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第3章6 戦いの鐘

 ダークエルフの村へと向かう途中、俺はノエルと世間話しながら歩いていた。


「ヘティア様は、どうしてユウキちゃんにお兄ちゃんって呼ばれてるんですか?」


 そうノエルが聞いてくる。


『何を言ってるんだ。俺がお兄ちゃんなのは当たり前だろ?』


 そう思ったが、よくよく考えれば、女の格好をしている俺が『お兄ちゃん』と呼ばれるのは何も事情を知らない人からすると不思議なものだろう。

 逆に、今までよく言われなかったものだ。


「あぁ。言ってなかったけど、実は俺無性なんだ。」


「無性?」


 聞きなれない言葉に首を傾げるノエル。

 これはどう説明したらいいのだろう。

 色々と複雑で、説明するのがめんどくさい。

 ユウキには、前々から俺はお兄ちゃんと呼びかけていたからだろうか、なんも違和感を持たずにお兄ちゃんと呼んでくれる。


「性別がないと言った方がいいかな。俺は元々男だったんだが、特別な能力(スキル)を取得した副作用でそんな体になっちゃったわけだ。ユウキには、俺が男って分かってるからな。」


「へー。なるほど、そうなんですか。」


 納得出来たかどうかは、分からないが説明は出来た。

 まぁちょっとだけ嘘もついたけどな。

 元々、この体を創る前は女の子の体だった。

 今この体は、その女の子が成長した姿になっている。

 そう、『世界認識』さんから聞いた。

 久しぶりに世界認識さんが出てきたな。

 随分と久しぶり聞いたような気がする。

 また話しが脱線してしまった。


「ま、ヘティア様の性別など私は関係ないですけど!」


「ふっ。そうか。」


「はい!でも、ユウキちゃんはヘティア様のことお兄ちゃんとして見てないと思いますよ?」


 そう意地悪な笑みで俺をからかう。

 なぜ俺はからかわれるのだろうか。そんなに舐められそうな顔をしているか?俺。


「そうかもな。だが、それは周りに頼れる人が居なかったからだろう。俺達には両親がいなかったからな。両親に向かうはずだった愛が、俺の所にしか来なかったからだろう。時期に、自分の気持ちを分かるはずさ。」


 そう言うとノエルは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐさま顔をいつも通りにした。


「そうですか。ですが、ホンモノだと私は思います。なので、あまり軽く考えない方がいいかもしれません。」


「...っ!ふっ。ノエルはなかなか賢いことを言うな。」


「い、いえ!ちょっと出過ぎた真似をしました...。」


 そう落ち込んでいるノエル。

 俺が思ったことは事実だ。

 ただ、素直に褒められるものでは無いだろう。これは、ノエルが地獄を見たからこその能力で、自ら求めて得たものではないのだから。


「いや、いいさ。肝に銘じておくよ。」



 それから俺達は、一切喋らず黙々とダークエルフの村へと向かった。

 そして...。


「ヘティア様。もうすぐで見えます。」


 ノエルが俺に小声で話しかけてきた。

 俺達は、村にいるであろう人族にバレないようにこっそりと近づいていた。

 木々の間に、立派な木の柵が見えてきた。

 これで村を囲っているのだろう。

 ダークエルフの村は、ゴループ町の4分の1もないくらいの小さな村だ。

 人口は100人程度だったらしい。

 今はどのくらいいるのか分からないが。


「さて、ここからどうしたものか。」


 村の門には、人族が一人、見張っている。

 『状態認識』で見たが、どれも平均200程度で、物攻が500と、普通なら強いが俺からしたら雑魚のステータスだ。

 ボコボコにしようと思えば出来るが、あんまり騒ぎを起こすと村の人達に迷惑がかかるかもしれない。

 ここはEPが勿体ないが転移を使うか。

 この3年で、転移をだいぶ使えるようになってきた。

 3キロ前後なら、結構な量の荷物も運べるようになった。

 ただ、EPはバカほど食うが。


「ノエル、手を繋いでくれ。」


 そう言うとノエルはさっきまで青ざめていた顔を嬉しそうな顔に変え、抱きついてきた。


(うーん。手を繋いでって言ったんだけどな。)


