第1章4 上級魔族
もう夏並みの暑さです。
すると、俺の服が引っ張られた。後ろを振り向くと、俺のいまの世界の妹がこちらをじっと見つめてた。
「おぉ!ようやく起きたか!今まで大変だったんだぞ〜。狼王に襲われた時も寝てたし。君は、肝が据わってるのかどうなのか。」
そう、苦笑いしながら言う。勿論意味は分かってないだろうが。
「あう!」
しかし、雰囲気で俺に悪意がないのを察したようだ。
「流石俺の妹だ!将来有望なのが目に見えてわかる!」
「あう!」
前世にも妹をいたのを思い出す。記憶のある限りでは、そいつはワガママで生意気で、でもなんだかんだ言って、俺も妹も互いの事信用してた。いざいなくなると寂しいもんだ。
「あう?」
こちらを眉をひそめ、首をかしげて見てくる。もしかしたら俺が感傷に浸っているのを本能で察知したのかもしれない。
「どうしたんだ?何か俺の顔についてるのか?」
そう、心配無用とばかりにチャラけるが勿論言葉はかえってこない。しかし、手を伸ばしてくる。
「ほんとにどうしたんだ?何か―。」
その続きの言葉は出てこなかった。代わりに出てきたのは涙だった。この子の頬に涙が落ちる。
「なん、だよこれ。」
と言い、涙をぬぐうが、どんどん涙が湧いてくる。
自分でも分からない。
どうしてこんなにも悲しいのか。
悲しい?そうか...。
「俺は悲しいのか。」
そうだ。俺は悲しいのだ。もう、前世のやつらにはどれだけ願っても会えない。
あの心地よかったであろう家族、友人その他諸々、もう会えないのだ。
それが心底悲しい。
それを実感すると、またもや涙が出てきた。
涙とともに思い出が溢れかえる。
俺がところどころ記憶を失っていたとしても離れない暖かい記憶。
あの生意気な妹も、俺のことを大切に思ってくれている両親も、そして―。
「く…くそ。何だよ。全然止まらないじゃないか。」
涙はいっこうに止まらない。もうどんな言葉も伝わらない。死ぬってもんはそういう事だ。伝え忘れた事も、感謝の気持ちも言わせてくれないまま突如、死は目の前にくる。
そんな俺の胸に温かい、優しい感触がした。
「あうっ。」
妹はまるで、俺のことを心配したように胸に飛び込み抱きついてきた。
「...。俺を励ましているのか?」
その返事はかえってこない。
だが、その目は俺を真っ直ぐ見据えていた。
その目に俺は心を動かされる。
何心配させてんだ。俺は。
「そうだな。俺は死んだ。でも俺の人生はまだ終わりじゃなかった。」
涙をこらえ、笑う。
「あう!」
すると、妹は、満面の笑みでこちらに笑いかけた。
先ほどからこの子は俺の心に突き刺さることを(たまたまかもしれないが)してくる。将来きっと俺の助けになる。
この子と俺は誰かに狙われている。そんなこと知ったことか!そんなもんはねのけて、この子を守り抜く。そして平和に楽しく過ごしてやる。それが俺のこの世界での目標だ。
今度こそ──。
「俺の人生は1度終わった。だから、この世界はボーナスステージ!俺は生き残る。前の世界の常識が当たり前じゃない世界で。」
そして、妹を見る。妹は笑っていた。俺も笑う。2人で──。
この人生を生きてやる!
◇◇◇◇◇◇
「さて。」
この世界での人生を生き抜くことを決めたはいいがまずは寝床の確保をしなければならない。
《上級魔族の特性で、睡眠は不要です。》
なるほど。そうだったか。……。
「上級魔族って何?!聞いてないんだけど!」
俺は慌ててステータスを確認する。そこには、
(種族名・上級魔族)と、記してあった。
(この世界に来てからたくさん驚くことばっかだな。もうどこか耐性がついてきた気がする。)
と、心の中で苦笑いをする。
(元々この世界に転生したこと自体、稀有だったんだ。魔族になったことなんてどうてことないな。)
それに、上級魔族の特性には、他にも食事不要、疲労無効もあるから、俺としてはこれはとてもいい事だ。
話が逸れたが、俺達は寝なくてもいいので、寝床なんていらないかもしれないが…。
《肉体的に問題はありませんが、ずっと当たりを見渡すとなると、精神を摩耗し、思うように体を使えなくなります。》
だよな。スタミナは大丈夫だが、精神の方は気が狂ってしまう。俺がもし全部魔族だったらその必要はないだろうが、俺の心は人間の頃の心もある。だから、必然的に寝床の確保が必要になってくる。ではどこに作るかだが……。
(地上は魔物がいるから却下だな。なら、地下に作るか?しかし、今はもう日が傾き、3時間ほどで暗くなるだろう。それまでに作れるかどうか分からない。)
よって、木の上にツリーハウスでも作ろうと思う。でも、初めての家作りでツリーハウスを作れるだろうか?いや、迷っても仕方ない。
まずは周りを見る。そして、手頃な枝をおっていく。
「すまんな。もらっていくぞ。」
一応謝罪しながら木の枝を集める。さらにその辺に落ちてる石を集めていく。
「材料は集まった。後は…っと、この辺に縄になるようなものはないか?」
《ゴム草というものがあります。視界に表示させます。》
世界認識さんに問いかけると、答えと同時に、俺の視界に草が赤くなった所が表れた。これが、ゴム草というものなのだろう。それを集めていく。
しっかし、『賢王』さんはなんでも出来るんだな。
「これで、準備が出来た。」
俺は、制作に取り掛かった。まずは、木の枝に石をくくりつけ、ハンマーを作る。これに意外と時間がかかったが何とか完成した。
「まぁ、初めてにしてはいいかな。」
俺は、内心満足して自分の作ったハンマーを見てこれから大変な、ツリーハウスもなんとかなるのでは無いのかと思いを馳せていた。
《普通能力『道具制作Lv2』を獲得しました。》
初めての製作に感慨にふけていたら、声が聞こえてきた。何やら新たな能力に目覚めたようだ。
というか、普通能力ってなんだ?それにLv2なぜそんな中途半端なんだ。
《この世界には3つにわけられた能力があります。》
と賢王さんが、説明し始めた。俺の意図を汲み取ってくれたらしい。さすがだ!
