第1章8 銀VS俺 1
初のちゃんとした戦闘シーン!
ここから出ることを決めた俺は計画を立てるが…。
(こういう時、『賢王』さんを頼るんだが、使えないなんてなんとも不安な気持ちになるな。)
俺は今能力封印の力を受けスキルを使えなくされている。
(だが、あいつは俺のステータスを知らないとみていいだろう。)
それが奴の間抜けなとこ。こんな素朴な馬車であれば簡単に壊せるだろう。一時期はアイツを殺したくてしょうがなかったが、今ではそんな気分ではない。何かが俺の頭の中に語りかけた気がしたが…。
今はそんなことよりもここから出ることを考えよう。肩と腹の傷はもう治りかけている。ステータスを見る。上級魔族の特性に『自動再生』があった。そのおかげだろう。これならば動きに支障はない。これで出るのが楽になるだろう。
「どういう感じでここから出るか。」すぐに出たいが力任せに馬車を破壊して出るのは得策じゃないだろう。馬車を破壊した後、周りから聞こえる声の主達が駆けつけてくるだろう。
しかし、今は『賢王』のサポートもないので、他にあんまりいい方法を思いつかない。
ということで俺は、やはり力任せの脱出を決めた。
腕に妹を抱き寄せ、足を振り上げる。そのまま地面に振り下ろした。
ドゴォォォン!
大きな音と、砂煙が上がった。
せめてもの抵抗で力いっぱい叩きつけ周辺を吹き飛ばす。
砂煙が消えた後周りを見る。どうやらまだ森を出ていなかったらしい。
「俺が気を失ってからそんなに時間が経っていないのか。」
そう思ったが今は夜だ。
周りには何が起こったかわからないのか、沢山の兵がこけている。
夜になるまで遅くなったのは増援を頼んだことにより時間がかかったのだと推測する。
「何事だ!」
前の方から聞き覚えのある声が聞こえる。ケントだ。あの忌々しい、俺をイラつかせる野郎だ。
また、俺の中の内なる心がアイツを殺せと言っている。だが、今は前よりも驚くほど冷静だ。
そして俺の方を見ると、奴は驚いた顔をし、そして同時に笑う。
「目が覚めたようだな。だがどうする?お前のスキルは封印したぞ。それは鍵で開けないと絶対に開かない特別製だ。お前のためにわざわざ国から取り寄せてきたぞ。」
やはり薄々気づいていたが鎖がスキルを封じる鍵だったようだ。さらには鍵でしか開けられないという情報のおまけ付きだ。
スキルが封じられているということは自動能力も発動しない。『全ステータス上昇』などがないということ。つまり素のステータスだけだ。子供の姿には戻されていないのか。スキルが封じられているということだからそこも戻されるかと思ったがそうでは無いらしい。『創造』のスキルは一生続くってことか。
(さてここからどうする。)
「ふん。いいハンデだぜ。どんだけ数を揃えようが雑魚は雑魚だ。」
牽制も兼ねてそう呟く。強気な姿勢を見せることで舐めていると思わせることが出来るし、何か切り札を隠していると思わせることも出来る
「俺もそう思う。だが、雑魚だけじゃないぞ?」
そう言うと、後ろから3人の男女が現れた。
「ケント。この女が君の恐れてた奴なのかい?」
「可愛い女じゃないの。少し図体がでかいけど。」
「ただものじゃないことだけは分かるがな。」
その誰もがケントと同じように日本人のような顔立ちをしている。
「ケントこいつ倒さないの?」
「アホかカオル。殺したくても殺さないように命令が出てんだよ。生け捕りにしたら報酬が多く出るからな。」
「ふーんそう。」
「しかし、ケント。これを生け捕りにするのは至難の業だと思うけど。」
「だからお前らも呼んだんだろうが。」
俺の事を無視して勝手に喋っている。今のうちに逃げようかと思ったが…。
「そこを動くんじゃないよ。ハヤト。近づき過ぎないように監視をしな。」
「はいはい。人使いが荒いんだから。」
ハヤトと呼ばれたやつが俺から3mほどの位置に付いた。統率の取れた動きだ。他の雑魚もだいぶ離れた所にいる。この包囲網を突破するのは苦労するだろう。
しかし、このまま何もしなかったらただ時間が過ぎるだけだ。覚悟を決める。
「ぐっ…?!」
まずはハヤトの腹に蹴りを入れる。綺麗に入った。これで到底動けないと思われる。
「ハヤト!ちっ。衛兵!さっさと突撃しろ!」
「「おぉぉぉぉぉ!!」」
俺の間合いだとわかったケントがすぐさま後ろに飛び、兵士を盾にするように入れ替わった。
今の一瞬で決着をつけたかったが、『賢王』が無い影響もあり速度が足りなかった。
ケントが呼びかけた兵士達は勢いよくこちらに突撃してくる。その士気と数は脅威だ。しかし、1人1人の戦力はそこまで無い。
足を振り上げ地面に向かって振り下ろす。すると俺の周りの地面が吹き飛ぶ。それに巻き込まれ兵士達はバランスを崩した。
体勢が整っていない内に、浮いている岩を足に兵士達を蹴る。
浮いた土が地面に落ちた頃には兵士達が地面に這いつくばっていた。殺さないように手加減をして蹴ったがどれも並の人間だと気絶するくらいの威力だったので皆起き上がれないようだった。