 そう苦笑いするが、この村での出来事がトラウマなのだろう。仕方の無いものである。


「『転移』」


 俺が、『空間支配』の力で転移した場所は、この村の村長の部屋。

 この村の家は、簡易的な家で、木の家、とそれ以外表現しょうがない家だ。

 前々から、ノエルに聞いていたので場所がどこかには困らなかった。

 すぐさま俺は周りからの干渉を妨害する結界を俺とノエルに施した。

 これも3年で取得した力だ。

 ノエルは口を開けてほうけている。

 その様子がおかしくて、緊張が緩みそうになるが、しっかりと引き締めた。

 そして、村長の家の中へ屋根の一部を取りはいっていった。

 村長の屋根裏部屋から真下に耳を傾けた。


「や、やめてください!命だけは!」


「うっせーな。一年前、あのガキに逃げられて俺はムカついてんだよ。性欲を発散することで我慢してきたが、お前達には飽きたところだ。俺達の上司も飽きるまででいいって言ったんでな。後は、お前たちを殺すだけだ。」


 そんな胸糞悪いことをほざくカスがいた。

 ごほん!落ち着け、俺。

 少々イラついたが、そんなやろうが人族達のリーダーであることは分かった。

 ま、更に上がいるらしいが、それでもここを任されたリーダーで間違えないだろう。


「んでだ。そんな俺をあろうことか命令するのか?お前ら如きが。死にたくないなら飽きられないように、子供でも渡せばよかったんだよ!」


 そこでの行動は褒められたものでは無いだろう。

 しかし、俺は自分の中にある衝動を抑えきれなかった。

 俺の隣で、震えて泣いているノエルが、『皆...』と、心配している声を聞いたから。

 俺が屋根裏部屋を壊し、派手な登場をかましホコリが舞った。


「誰だ!」


 そう言う人族のリーダーは俺の顔を見た。


「黒い髪に黒い服...。そして、その顔。これが、ボスが言ってたやろうか。ははは!たぎってくる。」


 人族のリーダーの目にユラユラと燃える闘志が見える。

 それに対し、俺はとても冷静だった。


「.....お前に言うことはひとつだ。罪を償え!」


 それを言うと同時に戦いの鐘が鳴った。


 俺と、人族のリーダーはお互い向かい合っている。

 どちらも一向に動こうとしない。

 それははたから見たら、達人の間合いとでも言うのか。

 しかし、それは一般の人から見たらの話だ。

 実力があるやつからしたら分かるだろう。

 ヘティアと人族のリーダーには、2個も3個も次元が違うことを。


「...。ここまでの圧、そしてこの緊張感!これほどの相手はシルバー様以来だ!」


 冷や汗をかきながら俺に言ってるのか独り言を言っているのか分からないが、そんな事を言う。

 シルバー、か。

 これでこいつらがどこから来たのか分かったな。

 ラリア王国...。

 理不尽に襲いかかってきた奴らか。

 俺にちょっかい出すのも懲りたんだと思ったんだがな。

 いや、こいつらの目的はダークエルフか。

 考え事を、『思考速度上昇』により、考えていた。

 目の前のやつは全身警戒が足りていない。

 警戒しているつもりだろうが俺からしたら全然足りていない。舐められたものだ!

 そして俺はそのまま目の前に突っ込んだ。

 目の前の人族は何も分からないまま腹に拳を...食らわなかった。


「かはっ...!」


 俺の頭になにか撃ち込まれ、俺はその衝撃で顔が後ろへ引っ張られた。

 何が起こったのかわからなかった。

 俺の速度に対応したのか?ただの人間如きが?

 しかし、それならなぜ追い打ちをかけてこない?いや、今考え事はやめよう。

 俺はそれ以上、なぜ反応できるか考えるのをやめた。

 今度は頭ではなく足を動かす。

 空中にいる体勢を無理やりひねり、足でやつの顔面を蹴った。

 普通なら首が取れてもいい威力だが、やつは俺に攻撃出来た。ならばこの程度では死なないだろう。

 そう思っていたが、簡単に首が取れた。

 やつは頭と胴体が離れていた。

 首の付け根は見るも無惨な姿になり、無理やり引きちぎられたせいか荒くちぎれたあとがあった。


(グロいな。)


