第4章1 来客
最近ラブコメを見たら鬱になりました。
高校の頃はそんなこと思わなかったんですけど、やはり歳をとったからでしょうか。
ノエルがゴループ町に来て、約2ヶ月が過ぎた。
ノエルの男嫌いは相変わらずだが、このゴループ町である住人に対しては、表情を表に出さないようになっていた。この町の人間が、全員いい人だったのもあるだろう。
ノエルの中では人間=悪いやつ、というのでイメージが固まっていたのが、ここの住人と触れ合うことでそのイメージも無くなったはずだ。
この町では犯罪も起きないし、起きたとしても、それは商売をしに来た外からの来客者が多い。
その場合は俺が警察のような役割を担っている。
その人間の処遇は俺が決めている。大体が町を出禁にしているか、人目につかないところで俺の経験値の足しにしている。この辺の魔物は経験値が美味くなく、Lvが上がらなくなった。そこで目をつけたのが魔物よりも断然に美味い人間だった。
犯罪者は当然悪だ。中には、冤罪や、仕方ない事情もあるのだろうが大抵は更生もできないクズだ。
そんな奴が死んでも誰も文句は言わない。
とまぁ、こんな感じで生活はあまり変わってない。
元々こんな生活をしていたからな。
あ、ひとつ変わったことがあった。
「おにいちゃん〜。はやくはやく〜。」
「おーう。今行く〜。」
今は、週2日の妹との遠足だ。
2日と聞いて多いと思うだろうが、それ以外の時は中々一緒に居てやれないからな。
少しでも一緒にいる為には必要なものだ。
親がいないユウキのためにも俺が親の代わりをしなくてはならない。
「ヘティア様はいつも何か考え込まれてますよね。」
「そうかな?すまない。今の時間に考え事はないよな。」
「いえ。大丈夫ですよ。…そのお顔を見るのが好きなので…。」
ノエルもこの遠足についてきてる。
あの時の言葉で、もう家族同然という風になったからだ。まぁ俺もそう思ってるから問題は無いが。
しかし、一つだけ問題がある。それは3人同じ部屋ということだ。
もちろん、ふたつ部屋を分ける事も出来るが、それでは他の客の迷惑もなるしあまり金を使いたくない。
そういうことで同じ部屋になったのだが…。
しかしまぁ、性別は無いし、俺のストライクゾーンですらないから大丈夫だと思うけど。
ただ、俺の精神が平穏じゃないだけだ。
ちなみにノース達はこの遠足についてきていない。
俺一人で偵察から護衛まで大丈夫だし、俺が普段やっている荷物の運搬の護衛を頼んだからだ。
あいつらは働きすぎで倒れないか心配だが、働くことが幸せですと、ブラック企業もドン引きレベルの社畜魂を持っていた。
倒れないことを祈るが。
っと、また考え事をしていた。
悪い癖だ。この世界に来てから、考えることが多すぎる。前世じゃ何も考えずに自堕落に生きてきたと言うのに。
『お兄ちゃんなんだから…』
「うっ。」
「どうしましたか?大丈夫ですか?」
「おにいちゃん?」
「いや大丈夫だ。」
またか。何故か前世の事を思い出す時に頭痛がして思い出せない。
ま、今分からないことは後回しにしよう。
それより今は遠足だ。
遠足と言ってもゴループ町の周りをただ散策するだけなんだが。
ゴループ町の周りはそんなに魔物がいない。出てきたとしても俺が倒すだけだ。
ノエルとユウキにも狩りをさせてもいいが、まだこの二人は子供だ。そんなのはさせたくない。
「ここで一休みしますか。」
ノエルがそう提案すると、俺は『創造』の力でブルーシートを創り、地面に敷いた。
最初は家を創る予定だったが、ノエルとユウキが、『そんなの全然遠足ぽくない。外に出ている意味がない。』と言ってきたので、どうにか、地面に座ると服が汚れるという言い分で、ブルーシートは許してもらった。
「やっぱりそとでのひるねは気持ちいいねぇ〜。」
そうなんとも幸福そうな顔で大の字になって寝ている。その姿はちゃんと年相応の反応で俺も思わず笑ってしまう。
「それもそうですね〜。」
ノエルもユウキに同調しながら大の字になって寝た。普段しっかりしているのもあいまって、こんなにだらけている顔を見ると頬が緩んでしまう。
俺も二人に合わせ大の字になる。
体がぽかぽかして凄く気持ちがいい。
なんだか、幼少の頃に河川敷で寝転んでいたことを思い出していた。
(あの頃は何も考えずにただただ遊んでいたなー。幼馴染の花と、妹と一緒に遊んでたなぁ。)
無邪気に遊んでいた時代をふと思い出した。
俺は昔、幼馴染である花と、妹と一緒によく遊んでいた。
俺は幼少の頃よくサッカーをしに遊びに出かけるやんちゃな少年で、それによく付き合ってくれた花と妹とつるんでいた。花は学校で一番可愛く(小学生の可愛いだが)あまり他人とつるんではいなかった。
孤高という言葉が良く似合う人だった。それでいてとても可愛いかった。同じ人間か疑うほどに…。
(っ!?)