「ちっ…。時間稼ぎにも使えない奴らだ。ここは俺が出るしかないか。『大地の剣』!」
俺の肩と腹に怪我をさせた技だ。俺はまた貫かれないように高くジャンプする。
「そこまで想定済みだ!ヒュウガ!」
そう言うと他の日本人…ヒュウガと呼ばれた男がこちらにジャンプし近づいてくる。
「おらぁ!」
なんのスキルも使わずに殴りかかって来た。俺は足でその拳を捌こうとする。ヒュウガの拳が俺の足に当たった瞬間足を弾かれた。そのまま俺の腹部にもう一方の拳に叩きつけられる。妹に当たらないように体をひねり背中に攻撃が当たるようにした。
「ぐはっ……!」
俺はそのまま地面に叩き下ろされた。妹を庇うため、落ちる寸前でも身をひねる。
辛うじて妹を守った。どこにも怪我はない。
「はははは!3人相手に庇って戦闘とは、哀れな奴だな。」
ケントは鼻につく笑い方で俺を笑ってくる。ムカつく野郎だが、俺の今の状況は劣勢。スキルが使えないだけでこんなにも苦戦するとは。
「ハンデだよ。馬鹿野郎。」
「てっめぇまだ口の減らねぇ野郎だな!その口閉じらせてやる。」
「ばっ…!まだじっくり追い詰めた方がいいって!」
「あいつはもう瀕死だ!ここがトドメの刺し時!」
そう言うと俺に突っ込んできた。
「俺は剣も学んだんだ。努力の剣術を見せてやる。これで俺も...」
ケントが言う通りその剣術は努力のあとが見える。
…俺剣術とか知らないけど。
素のステータスでも、動体視力は良くなっている。だが、それでもギリギリだ。無数の剣先が俺を襲う。バックしながら避け続けるがこのままではジリ貧だ。
妹を抱きながらなので全く反撃する暇がない。
そうこうしていると、剣先が俺の腹部に向いた。さっと大きく後ろへ下がる。
今こいつ…。
「おい。お前俺の妹を狙ったな?」
「ああ。だからなんだ?」
「な…に…。」
こいつは、赤ちゃんを殺そうと思ったことをなんとも思わないだと…。こいつどこまで腐ってやがる。
「そうか。ならかける慈悲もないな。」
全力で地面を蹴る。凄まじい音とともに大量の砂が上がる。ケントとの間合いを一瞬で詰める。そしてそのままケントの腹に蹴りを入れこもうと思ったが…。
「ッ!」
サッと後ろに飛んだ。さっきまで俺がいたとこに拳があった。そのまま蹴ろうとしていたら、逆に俺が吹き飛ばされていただろう。
「良く反応出来たな。」
そのまま後ろに下がろうとした時。
「カオル!」
「お待たせ!極大魔法『炎帝の剣』!!」
カオルというやつの前に魔法陣が現れ特大の炎が俺を襲う。俺は咄嗟に後ろを向き赤ちゃんを守る。
(痛い痛い!)
赤ちゃんを守ることが出来たが魔防と、防御を突破し多大なるダメージを受ける。
これは大ダメージだ。思わず膝をつく。このコートによる軽減があってもこれだ。痛みが俺を襲う。痛すぎる。だが、ここで痛みに負けない。
こいつらを甘く見ていた。このままでは殺される。
認識を改め、正念場を切抜けるために気合を入れた。
気合を入れたはいいものの、それだけで何とかなる相手じゃない。ましてや、俺はスキルを封じられているという状態で尚且つ、妹を守って戦わないといけない。
(どうしたもんかなぁ…)
ここから現状を打破する考えを思いつかない。どれもが難しい選択だ。その中でも1番簡単な方法があるのだが…。
(俺は殺人をしないって決めたんだ。あまり気が向かないし、それが出来れば簡単だろうが。)
一人一人殺していけばこの戦力差でも負担が軽くなるのだがそれは気が乗らない。殺してしまえば俺の何かが変わる気がする。そう思ったからだ。
だが、妹を守りながらアイツらと戦うのはジリ貧だ。何か策は…。
「もう終わりか?まぁ3対1だし、仕方ねぇか。」
挑発をしてくる。そんな安っぽい挑発に乗る訳じゃないが、ここまで調子に乗られるのもうざい。
早くどうにかしてこいつを黙らせないと。
「まだ終わりじゃねーよ。どうやってその鼻折ろうか考えてたとこだ。」
売り言葉に買い言葉。言われっぱなしなのも嫌なので言い返した。
その態度にムカついたのか、俺への殺気をぴんぴんにさせる。
(困ったなぁ。すぐキレる短気野郎を相手にするのは疲れる。ちょっと気に触ることがあれば不機嫌になる。)
前世でもこういう奴は面倒くさく、関わりを持たないようにしていた。今回もそうしてやりたいが、状況が状況なだけに無視するのも出来ない。
さっさと終わらせて静かに過ごしたい。
「無駄だと思うが、降参はしないか?これ以上やってもお互い損するだけだぞ。お前達が今後一切俺たちに手を出さないと言うなら逃がしてやってもいいが…。」
言いながら負ける前に言いそうな感じだなと思う。しかしどうしても聞いておきたかった。
「はんっ!何を上から!今の状況を読めもしないか!戦いのアドバンテージは、俺らにあるんだよ!」
思った通り、俺の提案を一蹴し、罵声を浴びせてくる。分かっていたが、退くつもりは無いらしい。
あまり気が進まないが…。
まぁ、こんな余裕ぶってるけど何の策も思いついてないんだけどね!
