第4章9 ヒェルテ
少し遅くなりました!
突然の模擬戦の終わりに観戦していた者たちも何も言えずに黙って2人の様子を伺っていた。
「これで終わりだと?……ふざけるな。」
へティアに蹴られ、その一撃で勝敗を決められたフォーティスは、静かに怒りを表していた。
その怒りの矛先は、へティアにではなく、自分自身に向けられたようにも思えた。
「フォーティス様!」
「貴様!剣での模擬戦なのだから、剣で勝敗を付けるべきだろ!」
フォーティスの弟子と思われる青年が怒りながら、へティアに近づいてくる。
「あー。だから、言っただろ?本当は剣で決着付けたかったんだけど、今の俺の実力じゃ無理だったからあぁするしか無かったんだよ。」
「だからって──」
「だから!……さっき謝ったし、そもそもこれは模擬戦。決着をつける1本が木刀とは言ってない。それに、文句を言うなら足技を使い始めたころくらいに言ってくれ。」
へティアが青年を軽くあしらうと、フゲンの元へ向かった。
「危ない場面もあったけど、無事に勝ってきたぜ。」
「あ、あぁ。」
フゲンに向かって軽口を言うが、フゲンは驚きで反応が鈍くなっていた。
へティアが目の前に来て、数秒してようやく気を取り戻した。
「ま、まさか勝つとはな。……さすがと言うべきか…。」
「その言葉はありがたいけど、あくまで模擬戦だからな。たった1発当てりゃ勝ちだし、100回戦ったら99回負けるような相手だったし。まぁ、運もあったってことだな!」
(実際にまた次フォーティスと戦って勝てるイメージが湧かないし。)
模擬戦だから、余裕を持って対応出来た、模擬戦ということでフォーティスが勝手に剣へのプライドとして剣以外の攻撃をしてこなかった。そういったものもありへティアの方が有利にことを運べたのもあるだろう。
「それでも勝ったということは事実だ。誇ってもいいと思う。」
素直にフゲンが褒めてくるのがなんだか、恥ずかしくて、体がむず痒くなる。
「ありがたいけど、フォーティス様達はそうとも思ってないようだぜ?」
フォーティスがいる辺を指さす。
フゲンがそちらの方向を見ると、少し体がビクッと動いた。異様な視線により、体が緊張したからだろう。
「所詮、模擬戦に勝っただけだ!フォーティス様が本気を出したらこのような結果ではない!」
俺たちを見て、先程の勝負に文句を言う。
(さっきからうるせぇなこいつら。本気というか、なりふり構わずこられたら負けてたって分かってるつーの。それが嫌ならそもそも負けるようなことやるなよ。負けたら全て言い訳になるんだから。)
フォーティス達の口説い言い訳を聞き、飽き飽きしていたが、フォーティスの取り巻きが黙る。
取り巻き達を手で制したからだ。
「やめろ。みっともない。私が負けたというのは事実。説明不足だったかもしれないにしろ、それを考慮せずに戦ったのはこちらの落ち度だ。」
「自分への怒りは整理がついたのか?」
「おい!言葉遣いを気をつけろ。」
フゲンに頭を軽く叩かれる。
素の自分が出てしまっていたようだ。
「すいません。フォーティス様。少し調子に乗りすぎていたようです。」
軽く頭を下げ、謝罪の言葉を口にすると、フォーティスは手を挙げた。
「構わない。……それと、先程の問に対してだが、大丈夫だ。1度負けただけでそう長くとり乱すほど落ちぶれてはいない。」
フォーティスの表情を見ても、最初に会った頃のような落ち着いた顔に戻っていた。
「自分を見直すいい機会にもなったしな。」
「それは良かったです。では、フォーティス様。私が勝ちましたので、約束の方をよろしいですか?」
フォーティスの顔を伺うと、少し眉元がぴくっと動いた。それからしばらくの沈黙がたった後、フォーティスが顔を頷いた。
「あぁ。構わない。ただ、ここで話す気にはなれないから、私の自室に来てもらっても構わないか?」
「えぇ。」
「それと──」
フォーティスが、自分とへティアの体を見る。
「服が汚れている。風呂にでも入ってからにしよう。」
へティアは頷くと、フォーティスの取り巻き達が風呂に案内し始めた。
◇◇◇◇◇◇
「──。」
風呂に漬かりながら、頭の中の考えをまとめる。
