俺のある日の日常です。
食事を終えると、カーリアさんの持って来た家具の配置を手伝う。
「芳士、それは大切な物だ、もっと丁寧に扱え!」
「はいっ!」
俺は、ランカンスロープのオスカー、クロウ、ザムと一緒に働いていた。
肉体労働だ。
3人は、楽々荷物を運んでいるが、俺は元々人間だ。
『狼男と一緒にするな!』そう叫びたい。
だが、そんな思いを口にする訳にも行かず、無言で働く。
そして、昼を迎える。
――休憩だ!・・・・・・
喜んだのも束の間。
「芳士、こっちに来なさい」
今は、聞きたくない人の声。
「早く、来なさいっ!」
「あーハイハイ・・・・・」
「ここに座るのよ」
目の前の白い椅子。
これは、ティナのお気に入りの席。
俺が、座ると、何故か膝の上に座るティナ。
「うふっ」
目を潤ませ、綺麗な顔に笑みを浮かべる。
そして・・・・・・
『かぷっ』
今、俺は、ティナの食事になっている・・・・・。
満足したのか、首から牙を離す。
「・・・・・芳士、ちょっと、しょっぱいわよ」
当然だ。
俺は、肉体労働で汗を掻いたんだから。
「あーごめん。
ちょっと労働で・・・・・」
「そう、なら仕方ないわ」
そう言うと、再び抱き着き、牙を俺の首に沈ませた。
ティナの食事も終り、再び労働・・・・・俺の食事は?
俺は、急いでその場にあった残り物を、腹に押し込んだ。
夕方になり、作業も終わる。
俺は、夕食より先に、風呂に突撃。
風呂は、湯気で包まれている。
薄っすら見える湯船に、体を洗った後、飛び込んだ。
『ザブゥゥゥゥン!』
大きな音と共に、お湯が大量に溢れる。
「ふぁぁぁぁぁ、疲れた!」
思いっきり両腕を伸ばす。
すると、右手が柔らかいものに触れた。
その感触を確かめる。
『ぷにっ』
――柔らかい・・・・・
「芳士・・・・・・」
聞き覚えのある声。
恐る恐る振り向く。
「や、やぁティナ。
今日も疲れたね・・・・・」
「・・・・・」
「ティナさんは、怒っていらっしゃる?」
「・・・・・そうよ、それに、いつまで触っているの!」
殴られた。
「あんた、表の張り紙、読まなかったの!」
「え!?」
「私が、入浴中だって、書いてあったでしょ!
それとも・・・・・わざとなの?」
「・・・・・滅相もございません」
俺は今、散々説教を喰らい、湯船で正座させられている。
「わざとじゃないんだ」
「それで?・・・・・」
「あの・・・・・」
冷たい視線。
「本当にわざとじゃないんだ。
それに俺、この国の字は、読めないし・・・・・」
「言い訳・・・・・・」
「すいませんでしたぁ!」
何度も謝り続けると、ティナの怒りも収まり、今も湯船に浸かっている。
隣には、ティナ。
ただ、ティナの方を向く勇気は、俺には無い。
だが、ティナは違っていた。
「芳士、試したい事があるの?」
絶対良からぬことだ。
ティナは、俺の上に座る。
「えっ!?」
直接、肌と肌が触れる。
「ちゃんと支えなさい」
命令通り、ティナの腰に手を回し、抱きしめる形になる。
そして・・・・・
『かぷっ』
疲労と吸血行為により、俺の身体に反応は無かった。
満足するまで血を吸ったティナは、恍惚とした表情を浮かべていた。
「美味しい・・・・・温まった血も格別ね」
所謂、酒でいうところの熱燗だ。
ティナは、ひとしきり堪能した後、俺から離れる。
「たまになら、私との入浴を許すわ。
ただし、私の許可が、あったときだけね」
そう言い残し、ティナは風呂から出て行った。
「ふぅー、疲れた・・・・・・」
誰もいなくなった風呂、やっと落ち着けると思い、腕を伸ばす。
その瞬間、先程の感触を思い出す。
つい手を『ニギニギ』と動かした。
――なんか・・・・・柔らかくて・・・温かくて・・・・・
思い出して反応する。
「あ・・・・・・不味い」
俺は、想像する事を止め、遠くを見つめる。
「どうかしましたか?」
「いえ・・・・・なんでも・・・・・って!!」
浴槽の前に立つカーリア。
「どうかしましたか?」
再び問われる。
「あの・・・・・どうしてここに?」
「ティナ様から、変態が出たと聞いたので、退治をする為に参りました」
手にはデッキブラシ。
「冗談ですよね・・・・・」
「何故、私が冗談を言わなくては、ならないのですか?」
――駄目だ・・・・・逃げられそうもない・・・・・
諦めかけた時、風呂の扉が開く。
「カーリア、ティナ様がお呼びです」
「わかりました、直ぐに参ります」
――助かった・・・・・・
そう思ったのも束の間。
風呂場の入り口で、デッキブラシを2本持つエーリカの姿が目に映る。
「カーリアさん、俺も同行していいですか?」
「必要ありません」
『スタスタ』とその場を去るカ―リア。
そして残された俺。
「貴様、ティナ様に、何もしてねぇだろうなぁ!」
言葉使いも変わり、デッキブラシを振り回しながら、近づく鬼。
そこで、俺の意識は失われた。
目を覚ますと、俺の部屋(クローゼットの中)。
流石、不死。
体に傷は、残っていない。
ゆっくりとクローゼットから出ると、まだ夜中だった。
肌に当たる風。
俺は、カーテンが開いていることに気付き、ベランダに近づく。
そこには、月を見ているティナの姿があった。
ティナも芳士に気が付く。
「芳士、起きたのね」
「はい・・・・・俺、風呂場で、気を失っていたみたいで・・・・・」
「そうよ、あれくらいで意識を失うなんて、もう少し鍛えて欲しいわ。
それから、何か着なさいよ」
言われて気付く。
――俺、全裸だった。
慌ててクローゼットから、シーツを持ち出し、身体に巻いた。
そして、ベランダに戻る。
「ねぇ、芳士は、もとの世界に帰りたい?」
「えっ!?
どうしたのですか?」
「この世界に来てから、良い事なんて1つも無いでしょ、
だから、帰りたいのかなぁって思ったの」
――今日のティナは、変だ・・・・・話し方が優しい・・・・・
俺は、ティナにそっと近寄り、額に手を当てる。
「平熱です。
病気では、無いようですね」
「・・・・・・」
「じゃぁ、次、『あ~ん』して・・・・・」
俺が、口の中を覗こうとしたが、ティナは、口を開けてくれない。
「あ、あんた・・・・・」
「早く、『あ~ん』してくださいよ」
ティナは、『プルプル』と震えていた。
「もしかして、ト・・・・・」
俺は、壁まで飛んだ。
「あんたの心配をした私が、馬鹿だったわ」
ティナは、ベッドに戻った。
ゆっくり進行です。
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