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第3章9 再戦

ちょっと遅れました!

 目の前を白い世界がおおったと思った次の瞬間は森の中だった。

 ここから目的地までは約7km。スキルを使えばすぐに着くほどの距離だ。しかし、ボス戦前にEPを消費するバカがどこにいるだろうか。


(回復するまで待ってくれるわけないし、歩いて行くか。)


 そう決め俺は歩き始めた。

 本当なら一人じゃなくて、何人が連れていった方がいいんだろうが。


(正直俺が対処出来なければ、他のやつは無駄死にするだけだろうしな。)


 多分、ダークエルフの村とゴループ町のなかではいちばん強い俺が、どうにもできない相手は他の奴らが対処出来るとは思わない。

 それならば、無駄な死は避けた方がいいだろう。

 それでも、罠だと分かりながら、自ら敵地に一人で行くのはバカだと言えよう。

 だが、俺以外を危険な目に合わせることは出来ない。

 ケントの場所は先程から動いていない。

 俺が来ることを多分分かっていながら、どっしりと構えているのだ。それがどうして、罠ではないと言いきれる。

 あいつが俺を過小評価している可能性もあるだろうが、それは無いだろう。つまり、罠の可能性が高いというわけだ。


(これがゲームなら、見捨てたりしてたんだろうけどな。NPCの命なんて俺にとってはどうでもいいことだから。)


 ゲーム内でのNPCは、イベントを進めるためのものや、背景として置かれてるものが多々ある。

 それでNPCを殺したりするゲームもあるくらい、雑な扱いだ。

 キャラが立っているものは、作り込まれているが。ダークエルフの村人なんて村人Aのようなものだ。

 それでも、今俺がいる地は現実だ。脆く、崩れやすい現実。

 人は死んだら一度きりだ。

 俺はどういう訳か記憶を持って転生したが、普通はそこで人生は終了だ。

 その一度きりの人生を、何もしてない平和な生活をしていた人達から他人に奪わせわしない。

 それに...。


(なんで、あのノエルにこんな気持ちを肩入れするのだろうか。確かにこの道のりで結構話したがそれでもここまでして助けようとする理由には至らないはずだけど...。)


 それはたまにある、謎の感覚だった。

 思い出せない記憶や、自分とは思えない考え。それの全てがヘティアを不快にした。

 自分が自分の考えとは別にもう一つ考えを持つのだ。

 その感覚はまるで脳を見られているかのような感覚。常に他人がいるという気持ち悪さは、誰にでも耐えられるものではなかった。


(今から俺は、けりをつけにいくんだ。それなのにいつまでこんなことを考えている。)


 俺は頭を振り、邪念を捨てる。

 そして、これからのケントとの戦いに備え準備をする。

 俺は亜空間から、刀を出す。ドルンの私兵の副隊長と戦う時に創りルシファーとの戦いにて使った刀だ。


(刀に名前つけようかな。ゲームでも名前付いてるのが常識的な感じだったし。)


 そして、俺の持てる全ての引き出しを使い名前を考える。

 俺は昔からこういう名前を付けるのが苦手で、前世でのゲーム名やハンドルネームも、ネーミングセンスは皆無だった。

 その俺が、持てる限りのセンスを搾り取り、考えた結果...。


雪白せつはくとか...?)


 この刀の特徴、白い刀身に、黒い柄という、特徴を見て、雪を連想したか、付けた名だ。

 我ながら中々いいセンスをしている。

 すると、雪白が喜んでいるかのように白く光った気がした。

 おぉ。雪白も喜んでいるのかー。


(って、な訳ねーだろ。)


 俺は自分で自分をツッコんだ。

 俺とケントの能力差を考えれば刀なんて準備をしないでいいかと思うが、用心にこしたことはない。

 さすがに何の対策もなしに俺を待っているはずがない。

 と、ケントのこれまでの印象を思い出す。


(対策している...よな?)


 そこで俺は、考えるのをやめた。これ以上はケントのためにもやめておこう。

 ってなんであいつのために思わなければいけないんだ!