そこで、ある疑問を思いついた。
しかし、これはありえない。だが俺の頭の中の片隅で急速に仮説が立てられていた。
(確かに人間か疑うほどに綺麗な容姿をしていたが、まさか…。ありえるのか?)
《それ以上はダメですよ〜。》
その言葉が聞こえたと同時に睡魔が襲ってきた。
そしてそれは、俺の疑問が確信に変わった。
(そういう…こ……と。)
《それはまだはやいのですよ。》
「…─ちゃん…」
う、なんだ。おれを呼ぶ声が…
「─ティァ様。」
「おにいちゃん!」
「ヘティア様!」
「はっ!?」
そこで俺の意識は目覚めた。
あれ?俺いまさっきまで何してたんだ?
なにか重要な事を考えていたような…。
「おにいちゃん?」
「ヘティア様?」
ノエルとユウキの声に俺は我を戻した。
何があったかよく分からないが、心配させちゃダメだよな。
「すまん。陽の光が心地よすぎて寝てたみたいだ。」
そう、笑いながら言うと、ノエルとユウキは二人とも同時に笑いだした。
「おい。なんでそんなに笑うんだよ。」
「だって、ねぇ?」
「えぇ。ヘティア様が子供っぽいと思いまして。」
その言葉に俺は眉毛をひそめる。
「子供?それはそっちだろ!」
俺が声を荒らげても二人は笑ったままだ。
その様子を見てなんだか心が温まった。
「それより、俺どれくらい寝てたんだ?」
「だいぶ寝てましたよ。もうそろそろ日も沈みそうですし。」
なっ!そんなに寝てたのか。
「おにいちゃんは子どもだねー!」
ユウキが俺を煽るように言ってきた。俺はそれに対し、笑いながら適当に相槌を打つ。
「なら、もうこんな時間だし帰るか。」
「はーい。」
そうして、俺達はゴループ町へと帰っていった。
俺たちがゴループ町に帰ると、町中に違和感を覚えた。
何か事件、事故が起きたわけではなさそうだった。
俺はとりあえずユウキとノエルを部屋に戻すために、一度俺たちが泊まってる宿屋まで帰った。
そして、俺は冒険者組合に足を運んだ。
「いらっしゃいませ!本日…ヘティア様!」
俺が店に入ってくるやいなや、カレンがいきなり俺に抱きついてきた。
(おぉ…。たわわが今日も暴れてますわ。って違う違う。)
俺はその暴力を押し退けて、カレンに目を向け話をしようとする。俺の目とカレンの目があった。
「そんな…。ここでするのですか?…ヘティア様のエッチ…」
「何考えてんだ!誰がそんなことやるか!」
「え、やらないんですか?」
そんなことを真顔で聞いてくるカレン。
その鋼のメンタルは見習いたい。てか、なんでそんな考えになるんだよこいつは。
俺たちの会話を聞いていた他の客からは、
「ヘティア様もカレンには歯が立たねーな!」
「よ、夫婦漫才!」
「いつも楽しませてもらってるよ!」
などなど、からかわれている。
昔はそれに対してもツッコミをいれていたが、もう疲れたので最近は無視することにしていた。
「そんな夫婦だなんて。…式いつあげます?」
「挙げるか!」
それに対しても、どっと酒場が湧く。
くそ…この飲んだっくれ達め。
顔を赤くしながら手で隠して体をくねくねさせている姿は冗談を言ってるようには見えない。
カレンが言っていることは冗談ではなく、真面目に言ってるのだろう。
だから俺もないがしろにするわけにはいかなく、あまり本気で言ったりはしないのだが。
真面目な恋心を邪気に扱うような男にはならねぇ。
けど、いつまでもこのままではいけないと思う。
言っても精神年齢は俺とこの子じゃあまり変わらない。性欲はないが誰かに慕われているっていうのは気分も悪くない。むしろ、前世でもあまり無かった経験だから、嬉しいのは嬉しい。
まぁ、この問題は後回しにしよう。
ここに来た目的を果たそう。
「真面目な話いいか?」
「…!はい。私はいつでも…。」
「だから!そういうのじゃねぇ!」
