので、この人にはだいぶお世話になっている。

薬草取りちゃんというのは、私のあだ名だ。母につけてもらった名前もあるが、今では大嫌いな名前になってしまった。だから魔世界ではまだ名前が無いことになっている。ギルドの優しい人達は、名前が無いのは大変だろうと一時的なあだ名として、薬草取りちゃんと呼んでくれている。


採取依頼はギルドで冒険者登録をしなくても受けられるようになっている。しかし討伐依頼とは違って安全なため報酬は少ない。前までは、現実世界で生きなきゃいけなかったから少なめの報酬で安全な方を選んでいた。

しかし、今は違う。父に捨てられ街から追い出された私は、安全な方を選ぶ必要は無い。


「いえ、今日は冒険者登録をしたいと思って来ました。」

「あらまぁ、薬草取りちゃんもついに冒険者になるのね!分かったわ。冒険者についてとか、ギルドについてとか色々説明しなきゃ行けないから、ついてきて!ジェシカ、ちょっとカウンターお願い!」

「まかせな」


そう言ってエテルは、カウンターから出て隣の扉を開けて待っていた。中に入れという事だろう。私は軽く頭を下げて中に入った。

部屋の中はソファが2つ、背の低い机が1つと簡素な部屋だ。本当に説明するだけの部屋のようだ。


「奥のソファに座って。薬草取りちゃん、読み書きは?自信ないなら代筆するよ。」


言われた通り、部屋の奥のソファに座る。見た目よりも遥かにふかふかだ。こんなに座り心地のソファに初めて座った。


読み書きだが、母に置いていかれる前は虐められながらも学校には通っていたので、簡単な読み書きはできる。しかし、簡単な読み書きしかできないのでここは代筆を頼むことにする。


「簡単なのしかできないので、書いてもらってもいいですか?」

「分かった。それじゃ先に説明を始めるね。まず冒険者っていうのはその名の通り、冒険をする者。世界に散らばるダンジョンっていう所に挑んだり、国や街から出た討伐依頼を受けたりできる。もちろん採取依頼もね。

ギルドっていうのは、そんな冒険者達をサポートするところ。討伐依頼で怪我した冒険者を治療したり、国や街から出た依頼を貼ったり。ギルドの中には酒場があるから、色んな情報を集めたり仲間を探したりするのもいいよ。もしかしたら歴戦の冒険者から貴重な話が聞けるかも!それから……あぁ、ここまででなにか質問はある?」

「さっき依頼で怪我した冒険者を治療したりって言ってましたが、それは依頼での怪我しか治して貰えないって事ですか?」


魔世界に来る前に、2階から放り出された私は腕にヒビが入っている状態だ。この世界に来て緊張が解けたのか、少しずつだが痛みが出てきている。出来れば治して貰いたい。


「ううん、怪我した人なら誰でも治す決まりになってるよ。どうして?」

「ここに来る時に転んでしまって、腕を怪我してしまったんです。出来れば治して頂けないかと思いまして。」

「そうだったの?すぐに治癒士を呼ぶね!」


エテルはその場で静かに目を瞑った。何やっているんだろう?

急に扉が開き勢いよく少女が入ってきた。


「薬草取りちゃんが怪我してたって?なんでもっと早く教えてくれないの!大丈夫!?どこ怪我したの?怪我の具合は?痛みは?」

「こら、ユフィア!一気に聞いても答えられないでしょ、落ち着いて。」


何度もここに出入りしてきたが、初めて合う子だ。エテルと同じ金色の髪を三つ編みにし下ろしている。柔らかな緑色の瞳が心配げに揺らいでいる。

私の前にしゃがんで質問してきた子はユフィアと言うらしい。


「いえ、ちょっと驚いただけなので大丈夫です。はじめまして、ユフィアさん。転んだ時に右腕をぶつけてしまいまして。治していただけないでしょうか?」

「まっかせて!完璧に治すから!」

「ありがとうございます。」


ユフィアが私の右腕を優しくそっと持ち上げ、右手を私の腕にかざし、目を瞑って静かに詠唱を始めた。


「慈愛に満ちる光の精霊よ、汝の傷を癒せ」


ユフィアの右手を中心に手のひら大の大きさの魔法陣が広がり、白い光が私の腕を包み込んだ。痛みが徐々に引いていく。

産まれて始めて魔法を見た。綺麗で暖かい魔法を。


「痛みはどう?骨にヒビが入ってたから少し魔力を多めにしたけど、まだ痛みはある?」

「いえ大丈夫です、ありがとうございます。こんな綺麗な魔法初めて見ました。」

「えへへ、綺麗だなんて〜。ユフィアちゃん照れちゃう。」


お礼を言うとユフィアは、手を前に組み体をくねらせていた。お礼を言っただけでこんなに喜んで貰えるとは。


「ユフィアはね、薬草取りちゃんが毎日依頼を頑張っているのをずっと影から応援していたの。ずっとひたむきに頑張ってる貴女に憧れていたのよ。」

「……そうなんですか…。」


生活の為に草を集め続けていた姿を見られていて、しかも憧れられていたとは。恥ずかしい。


「そろそろ説明に戻るわね。冒険者にはその人にあった職業が与えられるの。剣が得意なら剣士、魔法が得意なら魔術師、治療が得意なら治癒士っていう感じに。これから薬草取りちゃん、貴女の適性を調べるわ。」


エテルは立ち上がり、壁にかけられている倉庫の絵の前に立つと絵に手を突っ込んだ。驚いて目を丸くしていると、エテルは何かを見つけたらしく手を引いて水晶玉を取り出した。ユフィアが水晶玉を載せる布を敷き、そこの上にエテルが水晶玉を置いた。


「これに手を置いて、魔力を流し込ん……あーっと、力を手のひらに込めてそれを押し出す感じで触ってみてくれる?」


現実世界から来た私にもわかりやすく説明し直してくれた。向こうの世界の人は魔力を持ちはするが、普段から使わないため魔力を操作するのが下手なのだ。


私は言われた通り、手を水晶玉に置き力を込めた。

ゆっくりとだが、水晶玉が光を放ち始めた。最初に赤、次に黒。色が垢から黒に変わる瞬間光に勢いが増した。黒い光なのに眩しい。


「え…?ど、どういうこと!?ユフィアなんにも分からなかったんだけど!」

「今調べてみるからちょっとだけ待ってて!」


エテルは再び倉庫の絵に手を突っ込み本を引っ張り出した。濃い緑色の瞳を大きく開いてページをめくっていく。


「見つけた!」


エテルが本を取りだしページをめくり始めてから大体5分後、エテルが笑顔で顔を上げた。


「薬草取りちゃん、貴女に適性がある職業は鎌闘士(れんとうし)!」

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