この王都に来てから、色々なことが起きた。その色々なことの中心は、レイクルのことだ。
レイクルと、フォーティスの関係だが、まず間違いなく親子の関係で間違えないだろう。
顔立ちも、あの特徴的な赤い髪も、あの切れ目も全て血が繋がっていることを確信出来るものだった。
その親子関係を言えない事情とやらがあるのだろう。
それに、剣聖という軍最高の地位を持ちながら、あの謁見室にはフォーティスはいなかった。
きな臭い。
(だけど今はまだ情報が足りないんだよな。これらを考えるのはフォーティスから話を聞いた後でにしよう。しかし、それにしても──)
へティアは、目線を下に向ける。
そこには、綺麗な肌をした体があった。無駄な脂肪も、筋肉もついていない、完璧な体つき。
(前世から考えたら、この体で、あんなに動き回るなんて考えられないんだよなー。ステータスというのが、体を補助していると考えるのが妥当だが。)
へティアは、体の中で前面にふっくら出ている脂肪を触る。
その柔らかさは、自分の体とは思えないほどふわふわで、指が脂肪の中に沈み込んでいった。
(この胸は、戦闘中に邪魔になるかもな。さっきも結構邪魔だったし。でも、なんか俺の体だし、これをちぎるのもなー。しかも、デカ過ぎず、小さ過ぎずの俺好みの完璧な胸だし。多少の不利になるかもしれないけど、このままにしておくか。)
風呂を出て体を、世界認識さんに頼み、すぐに乾かす。髪も乾かし、下着をつける。
そして、軍服を『創造』しそれを着る。
フォーティスの服装を見て、俺も軍服を着てみたいと思ったからだ。
そして、髪を綺麗に整え、フォーティスの自室へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
ノックして、フォーティスの自室に入ると、すでにフゲンとフォーティスが対面して座っていた。
フゲンの隣に座ると、フォーティスが中にいた取り巻き達を部屋から出した。
取り巻きたちにも話したくないような内容なのか。
「──。」
フォーティスが口火を切るのをしばらく待つ。しかし、一向に口を開く気配がなかった。
(な、なんだ何だこの空気。重ぇよ。早く喋りだせよ。)
それからも、待っていたがずっと沈黙を続けるフォーティスに我慢しきれなかった俺は思わず口を開いた。
「じゃあ、レイクル=アルバーンの事を話してもらいましょうか。フォーティス様。どうか隠さずに、覚悟を決めて話してもらいましょう。」
へティアがそういうと、少し驚いたかのような顔をしすぐさま元に戻す。
そして、意を決したかのようにこちらを真っ直ぐ向いた。
「ヒェルテ。この名は私の妻の名だ。とても可憐で、大人しい人だった。」
ヒェルテ。その名を口にしたフォーティスからは、怒りや、寂しさ、愛しさなど、様々な表情が顔に浮かんだ。
「それと同時に、とても強い人だ。」
本題に入らず、恐る恐る遠回りしながら、話していくフォーティス。その語りはゆっくりで、話すことを恐れているような気がした。
その様子は、迷子になった子供のようだ。先程、模擬戦をした相手と同一人物とも思えない様子に、それほど悩んでいた出来事だと予想する。
話を早く聞きたかったが、それを急かすことなど、出来なかった。
「これから話すのは、私の罪と、罰。なぜ再婚をしないのか、養子を迎えないのかと言う話になる。長くはなるが、これが、私とレイクルの事情を知るに関して、聞いて欲しいことだ。」
そう言うと、フォーティスは過去の出来事を話し始めた。
◇◇◇◇◇◇
ラリア王国には、大昔から栄えてきた家がある。
アルバーン家。
王国有数の剣士を排出してきた、超名門。歴代の剣聖は、1人を除いて全てアルバーン家から出ている。
そのアルバーン家では、幼い頃からの英才教育が行われている。
剣の事はもちろんだが、歴史に対しても熱心に教えこまれていた。
アルバーン家は代々王国に仕えてきた。その王国に対して、思慮を深めるためにも歴史を知ることが必要だからだ。
その名家の1人。
フォーティス=アルバーンがいた。
彼は、生まれながらにして天才で、ステータスが3歳の頃にはすでに2000に達していた。
