ダンジョンの外
落とした鎌を四つん這いで先に拾いに行く。拾った鎌を支えにして歩き、巨人の死体から角を全て回収。剥ぎ取れる素材を私とクロのバングルがいっぱいになるまで剥ぎ取った。
「よし、出るか。」
巨人と戦ったこの部屋の奥に魔法陣が出現していた。きっと外に出るための魔法陣だろう。ここのダンジョンに入ってどれくらいの月日が経ったのか分からないが、やっと日の目を見れる。
鎌を杖のように突いてひょこひょこと移動していたら、急に体が浮いた。
「ちゃんと捕まっておけよ。それと鎌、落とさないようにしっかり待ってろ。もう戻って来られないからな。」
クロが私を片腕で抱えていたのだ。善意でやってくれているのだろうが、急に持ち上げられると驚くからやめてほしい。
「下ろして。」
「足片っぽ無くて、歩くのもままならないのに?」
「……。」
悔しいがぐうの音も出ない。大人しく腕をクロの首に回し、振り回されても落ちないように捕まる。
魔法陣の上に乗り、転移の魔法が発動する。視界が真っ白になり思わず目を瞑る。
しばらくして光が和らぎ目を開いた。
久々に見たダンジョンの外だ。ただ、ダンジョンに入る前と景色が全く違っていた。
「ウルティの街って湖に浮かんでるんだったっけか…?」
そう。街が湖の中心に浮かんでいたのだ。前は街の側には草原が広がり、隣に大きな森。そして外れの方にこのダンジョンがあった。しかし、今は草原や森、向こうの世界で見れたビルや家が湖に沈み、その湖を囲うように林ができている。見たことが無い光景に全く別の街に来たような感覚に陥る。
「あっちの世界の物が、なんでこっちにあるんだ…?」
「とりあえず、治癒士の所に急ごう。走るから捕まっておけよ。」
クロに従い振り落とされないように捕まる。
湖を半周程走った辺りに簡易的な街へ入るための橋ができていた。余った木材の板で簡単にできた橋のため、所々に穴がある。どうやら街の周辺が変わったのは最近らしい。踏み外さないよう影遊で穴を塞ぎながら渡ってもらう。
街に入ったが、中はそれほど変化は見られなかった。所々木が生え、賑やかな街が若干落ち着いた街になったくらいだ。
大通りを走り抜け、街の中央にあるギルドの扉を勢いよく開く。
「受付嬢!治癒士はどこにいる!?」
「怪我人ですね、奥の部屋にどうぞ。ただいま治癒士を呼びますのでそちらでお待ちを。」
急な問いかけに対し冷静に返すエテル。流石、こういった対応は慣れているのだろう。
クロに抱えられたまま案内された奥の部屋に入る。倉庫の絵がかかった、私の職業が判明した例の部屋だ。そんなに時間は経っていないはずなのにどこか懐かしい。
ソファに座り、食われた足の断面が見えやすいようにズボンを捲って、治癒士のユフィアが来るのを待つ。
「リヤちゃんが帰ってきたって本当!?」
「片足ないってどう言う事なんだ!?」
「リヤちゃんその男は誰なの!?」
バンと勢いよく開いた扉から3人姉妹がなだれ込んできた。奥には頭を抱えたギルドマスター、ダンカンが立っていた。
倒れ込んだ姉妹の一番下からユフィアが這い出てきて、私の前に座り込み顔を真っ青に染めた。相変わらず、表情が豊かな子だ。
「あわわわわ…。な、なにこれ!?どうしてこんな怪我を!待ってて、すぐに傷を塞ぐから!」
足の断面に手をかざし、ユフィアが詠唱を開始する。
魔法陣が広がり、白く綺麗な光が溢れ出す。いつ見ても綺麗な光だ。徐々に痛みが引いていき、火傷跡も思わず目を逸らしたくなるようなひどい状態から、周りの肌と少し色が違うくらいにまで回復した。
「と、とりあえず傷は塞げたんだけど…。実は、無くなった部分は治癒魔法じゃ元には戻せないの…。」
まぁ、それはそうだろう。治癒は傷を治す魔法であって、取れた体の一部を再びくっつける魔法が再生魔法。新たに生やすのではなく、くっつけるのだから取れた部分が無くなったら再生は不可能になる。図書館の本で読んだ時からそれは知っていた。
少しでも適性があれば水系の魔法のように威力は皆無でも何とか使うことは可能だ。私には適性が無かったからか、どうやっても治癒魔法や再生魔法は使う事ができなかった。
「この街に再生士はいないし、治癒士もこいつだけ…。何とか治してやりたいんだが…。」
3人姉妹の次女、ジェシカが腕を組みながらポツリと呟く。この街の顔と言っても過言ではない人間がそう言うのだから、足の再生は絶望的だろう。
「治らなくても大丈夫ですよ。ただ、このままだと少し歩きにくいので、義足みたいなのってありますか?」
死ぬ覚悟で爆発させたから、その後のことは全く考えてなかった、なんて言うわけにもいかず適当に返し話題を逸らそうとする。
しかし、上手くいかなかったみたいでクロを含めた5人が私の方を凝視したまま動かない。何故クロまで私を凝視しているのだ。
数秒経った時、ギルドマスターと3人姉妹は扉の近くに行ってこっそりと会話を始めた。何の会話をしているのか、距離が遠いし声も小さく聞き取ることができない。
クロは私の隣に座り、こっそりと耳打ちしてきた。
「レイってそんな喋り方だったっけ?もっと砕けてなかった?」
さっき固まっていた理由はどうやら口調のせいだったらしい。思えば、クロと出会ってからずっと敬語での会話はしていなかった。驚くのも当然といえば当然なのかもしれない。
「前にこの口調で話せば、厄介事が起きても穏便に済ませられる事が分かってな。私は器用な人間じゃないから、咄嗟に口調を変えなくて済むよう、あの話し方にしてるんだ。」
「それって、父親のせいか…?」
クロの問いに頷いて返事をする。黙り込んだクロの顔を覗き込むと眉間に皺が寄っていた。そんな顔をするんじゃないの意味を込めて額に軽くデコピンをした。「だって」と言いたげな顔で、額を抑えこちらを見るクロに「気にするな」と微笑む。
話が終わったらしいギルドマスター一家が笑顔でこちらを向く。私の反対側のソファにジェシカ、ギルドマスター、エテルの順で座り、ユフィアが後ろに立つ。
「まず、義足の件だがアタシに当てがある。そこは安心してもらっていい。だが案内する前にいくつか質問がしたい。最初に1つ。ダンジョンから帰還したある冒険者がリヤの死体と、君の死体を発見したと2週間前に報告を受けた。この事について詳しく話が聞きたい。」
ジェシカが腕と足を組み、そう口にする。
ある冒険者…。クロと初めて会った時のパーティメンバーの奴か。殺したと思っているのだから、「殺した」と報告するより「死体を見つけた」と報告する方が普通だろう。もう戻って来ないと確信してそう言ったのだろうな。
私はその時のことを軽く説明した。クロがパーティ追放という形で殺されそうになっていた事、止めに入ったら崖から突き落とされた事、死にそうになったところをクロが助けてくれた事…。
ギルドマスター一家は表情をコロコロ変えながら、しかし話終わるまで静かに聞いてくれた。
「なるほど。クロ君と言ったかな?後でそのパーティメンバーの顔と名前、職業を教えてほしい。次に、街の事について聞きたいのだが、話を聞いている限り新しい情報は無いだろうからこれは置いておこう。最後に1つ。クロ君との関係は?」
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