魔界の学校見学
朝、目覚めた俺は、ティナの部屋の床で寝ていた。
いや、正確には、気を失たままで放置されていたのだ。
「芳士、何時まで寝ているのよ!」
俺の頭上で立っているティナは、腰に手を当てて俺を睨みつける。
――昨夜の事、まだ怒っているのかなぁ・・・・・
だが、そんな事より、重大な事が起きている。
これは、伝えた方が良いのか、迷う・・・・・・
そんな俺の視線にティナも気付いた。
「なによ・・・・・」
「いえ・・・・・」
下着が見えていた事は、黙っておこう・・・・・
俺は、起き上がると、クローゼットに戻り、服を着替えた。
「お待たせ」
「いつまで待たせるのよ。
ほら、食堂に行くわよ」
食堂では、いつもの光景。
食事を終えた俺は、ティナに話しかけた。
「ティナ、今日は、何処か行くの?」
「ええ、来週には、学校が始まるから、その学校の見学と準備よ」
「そうですか・・・・・」
俺は、何をしようか考えていると、食事を終えたティナから声がかかった。
「行くわよ」
「えっ!?」
「『えっ!?』じゃないわよ、貴方は、私の下僕でしょ、
それに、一緒に学校に通うのだから、ついて来なさい」
ティナは、席を立ち、俺を連れて部屋に向かった。
部屋に置いていたショルダーバッグに、
必要な物を詰め込むと、玄関に向かう。
「行ってらっしゃいませ」
エーリカが、一礼をして見送る。
「さぁ、行くわよ」
ティナが庭を通り過ぎる。
「あれっ、馬車は使わないの?」
「当然でしょ、学校は近いから、歩いて行くのよ」
ティナと俺は、並んで歩く。
本来、従者は、主より下がった場所を歩くものだと思い、
以前、後ろをついて歩いた事がある。
だが、ティナは、気に入らなかったようで、
「横に並びなさい、これは命令よ」
それから、俺は、ティナの横を歩く事にした。
暫く歩くと、学校の門が見えた。
「芳士は、学校が始まったら、私の従者として、
一緒に通う事、話した筈よね・・・・・」
確か、そんな事を言っていた。
「ああ、聞いたよ」
「・・・・・その言葉使いと態度、学校に行く迄には、直しなさいよね」
「えっ!?
今まで、言われた事無かったけど・・・・・」
「そうだったわね、でも、今、伝えたから、努力してね」
そう言いながら、ティナと俺は、門を潜った。
目の前に、そびえたつ城の様な校舎。
「これが、学校・・・・・・」
学校を囲う壁には、『認識阻害』の魔法が掛っており、
校内を覗いたり、見る事が出来ない。
その為、門を潜って、初めて校舎を見る事が出来るのだ。
「元々は、魔王の城?」
俺の言葉に、ティナが笑う。
「馬鹿な事を言わないで、
ここは、教会だったのよ」
確かに、魔王の城と教会を間違えれば、笑われるだろう・・・・・
そんな俺の手を握り、ティナは、校舎に向かった。
校舎に向かう途中、色々な種族と出会う。
「キョロキョロしないの」
「あ、うん、ごめん・・・・・」
俺は、物珍しさから、通りすがる亜人達を見つめていた。
そんな事をしていれば必ず起こる不幸。
校舎に入る前に、俺は、大柄な男に絡まれた。
「貴様、何、ジッと見てんだ!」
――ミノタウルスだ・・・・・・
俺が、感心しながら見上げていると、ティナが間に割り込んだ。
「ちょっと、何してんのよ!」
ミノタウルスの男は、ティナを見た。
「誰かと思えば、ヴァンパイアのティナじゃねえか・・・・・」
その視線は、決して気持ちの良いものでは無かった。
「そうか・・・・・こいつが、お前の連れ帰った人間か・・・・・」
「そうよ、だとしたらどうなの!」
ティナは、ミノタウルスから視線を外さない。
そうこうしている内に、ミノタウルスの仲間達が集まって来た。
「ドゥンガさん、どうかしたんですか?」
「いやぁ、久し振りに面白い物を見つけてな・・・・・」
完全にティナを見下している。
「用が無いなら、私達は行くわ」
ティナは、そう言うと、その場を去ろうとした。
しかし、ドゥンガは、ティナの手を掴む。
「勝手に逃げんじゃねえよ」
「離して!」
手を引き剥がそうとするティナだったが、ドゥンガはミノタウルス。
その力の差は、歴然に思えた。
しかし・・・・・
「いい加減にしなさいっ!!!」
ティナが、全力で手を引く。
吹き飛ぶドゥンガ。
ドゥンガは、その勢いのまま、校舎の壁に激突した。
「あ・・・・・・」
一瞬の静けさ。
茫然とするドゥンガの仲間達。
「さっ、行くわよ」
何事も無かったかのように振る舞うティナに、腕を掴まれた俺は黙って従う。
――怖ぇぇぇぇ・・・・・
「お、おい!」
我に返ったドゥンガの仲間が、声をかけて来た。
「何?」
不機嫌な態度で振り返る。
「このままで、済むと思うなよ・・・・・」
言葉に悪意を感じるが、ティナは、何食わぬ顔で答える。
「それ、敵対するって事だよね」
俺は、周囲の温度が下がったような気がした。
よく見ると、相手もそう感じたようだ。
若干、足が震えている奴もいる。
だが、文句を言って来た男は、未だにティナを睨みつけていた。
「お前が、この学校に通い出してから、今日の事を後悔させてやる。
校内では、爵位も権力も関係無いからな」
ドゥンガの仲間は、そう言い残し、その場を去って行った。
「ふぅ・・・・・」
息をついたティナは、俺に向き直った。
「あんた・・・・・護衛の筈よね・・・・・」
俺の体温が下がる。
「えと・・・・・多分、そうだと思う」
不機嫌な態度のティナは、俺を睨んでいる。
どうやって切り抜けようか考える。
「もう、『キョロキョロ』しません・・・・・」
返事が無い。
「ごめん・・・・」
やっぱり返事は、返って来ない。
俺は、最後の手段に出る事にした。
土下座だ。
「申し訳御座いませんでしたぁぁぁ!
何でも、言う事を聞きますから、許して下さい!」
崩壊してゆく俺のプライド。
だが、なりふり構わず、大声で謝罪を繰り返す。
その声に、周囲の者達の足が止まった。
――もっと足を止め、この状態を見てくれっ!・・・・・
その視線に、耐えられなくなっていくティナ。
俺の期待していた言葉を、ティナが口にした。
――作戦成功!・・・・・・
「も、もう、いいわ。
言う事は、聞いてもらうからっ!
だから、早く立ちなさいよ・・・・・」
助かった・・・・・だけど、言う事は、聞かないといけないんだ・・・・・
その後、ティナと俺は、校舎に向かって歩いた。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。