 ...話がそれた。

 この世界に来てからなんだが考え事をすることが多い気がする。

 ま、それもこの世界に来たら、何の考えもなしに生きていけるはずないか。

 そして俺は次の準備を進める。


「『男体化。』」


 俺は黒い球に包まれ、気がつくと俺の目線が高くなっていた。

 そして、『創造』で鏡を作る。


「お、おぉ。これが俺か。何ともまぁ美形なこと。」


 声も若干低くなっていた。

 そこには、前世の面影は一切なく、女体の俺に似ていた。

 髪の毛は変わらないが、肉付きが良く筋肉質な体で、しかし筋肉が多すぎるわけでもない。

 まさに誰もが惚れる体だ。

 なぜ『男体化』したかというと、こっちの方がステータスを完璧に使いこなせる上、俺の素性もバレない。

 この世界はどうやら体が基礎となり、その上でステータスを扱えるようだ。だからか、この世界はあまり女性で強い人はいない。

 身長は前世と同じくらいの177cmほどだ。

 この数年は女体の体で過ごしていたので違和感があるがまぁ大丈夫だろう。

 男体化は何かあった時の手段。『自動EP回復』の恩恵半分を体の維持で使うためあまり使用したくはない。が、今回は嫌な予感がする。

 慎重に行動して損は無い。

 この体になっても服がピチピチになることは無い。

 この服はこの体と一緒に創ったこともあり、男体化した体と女体化した体に合わせることが出来る。

 この『創造』の力も曖昧で、俺の体を維持するのにはEPを消費するのに、物などは、消費しないんだよな。


(これもまた、何かあるのか。...だぁ!謎が増えすぎて頭がパンクする。元々俺の頭良くないからこういうのは苦手なんだよな。ユウキとかは、頭が良さそうだから今後成長したら頼るのもあり.....いや、ユウキには戦いに参戦させない。妹に戦わせる兄がどこにいるか。)


 そう考えたところで、前世のアニメで兄と一緒に戦う妹がいた事を思い出す。


(あれはアニメだ。現実で戦う妹なんて、兄からしたら心配しすぎて戦うのに集中出来ないだろ。)


◇◇◇◇◇◇


 前に木々からこぼれて差し込む光へと向かっていった。

 そこには.....。


「ノエル...!」


「随分と遅かったなァ?」


 そこには木の柱に貼り付けられているノエルと、その前に座っているケントがいた。

 ノエルは、目隠しをされており、体も切りつけられたような傷でいっぱいでだらんと体が力無く吊るされていた。

 俺は頭が憤怒と憎悪でいっぱいになる。

 しかし、それでも冷静さは欠かずケントに飛びかかるようなことはしない。

 これがヘティアを挑発する狙いで何かしらの罠がある可能性もあるからだ。しかし、それを知っていてもこの激情を抑えることは出来ない。


「...お前。何しやがった。」


「何って、見てわかるだろ?こいつを痛めつけて遊んでいたんだよ。」


「その汚い口を閉じろ!」


「おぉ、怖い怖い。何しやがったって聞いたから答えてやったのにさァ。感謝してもいいだぜ?」


 俺の中の不快メーターが上がる。

 その一言一言が俺の癇に障る。どうしてこんなやつが俺と同じ日本人なのか。

 何故こんなにもこいつがムカつくか分かった。

 その目、その声色。中学生の時に俺をいじめていたやつに似ているからだ。

 それに対し俺は何も出来なかった。何も出来ないことをいい事に俺をいじめるのは日に日にエスカレートしていった。

 だが、──が...。

 ──。


(誰だお前は。なぜいつも出てくる。)


 何か思い出せない記憶にイラつくヘティア。

 クソッ!

 一言言葉をこぼし、そして感情を抑える。


「無視すんなよな。俺の機嫌が悪くなって手元が狂うかもしれねぇなァ?」


「黙ってろクソ虫。」


「そんなに口が悪いんじゃモテないぞ?」


 甲高い笑い声が森に響く。

 その不協和音は、心底俺を腹立たせる。


「ふん。そんなに余裕でも、お前のステータスじゃ俺に勝てない。」


 ケントのステータスは先日会った時と変わらない。500ほど全体的に上がっているが、俺の成長と比べたら月とすっぽんだ。


「『鑑定道具』でも持ってたのか?まぁいい。ステータスだけが全てだと思うなよ?」


 俺がケントのステータスを見抜いていると知ってもその余裕を崩すことは無い。

 その様子を見て俺の疑念は確信に変わった。

 やはり何かある。

 しかしそれでも何かが分からない。


「いつまでそこで突っ立ってんだ?かかってこいよ。」


 そう言い、中指を立てる。

 どう見ても挑発だ。俺がそれに乗ってくるのを狙っている。

 この辺はゲームと考えが同じだ。

 対人戦ではいかに自分の土俵で戦えるかが重要だ。コンボも一度決まれば抜けるのは容易くない。

 自分を見失わず冷静に考えろ。

 俺は雪白を取り出し、構える...


「来ないならこっちから行くぜ!」


 その一瞬をケントは詰めてきた。

 雪白を横に一閃するが手応えはない。

 そう思った瞬間、俺の下顎をケントの掌が貫いていた。


「...!?」


 俺は何が起こったかも分からず後ろへ吹っ飛ばされる。

 ダメージはそこまで無いがノックバック効果はあった。

 俺がケントの警戒を引き上げると同時にケントに注意を向けた。


「...ぐッ。」


 気がついたら俺は後ろから生えていた4本の岩の槍に貫かれていた。

 その槍は引っ込みその時の痛みで顔を歪ませる。

 4本の刺傷から、大量の血が流れてくる。

 俺の防御力を上回りダメージを与える。そして何より俺でも反応しきれない速度。

 ...一体なぜ?

 俺がケントの方を見ると、嬉しそうに笑いながら俺を見下す視線と目が合った。


「クックック。本気の殺し合いと行こうぜ?魔族さん?」


 ケントとの決戦が始まった。

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