《まず1つは、普通能力です。これは、誰もが、すでにLv1の状態で獲得している能力です。しかし、Lv1ではなんの効果もありません。そこで、Lv2になるためには、才能が必要となってきます。Lvは10まであり、熟練度のようなものです。Lv10になるには、とてつもない努力と才能が必要となります。一部、Lvをカンストさせると、進化するものもありますが...。》
なるほどな。スキルにもLvがあるのか。なぜ今獲得した能力がLv2なのが分かった。あと2つ能力を聞こう。
《次に、希少能力があります。これは、Lv1という概念もなく才能があるものや固有の種族しか得られないようなものです。同じ能力を持っていても能力保持者によって違うものです。非常に強い力を持っている場合が多いです。数は少ないですが1つの希少能力の中に様々な能力が入ってる場合の希少能力もあります。これは、王系統や、大罪系統の能力に特徴とされます。実際はあなたの主がわかりやすいようにしただけですが。》
ふむ。この希少能力が、『賢王』や『色欲』、『狼王』って感じかな?
てか、俺に主なんていないんだけど?
(そう考えると、俺は3つも強いとされる能力を持っているのか。しかもこれ全部希少能力の中でもレアとされている能力…これは強すぎるな。)
改めて俺のでたらめな優遇措置に感謝する。
あと1つは、これより凄いのか?
《最後は、この世界に限られているものしか持っていない能力、超越能力です。これは、神の力をも超えるとされています。情報はこの程度しかありませんでした。》
なるほど。まぁ、平和に暮らしてたらそういう化け物にも会うことはないだろう。希少能力も、出来るだけ避けていきたいが、模写で奪うのもありだな。
それは後々考えるか。
(今度は道具制作について教えて欲しい。)
《『道具制作』とは、道具を作る際品質を良くしたり、簡単なものなら材料を持っているだけで、頭に想像したものを作ることができます。》
ほう。普通能力にしては、なかなか使えそうな能力だな。それと、世界認識さんにはほんとに頭が上がらない。こいつがいなきゃ俺は生きていけなかっただろうな。
「よし。情報も整理したことだし、続きを早速とりかかるか。……。としたいとこだが、この小さな体はどうにかならないものか。」
どうにもならないだろうなと、思い半分冗談で言ったつもりだったが…。
《狼王の死体を糧に体を成長させます。》
そんな声が聞こえてきた。俺の許可なしに何やってんだよ!と抗議をしたが、夢中になっているのかもう聞く耳をもたない。視界にあった狼王が、丸い1mくらいの球体になった。それが宙に浮き、俺にぶつかってきたかと思うと、目の前が真っ暗になった。どうなってるか不安になっていると、声が聞こえてきた。
《服装など、あなたの記憶から読み取ります。》
服装…。前世ではこんなの着てみたいってものあったなぁ。
《読み取り、完了しました。》
そして声が聞こえた次の瞬間、また光が戻ってきた。
目が光になれ始めた。すると、さっきまでとは、違う光景が俺の目に飛び込んできた。
「俺の身長が……高くなってる〜!」
喜びのあまり、はしゃぐ俺。目線からして、170くらいか?前世よりちょっと低いがそこはあまり気にしない。
「やっぱりこの感じがしっくりくるな。」
それと、やっぱり俺の姿を確認したい。世界認識さん頼めるか?
《了解しました。空間認識を使い、外側から見た姿を脳内に反映させます。》
1人の人が見えてきた。これが俺なのだろう。
「おぉ…。」
すごい。やばい。やばすぎて言葉が全く出てこない。まず黒のロングコートが目に付く。やっぱり誰しも1回は憧れると思う。
(うん。俺がそうだから。)
そして、何故か女。
(いや、別にいいんだけどね?)
髪は黒を基調とし、毛先が白色だ。まぁ、これは妹が髪の色白色だったからあまり期待驚きはない。これが遺伝か。
《否。狼王の色素が余り、せっかくなので変えてみました。》
(うん。違った。まぁこれはこれでかっこいいから文句はないけどね!それでも、なぜ女の体なんだ?)
《狼王の体を完全にあなたに適合させるのにとても量が必要だったため、女性の体までしか作ることが出来ませんでした。自分の魔気を使い、あなたの体と同等の体を作ることで男体化することが出来ますが、代わりに魔気をずっと消費するので、おすすめは出来ません。》
なるほど。ずっとMPを消費するようなものか。それは確かに得策じゃないしな。この体も動かしにくいという訳でもない。
(それに、自分で言うのもなんだが、可愛いしな!うん。可愛いは正義。)
などと、言って現実逃避をするのだった。
春休みが始まりそうなので、結構書けそうです。