第二形態
角が刺さった腹を庇いながらやつの攻撃を避けるのは、流石にきつい。
影から出てクロの方へ目をやるが、さっきの一撃が相当なダメージだったらしく、まだ動けないようだ。
時間が経てばやつは勝手に死ぬが、このままだと私たちが先に死ぬ。それに、竜化中のクロが一撃で動けなくなるほどのダメージ。私が食らったら、いくら物理防御のスキルがあるからとはいえ即死するだろう。何とかこいつの動きを止められないか。
少しだけでも動きを鈍らせようと土操作で岩を作り、投げつけてみるが巨人に蝿でも払うかのように軽くいなされ、防御も上がっているのか、ファイアボールでも死神の鎌でも傷ひとつつかない。鬼神化が厄介すぎる。
再び投げてきた大岩を避け、鑑定で巨人のHPを確認するがまだ半分以上残っている。
毒耐性が強くなったのか、腹の痛みが鈍くなった。この角をやつに突き刺してやればHPの減りが少し早くなるか…?いや、減りが早まらなくても動きが鈍くなるだけでいい。
影の中に入り、腹に刺さった角を一気に引き抜く。血が溢れ出してくるのをコートを破って縛り付け無理やり止血する。ついでにシルフィウムとタンザナイトから溢れた水を飲み、HPとMPを回復する。しかし流血状態は回復しないからこっちも巨人と同じように持続的にHPを削られる。急がないと。
影の中から、私がいる反対側からファイアボールで気を引き場所を誤認させる。背中を向けた瞬間に、影遊で角を突き刺す。
「グガァ!」
力一杯突き刺したおかげで簡単に抜けないくらいに深く刺さった。やつのMPは空っぽで自己再生はもうできない。蛇が自分の毒で死ぬように、巨人もそうなってくれたら嬉しいがあまり期待はできない。
巨人が地面を殴りヒビを入れる。鬼神化後は威力も上がっていて、広範囲になっていた。跳躍で上に飛び亀裂に落ちることは防いだ。しかし、動きを読まれていた。すでに上で待っていた巨人に思いっきり殴りつけられ、壁に激突する。
「レイ!!」
後頭部を強打したみたいだ。視界が歪み、周りの音がよく聞こえない。即死級のダメージを貰って意識がある方がおかしいのだが。いや、攻撃力低下の罠を踏んで威力が下がったから、意識は奪われなかったのだろうか。
クロが立ち上がり反撃に出るが、なすすべなく再び殴り飛ばされ巨人の角が飛膜や右足、右手のひらに突き刺さり、地面に磔にされてしまった。あいつにHP回復草とMP回復水を私よりも多く渡していたが、多分尽きてしまっているし、今の状態じゃ残りがあったとしても飲めない。
どうにかしてクロから視線を外さないとと起きあがろうとしたが、体に力が入らない。
ふいに巨人が私の左足を持ち上げ逆さ吊りにし、クロの方へ向き直った。何をする気だ…?
「グルルルゥ…」
「っ!」
喉を鳴らし巨人は楽しそうに顔を歪め、大口を開けた。こいつ、クロの目の前で私を食うつもりだ。クロも気付き絶望の表情を浮かべている。
鎌はさっき倒れた場所にあるし、体に力が入らない状態。しかし、ただで食われてやるつもりはない。
鑑定で巨人の残りのHPを確認する。残り1/3程度。
「頼む、それだけはやめてくれ!!」
磔にされたクロが叫ぶ。しかし、自分を殺そうとしてきた相手の言うことなど聞いてくれるわけがない。
ぶら下がった右足が巨人の口の中に入る。四肢を一本ずつ食うつもりだ。
一度見ただけで、まだ試したこともない。ぶっつけ本番だがやるしかない。残ったMP全てを右足に込めて、口が閉じるのを待つ。
これだけは使いたくなかったが、クロを生きてここから出すためにはこれしか残されていない。
ゆっくり口が閉じていく。もう少し、もう少し閉じたら…。
口が閉じかかり、歯が足に当たった。今だ!