あはは!はーっ、はーっ。
1人で喋ってたら虚しくなる。
そんな、戦場にいるということを忘れてしまいそうなくらいの考え事をしている。相手が本当の強者であれば命取りになるのだが、相手にそこまでの脅威はない。
スキルが封印されているが、ステータスでは俺の方が上回ってると思う。
ケントが隊長らしいからな。ケントのステータスは俺より弱かった。それなら他の部下も弱いだろう。まぁ、油断は出来んがな。
ただ、相手にアドバンテージがあるのはどうしようも無い。妹がいるが、そいつを守って戦うのは至難の業だ。それに部隊を任されているだけあった相手は実戦に慣れているが、俺は慣れていない。ここまで俺が不利だとは。
だが、俺はここで負ける訳にはいかない。そのための最善の策を練る。
「もうそろそろ終わらせてやる。この手直々に降してやるよ!」
そう言うとケント1人で突っ込んできた。咄嗟に赤ちゃんを下に置く。物凄いスピードだ。だが、スピードだけだ。故にそれさえ気をつければ…。
「どうてことないのさ!」
相手の剣を避け、顎に両腕を上げスキル封印をほどかされた鎖をぶつける。
「カハッ!」
「ケントッ!」
他の男女が悲鳴をあげる。鎖は俺でもちぎれない頑丈な作りが故にその威力は絶大だ。そのまま蹴りをケントの腹にキメる。
ケントは意識を刈り取られたのかそのままゆっくりと倒れる。
「クソが…。この俺様がお前なんかに…。何かの間違えだ…。」
「ケントが…。」
ケントを倒した時、一瞬カオルの動きが止まった。俺はその隙を見逃さず追撃を行う。カオルはそんな俺の動きについていけないのか、ケントが倒されてパニクっているのか呆然としている。
多分元々後衛の職業なんだろう。
そして、カオルの目の前にまで迫る。そのまま蹴りを繰り出した。
「やらせるか!」
ヒュウガが、カオルの前に現れる。俺の足とヒュウガの拳がぶつかり合う。
あの一瞬で良く受け止めれたもんだ。
「カオル!下がって魔法を!」
「わ、分かったわ!」
そう言うと、すぐさま後ろへと下がり、魔法の準備をする。またあの威力の魔法を使われると厄介だ。
どうにかして、ヒュウガをすぐさま倒さないと…。
あと2人…。
後ろに置いた妹を見る。こんな状況になってから、泣きやんでる。妹にこんな事言うのもなんだが、不気味だ…。普通の赤ちゃんなら、泣いててもいい状況だ。だが、妹は何も言わないし、泣かない。
「相手を前によそ見か?」
その声で我に返る。思考を巡らせていたら、目の前の奴を疎かにしていた。ヒュウガは間合いを詰めパンチを繰り出す。それを避け、また両腕を上へ上げる。
しかし、それを予測していたのか空振りへと終わる。
「それはさっき見た!それが俺に当たると思うなよ!」
「あぁ、俺もそう思った。」
ヒュウガは、俺が両腕を空振りにさせたのを見てカウンターをキメようとしている。だが…。
「だからあれは、元から当てるつもりはなかった。」
そのカウンターをさせる前に俺の蹴りが入る。
あえて隙を作りそれを利用した。ヒュウガが隙を詰めてくるか不安だったが成功した。
綺麗に入りヒュウガは、倒れる。
「俺もはやまっちまったってことか…。」
実戦経験もないが、前世の知識で何とか乗り越えた。これはたまたま相手に通用しただけだ。運が良かったと言えるだろう。
…運が良かったらこんな事にはならないか?
いや、気にしたら負けだ。
「ヒュウガまで!」
残りの1人が叫ぶ。
あぁ、後1人居たのか…。
魔法陣が完成される前にカオルへ攻撃した。
「皆…ごめん…。」
そのまま意識を刈り取った。
不利な状況、数的不利の対人間戦の初の実戦は勝利を収めた。