俺はいつまでも振り回されっぱなしなのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
俺とカレンは冒険者組合の2階にある、客室へと入った。
俺を客としてもてなすために、お茶が置かれた。俺はそれを出してもらったカレンに例を言った。またしてもくねくねしたがすぐに直った。
「それで、なんの御用でしょうか?」
「あぁ。どうも町に帰った時に違和感を覚えてな。一体何があった?」
俺がそれを言うと同時にカレンは驚いた表情を見せ、下を向き、微笑んだ。
「やはり、ヘティア様には分かりましたか。…いいでしょう。これは、町民にはまだ知られてませんが、実はこの町に、女王様が来たのです。」
「女王…?」
「はい。この国を治める方が来られたのです。町長が変わったので来るのは至極当然なのですが…。」
そこまで言ったカレンは顔を曇らせた。
女王。俺を襲ったやつや、ダークエルフの村を襲ったのも、どちらこの国の騎士だった。
そんな奴らの上司が真っ当なわけない。
そもそも、この町の状況を放っておいていたのは、やつだ。そんな奴が今更来ていい気はしないだろうな。それにカレンは今まで嫌な思いもしてきていたのだし。
「大丈夫だ。ゆっくりでいいんだぞ。」
「…はい。心配していただきありがとうございます。ですが、もう大丈夫です。ヘティア様に救われましたから。」
その笑顔は何故か俺を照れさせるほど、かわいらしかった。
「…それならいい。」
思わず声を裏返らせるほどに。
その様子を見て、カレンはにやにやしながら、俺に近づいてきて、
「あれあれ?私に惚れました〜?」
などと、茶化してきた。
「そんなんじゃねぇよ。さっさと話進めろ。」
思わず口調が悪くなったが、それでもカレンはにやにやしながらこっちを見ている。
やがてカレンは元の席に戻り、話を続けた。
「この辺で許しましょう。それで、女王様は今、フゲン様と話してます。」
「フゲンと…。」
「はい。もしかしたら、ヘティア様を呼ばれるかもしれませんね。」
「そうか。それでも俺は行かねーけどな。国のお偉いさんと話すのなんてつまらないし。」
「それはつまり、私とずっと話したいってこ」
「あぁ。それはない。」
俺はカレンが何を言いたいのか分かったので、先に先手を打たせてもらった。
カレンはなにかギャーギャー言ってるが俺は何も知らない。
「ヘティア様の意地悪です。」
「はっ。俺がこんな性格だなんて知ってるだろ?」
「はい。だからこそ私はヘティア様が好きなのです。」
俺に正面から堂々と言うカレン。あまりの不意打ちに俺は慌てる。
『とっさに冗談だろ』と言ってしまいそうになるが、俺は我慢した。なぜならその言葉が本物だと知っているから。
なぜなら、その言葉を無下にしていいほど俺は驕ってはいないから。
俺はその言葉に返事出来るほど覚悟を決めれていなかった。
「…そうかよ。」
「そうです。」
俺が当たり障りのない言葉しか言えなかったが、カレンはそれでも何も言わなかった。
「ヘティア様は本当に優しいですね。」
「そうかよ。」
「そうです。」
カレンは微笑みながら、幸せそうに俺と喋る。俺のことをよく知っているくせに。
しんみりとした雰囲気が3分ほど続いた。
俺は耐えきれなくなり、席をたった。
「じゃあちょっと、フゲンのとこに行ってくるわ。」
「はい。行ってらっしゃい。」
俺はカレンに見送られ、冒険者組合を出た。
いつまでもこのままではいけない。それは分かっているのだが、何百年経っても覚悟ができない気がしていた。
甘えだ。カレンに俺は甘えている。
あの心地いい空間を大事にしたい。だが、もし今の気持ちを伝えてしまっては今まで通りにふるまえる自信がない。
カレンはそんな俺の気持ちを分かっているんだろう。
それでもカレンは何も言わない。
俺は重い気持ちを振り切り、フゲンのとこへと向かった。