 しかし、こうもあっさり倒すと何も達成感もないな。

 っと、ここの村長らしき人に挨拶しないと。


「すみません。夜分に失礼。あなた達の村の子供が私に助けを求めてきたので。」


 そう言っても目の前の景色に驚いているのか固まっている。

 それもそうか。目の前で人の首が吹っ飛ぶのなんて中々ない経験だろうし。


「何事だ!」


 あーあ。時間かけすぎちゃったか。

 十数人の兵士達が部屋へ押しかけてきた。


「フタビさん...!てめぇか!俺らのリーダー...を...。」


 一人の兵士が俺に、自分達のリーダーを殺された怒りで怒鳴ってきたが、だんだんと声が小さくなってきた。

 俺の容姿を見て、なにかにピンと来たのだろう。

 こいつらのリーダー、フタビか。名前も呼ぶ価値もない。

 こいつも俺を見て知ってるような口ぶりをしていたからな。やはり、ラリア王国から狙われているのか。


「どうした?俺らのリーダーがどうしたんだ?」


 俺がそう圧をかけると気圧されたように後ろへと下がった。


「き、貴様はァ!」


 そう言うと、兵士達は逃げ出した。

 おいおい。ちょっとは立ち向かえよ。

 俺は兵士達を追いかけた。

 そして、兵士の一人の顔をもぎ取った。

 兵士は俺を見て、恐怖の色に染まった。


「ふ、ふふふふ。ははははは!素晴らしい!この気分が高揚していく感じ!素晴らしいな。」


 俺はその絶望に染った顔を見ていると、心の中からドス黒い感情が溢れ出すのを感じ取っていた。

 しかし、その昂りは心地よく、破壊衝動に駆られた。


「こういう時なんて言うか知ってるか?サッカーしようぜ。お前らがボールな!」


 俺は手に持っていたボールを蹴り兵士達にぶつけた。

 そのボールが硬いせいか、ぶつかった兵士は腹に大きな穴が空いていた。

 そしてそのまま俺は他の兵士たちの頭をもぎ取り始めた。

 平和とは程遠い、人間の鳴き声がティストス森林へ響き渡った。

 それに対し、俺は何も感じない。

 それどころか、これが気持ちいい。

 そうして、残虐とも言える行動をした後、ダークエルフの村に静寂がおとずれた。

 しかし、俺の心はそれでもまだ、まだ足りないと破壊衝動に駆られる。

 目の前にいるやつ全て、殺す。

 そういった衝動を抑え込む。

 それをしてしまったら、ユウキに合わせる顔がないからだ。

 友達の家族、友人、故郷のみんなを殺したとあったらユウキが俺を見捨てる。そう、考えられたからだ。

 しかし、それでも耐えられるほど生半可な衝動ではなかった。

 だがなぜだ。

 なぜこうも俺の感情を、この魔族の心を抑えられないんだ。

 ちっ。頭が痛くて集中出来ねぇ。


「...!」


 頭が痛くて集中出来ない?

 確かに前も怪我をしたことがあるが、集中出来なくなるほどではなかった。

 だが今は頭が痛い。

 だんだんと頭の痛みが酷くなってくる。


「ぐっ...。」


 原因として考えられるのは一つ。

 さっきの銃弾か...。

 何かしらの能力スキルが入っていたのだろう。

 『世界認識』さん。頼む。


『.......』


 だがしかし、何も応えない。

 こんなことは一度しかなかった。

 これは。


「『能力封印』か...。」


「ご明察。」


 俺が独り言をつぶやくと、後ろの方から声が聞こえてきた。

 その声は聞き覚えがあり、そして、俺の黒い感情が溢れ出すほど憎い相手でもあった。


「ケント...!」


 そう。ケント。あの時倒したアイツだ。

 そんなケントは笑いながら拍手をしている。キモイやつだ。


「ふふふ。そんな怖い顔で睨まないでくださいよ。せっかくの再会なんですから。」


 そう俺の目の前まで来ると、何かしらを構える。

 それは、前世で実物を見たことは無いが、誰もが知っている武器。拳銃だ。

 それを目の前にし俺は...


「早速ですが、さようなら。」


 発砲する音、それを最後に俺は意識を失った。

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