それからの成長も驚くべきほど速く、10歳の時には、オール1万ものステータスになっていた。
そんな中、フォーティスは、ティストス森林にて、狼王が暴れているとの情報により遠征に出ていた。
その頃、フォーティスは11歳。
◇◇◇◇◇◇
「いやぁ、まさかフォーティス様に来ていただけるとは。王に感謝しないといけないですなぁ!」
「相手は狼王です。相手できるのは数少ない。実戦経験もまだ少ない、私に経験を積ませようということでしょう。」
フォーティスと話しているのは、1つの小隊の隊長。
階級は兵豪。齢は30くらいだ。
その彼が、フォーティスに敬語になっているのは、フォーティスが、アルバーン家の者というだけではなく、フォーティスの階級が副将だからだ。
11歳での副将は、王国始まって以来の出来事であり、兵の誰もがフォーティスに注目していた。
フォーティスは、幼い頃から、手を擦る人ばかり見てきた。年齢が離れているものからのゴマすりは、少し──いや、かなりきつい。
同年の者に対しても、兵に所属していると中々会うことはなく、居たとしても、訳ありな家族のため、身分の違うフォーティスと話すことは無かった。
その中で、この小隊長はフォーティスと、かなりラフに喋れるものだ。非常に数少ない友達と言うべき者だろうか。
「それと、いい加減フォーティス様というのはやめて頂きないのですが?ヴィル=ノールンさん。」
そうフォーティスがいうと、一瞬驚いたような顔をして、すぐさまくしゃっと、笑顔に戻る。
「何を言いますか。私はフォーティス様より階級が下なのですから。」
「師匠……。」
ヴィル=ノールンは、フォーティスが7歳の頃、兵に入り、調子に乗っていた時にコテンパンにされた相手だ。それ以来、師匠と言って懐いている。
今も尚、フォーティスは自分よりも強いと思っている。
「それは、師匠が階級試験を受けないからでしょう?」
「ま、そうとも言えますな!」
と、高笑いしながら、暗に昇級試験を受けろと言ったのを受け流される。
どういう訳か、ヴィルは昇級試験を受けないのだ。
何度も言うが、いつも断っている。
「それにしても、フォーティス様は言動がしっかりとされてますな。俺の子供もフォーティス様くらいですが、やんちゃでね。家に居ない時に育ててくれる嫁に感謝ですよ。」
子自慢のようなことをニコニコと嬉しそうに話す。
もしかしたら、昇級試験を受けないのは家族のためもあるかもしれない。
見当がつかないまま、目標が出たという地点まで進んでいく。
しばらく進み、もうすぐ日が沈む時だった。
「誰かー!!」
森の奥から、女性の声が聞こえた。
「お前ら!迎撃体制をとれ!俺と、フォーティス様が先に行くから、そこで木に隠れて待っていろ!狼王であった場合、すぐ引き返し、奇襲を仕掛ける!それまで待機だ!」
「「「「はい!!」」」」
ヴィルが、素早く指示をする。それに対しても、隊員達は聞き返すことも無く従う。
その速さこそが、王国最強の小隊と言われる所以だろう。
ヴィルとフォーティスが、女性の声の方へ向かうと、そこには1体の大きな狼がいた。
口元には血がついており、あたりにちらばっている体の一部からして人を食ったのだろう。
「師匠!私が先手を打ちます!」
すぐさま駆けて、狼王に1撃を加える。
放たれた斬撃は狼王に当たることは無かった。狼王がすぐさま引き返したからだ。
「ちっ!」
追撃をしようと狼王を追いかけようとしたが、ヴィルに止められる。
「師匠!なんですか!今、追撃を──」
「待て。ほら、この子。」
ヴィルの腕に誰か抱えられているのが見えた。フォーティスと同じくらいの歳だろうか。
体は血まみれだったが、全て返り血だった。
「なるほど。怪我人ですか。取り敢えずこの子を救出して、事情を聞いてみましょう。」
「あぁ。そうだな。」
ぐったりと、ヴィルの腕の中で横たわっている少女を見る。服もボロボロで、やせ細っていた。
あまりいい環境にいた訳ではないようだ。
そもそも、近くの町には規制を出していた。それを破ってまでここにいたのには理由があるのか。
(規制が出る前の外出者かもしれないか。)
フォーティス達一行は、その場を後にし、森の中に立てた拠点へと帰っていった。




