ダンジョンの裏ボス
「そろそろ行こう。」
クロのその一言を合図に立ち上がる。
結局あれから自分から休みを切り上げることは出来なかった。
巨大な門を2人かがりで押し開く。
開けた瞬間、地面にヒビが入り地面がずれた。攻撃が来るかもしれないと警戒していたおかげでダメージはない。
地面から目を離し、部屋の奥にいるヒビが入った原因の裏ボスに目を向ける。6本の腕に、頭と肩や肘から生える棘のような角。紫色の巨人のような魔物が、地面を殴った体勢でそこにいた。
「クロ、まず腕を潰そう。あの腕に何度も攻撃されたらたまったもんじゃねぇ。」
一撃でダンジョンの地面にヒビが入るのだ。もしあれが全力で放ったものじゃないとしたら…。想像しただけで背筋が凍りそうになる。
クロが頷いたのを確認し、私は隠密を使いながら影の中に入る。後ろから死神の鎌と影遊でまずは肉を切る。
クロが竜化し、巨人の気を引いてもらう。見た目からして巨人は接近戦が得意だろうから、影の中からファイアボールと土操作、影遊でちょくちょく邪魔をする。影の中にいるのなら、自分がいるところ以外からでも魔法を放つことが出来るようになったから、私の居場所は分かりにくいはずだ。
クロが巨人を殴り、よろめいた所で影から飛び出し、死神の鎌と影遊で巨人の右肩を斬りつける。
「グォアアアアア!!」
巨人が悲鳴を上げながら肩を抑える。良いダメージが入ったみたいだ。切り落としは出来なかったが、骨がうっすら見えるくらい深く傷をつけられた。
巨人が残った左腕で地面を殴る。最初に放ってきた攻撃と同じものだ。一度避けたものだ。タイミングも分かってる。地面がずれる瞬間に横に飛ぶ。これの避け方は簡単で助かる。
次の攻撃法を考えようと巨人に目を向けると、目が合った。
ぞくりと背筋に冷たいものが走る。これはまずい。
急いで巨人から距離を取る。次の標的は私だ。ただ避けるだけじゃ、クロが攻撃を仕掛ける隙を作れない。どうにかして隙を作らねば。
「グルアア!」
巨人が短く吠え、私の方へ向けて肩に生えていた角を折って投げ、巨人本体は突進してきた。
影遊で飛んできた角を捕まえて、そのままの勢いで迫ってくる巨人の背中に突き刺す。私の鎌よりも切れ味のいい鋭利な巨人の角ならば、深く刺さるはずだ。
怯んだ巨人の背後からクロが纒雷と剛力を使って、殴り倒した。起き上がる前にもう一撃、死神の鎌で角が刺さった部分を切り裂く。
「グルルルル…」
小さく巨人が唸り、起き上がった。
「……は?」
背中に突き刺さった角が落ちてきた。肩から垂れていたはずの血も無くなっている。
「自己再生か。面倒臭いな!」
自己再生。その言葉の通りの意味だろう。初めて見たから動揺してしまった。
鑑定を使って、巨人の状態を盗み見る。たしかに削った分のHPは回復し、MPは削れている。1/5くらいだが。
しかし、何度でも再生可能なのか?それだと無敵じゃないか?今まで見てきた中でそんなスキルは、見たことがない。……考えていても、分からない。なら、
「クロ!自己再生のメリット、デメリットは!?」
知ってるやつに聞く。考えても分からないことを時間を掛けて答えを出すより、こういう時は人にさっさと聞く方がいい。
巨人が再生が完了した腕を振って、殴りかかってくる。それを土操作と影遊で何とか耐えながらクロに聞く。
「メリットは、傷とか欠損が完全に治る!HPも完全回復だ!デメリットが、完全回復する代わりに体力とMPをごっそり持っていかれる事だ!」
「再生中にMPが切れた場合はどうなる?」
「その時点で再生終了だ。傷の場合、塞がりかけ。欠損の場合は生えかけで止まる!」
なら持久戦に持ち込んだほうがいいな。一気に決めに行って回復されての繰り返しでは、分が悪い。少しずつ相手の体力とMPを削り、空っぽになるのを待った方がいいだろう。
それに、こちらにはHPを回復する草に、MPを一気に満タンにできる水を大量に持っている。空になることはまずない。ここにくる前に体力も十分に回復してる。
「クロ、持久戦に持ち込む!HPかMPが危なくなったらこっちに来い!」
クロにそう伝え、巨人に向かって攻撃を始めた。巨人の攻撃力が少しでも減って、こちらが有利に動けるように至る所に弱体化の罠を敷き詰め、土操作で落とし穴を作り、ウィンドで体制を崩し、火焔の鎌、死神の鎌を使って畳み掛ける。
クロも弱体化を巨人にかけ、剛力で殴って私の作った落とし穴に落とし、フレイムブレスを放ち、起きあがろうとした巨人を炎纒を使って空から叩きつける。
巨人は6本の腕が減ったり、体に大きな傷ができた瞬間に自己再生をし、こちらに攻撃を仕掛けてくる。
巨人に殴られたり、投げてきた角が腕に刺さったりしてHPが減ったら即回復。
それの繰り返しが3、4回続き、ついに再生が止まった。
「クロ!一気に決めるぞ!」
「あぁ!」
2人で巨人の心臓部に攻撃を始めた。私の6つのファイアボールを連続で同じ部分に当て、巨人が姿勢を崩した所をクロが剛力と纒雷で胸部を凹ませた。
「ガァァァァァァア!!」
巨人が吠えた瞬間、クロが殴り飛ばされた。
巨人が再び姿を変えていた。紫色の体が赤色に変わり、6本あった腕は4本に減り、関節部から生えていた角が増え、体の至る所に目が出てきた。一言で言うと気持ち悪い。
クロの方へ下がりながら、急いで巨人に向けて鑑定する。さっきまで状態の項目が『普通』か『流血』状態だったのに、今は『鬼神化』と書かれていた。普通や流血状態ならどんな状態なのか予想ができるが、初めて見る鬼神化は何が起こるのか全くわからなかった。
クロの元まで辿り着き、シルフィウムを渡してクロから離れて走る。さっきの一撃でかなりのダメージを追っていた。回復まで時間がかかるから、巨人がクロの方へ向かないよう影遊で挑発する。
巨人が挑発に乗ってくれた。
私の軽く4倍はありそうな大岩を軽々持ち上げ、こっちに投げてきた。
「嘘だろ!?さっきはそんなの無理だったじゃねぇか!」
愚痴をこぼしながら土操作で同じくらいの大岩を作り、何とか相殺する。
しかし、大岩の後ろに赤くなった巨人の針のような角も投げられていると気づかなかった。反射的に体が動き、急所は免れたものの、腹に突き刺さってしまった。毒まで追加されていたようでどんどん痛みが増してくる。黒虎のおかげで毒耐性が少しついているが、あいつの比ではないようだ。戦っているうちに自然と耐性が強化されるのを待つしかない。
鬼神化する前よりも力も素早さも段違いになっている。なにか弱点は無いものかとダメ元でもう一度鑑定をかけてみる。
「…ん?」
巨人の拳を影の中に入り避けたところで気づいた。こいつのHPが徐々に減っていることに。そのかわり、他のステータスがものすごく底上げされていた。どうやら鬼神化のスキルはHPを代償にステータスを上げるものらしい。
だったらHPが無くなるまで、攻撃を避け続け回復を続けるまでだ。
評価、感想等頂けたら泣いて喜びますので、是非お願いします!