賑やかな人たち
「か、関係?」
「そう!竜人との契約は生涯を共に過ごす意味で行われるのが多いのよ!それをしたってことは…。」
「ち、違う違う!本契約の傷の回復を利用しないとレイが死ぬところだったから契約しただけで、そういう関係じゃない!」
ユフィアが顔を真っ赤にしてクロに詰め寄る。それに対してクロは少しでも離れようと後退りをしたながら誤解を必死で解いている。私からも何か言った方がいいだろうか。
「クロは私を助けるために契約をしてくれたのですよ。人生で一度しかできない本契約を、私なんかに使わせてしまって、むしろ申し訳ないです。」
ソファに座っていたから逃げ場がなくパニック気味になっていたクロと、詰め寄っていたユフィアの間に腕を差し込み強制的に距離を取らせる。
「ま、大体の流れは分かったし、これ以上聞くのも野暮ってもんだ。ジェシカ、リヤをシンディの所に連れて行ってあげろ。義足を作るのは時間がかかるだろうから、その間に色々聞けばいいだろう。」
ダンカンが無理やり話を遮り、終わりへ持っていく。助かった。
ダンカンの提案に乗り、再びクロに抱えられギルドを出た。
シンの所へ向かう途中、ジェシカが最近何が起こったのか話をしてくれた。
私たちがダンジョンへ潜り、死体発見報告を受けてから約2週間後に下から突き上げるような巨大な地震があった事、その地震と同時に向こうの世界の物や人が突然現れた事、世界各地で同じ現象があった事、向こうの世界の住人を帰そうと扉を潜らせても別の街に行くだけで、向こうの世界に繋がらなかった事、どれも原因が分かっていない事。行方不明だった私達が突然帰って来たのも、関わってるかもしれないと思ったのだそうだ。
「焦って考えてもどうにもならん。色々対応しながらゆっくり原因を探っていくつもりだ。シンディ!依頼だ!」
奥にあるであろうシンを呼ぶとジェシカは、「じゃ後は自分でやりな。」と言って帰って行ってしまった。他にやる事があったのだろうか。それにしては逃げるような去り方だったが。
「だからシンだっつってんだろ…あれ?リヤじゃねぇか。生きてたんだな。」
奥からシンが怒りながら顔を出した。と思ったら、私の姿を見て驚き、納得したように「なるほどな」と溢した。
「今から技師を呼ぶから、そこらに座って待っててくれ。」
シンはそう言って再び奥に引っ込んでいった。そこらと言っても座れる場所は店の奥のカウンターの前にある椅子しか無い。左の椅子に下ろしてもらい、クロを右の椅子へと座らせる。
カウンターの上に鎌を置き、状態を確認する。
暗いダンジョンの中だったからあまり分からなかったが、細かい傷がついていたり刃こぼれしていた。魔物と結構戦ったし、血を軽く払うくらいで手入れをしていなかったし、ひどい状態になるのも当然だ。せっかく武器屋まで来たのだから、後で修理してもらおう。
「レイ。あのスキル、どこで手に入れた?」
クロの低い声に驚き、体が跳ねる。そっと表情を確認したらかなり怒っていた。これはお説教タイムというやつでは…。
「た、大樹からです…。」
「大樹…あいつか。」
入手元を話すと口元に手を当て考え込み始めた。もうそのままずっと考えていてほしい。シン早く帰って来てくれ!
「あれれぇー?お客さんじゃん!こんにちはぁ!」
店の入り口から突然明るい声が響く。誰か来たみたいだ。助かった…。
声のした方へ振り返ろうとすると、後ろから覗き込まれた。いきなり距離が近すぎる。
「あっは、君可愛い!あれ足無いねぇ、依頼の子?私ロザイアっていうの!よろしくねぇ!」
明るい金色の髪をポニーテールにした元気なエルフだ。口がよく動く子みたいで、自己紹介を返す暇がない。しかし、クロのお説教タイムに入る前に流れを変えてくれた彼女を蔑ろにするわけにもいかず、相槌を打つ。
「相変わらず騒がしいやつだな。その子が依頼の子だ。」
「あ、シンだぁ!久しぶりー!」
奥からシンが顔を出し、話を遮ってくれた。やっと離れたかと思えばすぐに戻ってきて私の前にしゃがみ込んだ。
「足作って欲しいんでしょ!話聞いてたよー!ただ、1つだけいいかな?この街にはちゃんとした設備がなくて、良いのが作れないんだ…。おじいに知らせておくから、今度鉱山街まで行ってみてね!んで、デザイン的なのでこんなふうにして欲しいとかある?」
やっと私が話せる番が来た。話が長いというか、きっと頭の回転が速く話の内容がどんどん出てくるのだろう。
彼女の話はさておき。軽く自己紹介を済ませ、考えていた機能と動きやすさを重視して欲しいことだけを話す。デザインは正直どうでもいい。
「ん、分かった。デザイン性を考えなくていいのはありがたい。さっきロザイアが言ったように、ここじゃ簡単なのしか作れないから…。そうだな、4日くらいしたらまた来てくれ。スイッチが入ったロザイアの仕事は早いからな。」
私が義足の案を話してから賑やかだったロザイアが静かになり、さっそく紙に図案を書き出していた。仕事が早いのは確かなようだ。
ボロボロになってしまった鎌の修理も頼み、待っている間に端切れのようになってしまった服も買い替えに行こうと、松葉杖を借り店の外に出る。
服飾店につくまでの間はついに説教の時間だった。もっと自分を大切にしろだとか、俺を頼れだとか、傷をそのままにするなだとか。最終的に自爆のスキルは2度と使わないようにと約束させられた。手段を選べない時には破らせてもらうが、その事は心の中に留めておく。
目的地の隣にあった素材屋でコボルトの素材を売り、お金を作っておく。街が変に変わってしまったのだ。前より値段が高くなっていてもおかしくはない。
服飾店に入り、店主に前と同じ服を何着か作って欲しいと依頼し、出来るまでの間に着る服を探そうと少しだけ店内を見て回る。
服はもちろん、軽い防具やアクセサリー、身につけられる魔道具が所狭しと並んでいる。
「気になるものでもあったか?」
依頼をし終えたクロが声をかけてくる。私は首を横に振った。何が何だかさっぱりなのだ。
フリルのついたワンピース、腰あたりを絞ってあるシンプルなドレス、袖が広がったシャツ等色々あるが、動きにくそうなものばかりでどれもピンとこない。
「何かお探しかな?お客さん!」
店の看板娘がひょこりと顔を出す。どれも動きにくそうで欲しい服がない事を伝える。
「なるほどなるほど。あ、これなんかどうかな!機能性重視で作ったんだけど、見た目がシンプルなせいかあんまり売れなくて。でもお客さんなら気にいるかも!ね、試着してみて!」
後ろから引っ張り出してきた服と一緒に試着室に押し込まれた。確かに目立つのは大きな襟くらいで、他はシンプルなズボンと外套だった。良いかもしれないと試着しながら考える。
それにしても今日は賑やかな人が多い日だな。少し疲れてきた。
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