ーガチン
スキルを発動した瞬間巨人が私の足を噛みちぎった。
「ぁぐ…」
巨人が私を離した。落下しながら見えた巨人は体勢を崩しているようだった。何で体勢を崩したのか分からないがもう関係ない。
私が口元を歪めた瞬間、ダンジョン全体を震わせるほどの爆発音が響き、巨人の頭が爆散した。
虎の前に戦った大樹のスキル、自爆だ。私を一飲みにするのならこの体全てを使って自爆する予定だったが、悪趣味な巨人のおかげで足一本で済んだ。
爆風でクロの隣まで吹っ飛び、壁にぶつかった。口から息の塊が飛び出す。
残った巨人の体が地面に倒れ、数回痙攣した後動かなくなった。
「レイ!?大丈夫か?今そっちに!」
MPが切れ竜化を解いたクロが角を抜き、体を引きずりながら横に来てくれた。
「クロ、MPはどれくらい残ってる?」
「え?えっと、1/10くらいかな。それより、これ食え!また出血多量で死ぬ気か!」
シルフィウムを口に押し込まれる。確かにHPも減っているが、これだけでは流血状態は治らない。止血しないといけないが、膝の少し上から食われたから圧迫止血法じゃ血は止まらないだろう。
「竜化しなくてもフレイムブレスは打てるか?」
「あぁ。威力はかなり下がるけど。なんで?」
「焼灼止血法だ。私の足をフレイムブレスで焼け。」
前に図書館の本で読んだことがある。出血面を数秒焼く事で止血する方法だ。血が止まる代わりに焼いた所は火傷になるが、回復できるスキルや魔法がない私たちは、これで無理やり止血するしかない。
「何言ってんだ!んな事するより早く地上に戻って治癒士の所に!」
「それじゃ間に合わない。既に冷や汗が出始めてる。早く塞いで血になるものを食わないと死ぬ。」
クロが歯を食いしばって他の方法を探しているのが分かる。故意で人を焼きたくなどないだろう。嫌な事を頼んでいる自覚はあるが、私のファイアボールでは威力が高すぎて自滅する。クロに頼むしか無いのだ。
「頼むクロ。やってくれ。私にはブレス耐性もある。少し強くても平気だ。それに焼く時間はクロのブレスなら一瞬だ。」
「……っ。分かったよ!やってやる!」
痛みに耐えるために虎から剥ぎ取った肉を咥える。こっちはあまり覚えてないが、歯を食いしばるとよく無いらしいから。
「…やるぞ。」
深呼吸をしたクロに頷いて返事をする。
クロが息を吸い、ゆっくり丁寧にブレスを打つ。鋭く走る痛みに気絶しかける。食いしばり辛うじて意識を保つ。
血が止まったのか、ブレスが止まる。
「終わったぞ。大丈夫か?」
「…あぁ、何とか。死ぬかと思った…。」
咥えた部分の肉を食べ、息を吐きながら答える。
前回助けてもらった時の目の交換もものすごい痛みだったが、同じくらいかそれ以上の痛みだった。前も思ったがもう味わいたく無い。
「死ぬかと思ったじゃねぇ、この馬鹿!」
心配そうな表情を浮かべていたクロが一変して、憤怒の表情になった。急な大声に驚き、体が跳ね上がったがそれを抑えるようにクロが抱きついてくる。
「急に自爆なんかしやがって!…っ、この馬鹿…。」
今度は涙声になっている。助ける方法がなかったとはいえ、ものすごい勢いで罪悪感が襲ってくる。
「ご、ごめん。」
とりあえず謝らなきゃと思い謝罪を口にした時、遠くでパキンと乾いた音が響いた。
体に魔力が流れ込んでくる。どこかで魔石が壊れたようだ。力がうまく入らずずっしりと重かった体がふわりと軽くなるのを感じる。
「言いたいことが山ほどあるがとりあえず、説教は後だ!早く地上に戻って、治癒士の所に行こう。」
「あ、ちょっと待ってくれ。」
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