王都に行く事になりました。
ティナから渡された資料は、学園の案内だった。
「俺、学園に通うの?」
「はぁ、何を言っているの?
貴方は私の下僕、だから、私の通う学園の事は、きちんと把握していなさい」
「わかったよ・・・・・」
芳士は、資料を広げて読み始めた。
『ネクロ学園のしおり』
ページを捲ると、髪の無いおじさんの写真が、デカデカと載っていた。
――インパクトあるなぁ~・・・・・
写真の下に、名前が書いてある。
2代目学園長 【グラン ネクロ】。
ネクロ家3代目当主。
2代目【ゴーマン ネクロ】の起ち上げた学園を引き継ぎ、
『愛と勇気と友情』をモットーに・・・・・って、少年漫画かっ!
思わず突っ込みを入れてしまったが、目の前でティナが監視しているので
最後まで読み切った。
「それで、明日からどうするんだ?」
「決まっているわ、引っ越しの準備よ」
ティナの用事が決まっていたので、俺は、この街を探索する事にした。
そして翌日、ベッドで目を覚ますと、目の前には、カーリアの顔が・・・・・
「わぁ!
何をしているの!」
「やっと起きましたか」
カーリアの手には、スタンガンが握られていた。
俺は、何となく理解出来たが、その予想が間違っている事を祈りながら聞いてみる。
「カーリアさん、その手にある物は・・・・・」
「スタンガンです。
100ボルトに調整してあります」
「それ、死ぬ可能性が・・・・・」
「大丈夫です。
ヴァンパイアですし、死にませんでしたから」
なにやら、不穏な回答に恐怖を感じる。
もしかして・・・・・俺で試したの?
カーリアは、スタンガンを置くと、俺の布団を剥ぎ取る。
「ちょっと!」
「お嬢様がお待ちです。
早くして下さい!」
「だけど、今は・・・・・」
布団を強引に剥ぎ取られた俺は、身体を丸くする。
「何をしているのですか!」
「男の子の事情を理解して下さい!」
思わず叫んでしまった。
突然、部屋の温度が下がったと思えるほどの冷たい視線を感じる。
「変態・・・・・」
「だから、これは、その・・・・・」
「淫獣・・・・・」
「酷いよ、俺は、何もしていないだろ!」
カーリアが、両手で自身の体を隠す。
なんで・・・・・?
「貴方は、私に何をするつもりですか!?」
「何もしないよ!
する気も無い!」
俺は、きちんと伝えた筈なのに、
何故か、カーリアが、置いたはずのスタンガンを手に持っている。
「・・・・・そうですか、そんなに私には、女としての魅力がありませんか・・・・・」
その後の出来事は、覚えていない。
だが、目を覚ました後、ティナに『いつまで寝ているの!」って怒られた。
結局、一日中、引っ越しの準備を手伝わされた。
100年もいなかった筈なのに、なんでこんなに荷物が多いのかなぁ。
準備もそろそろ終わりかけた時、ティナが何かを手に持っている。
「ティナさん、それ、どうしたの?」
「私の荷物の中に入っていたのよ」
「ソウデスカ・・・・・」
俺は、その物体を見ると、何故か体が拒絶反応を示した。
「ねえねえ、これ100ボルトって書いてあるわ。
これを当てられたら、どうなるのかしら?」
今度は、汗が流れだした。
俺の体が、オカシイ・・・・・。
「ねえ、当ててみてもいい?」
「駄目に決まっているでしょ!」
そんな声を上げてしまうと、ティナの嬉しそうな顔が目の前に・・・・・。
翌朝、俺は、いつも通りベッドで目を覚ました。
ただ、昨日の記憶が曖昧だ。
確か、ティナの引っ越しの準備を・・・・・思い出せない!
仕方なく、ベッドから起き上げると、そこには、カーリアの姿が・・・・・
「いつから居たのですか?」
「あなたが、『メイド服食べたいっ!』って叫んだあたりからです」
言い返しても、勝てそうに無いけど、俺の尊厳の為に戦う。
「俺、そんな事、言った覚えが無いけど」
「いえ、確かに言いました。
その証拠に、ここにメイド服をお持ちしました」
それ、俺を揶揄う為に隠し持っていたよね、絶対。
「カーリアさん、嘘は駄目だよ。
俺は、言っていないから」
「そうですか、わかりました。
では、これはお詫びに差し上げます」
カーリアは、俺にメイド服を渡してきた。
要らないけど、受け取ってしまった。
「 因みに、そのメイド服は、昨年まで勤めていた95歳の女性の物ですけど」
「いるかぁ!!!」
「贅沢な・・・・・」
それ、どういう事?
カーリアは何も答えず、昨日と同じ様に布団を剥ぎ取り、起きろと命令してくる。
俺は、男の尊厳を守りながら、必死に着替えを済ませた。
その後、朝食を終えると、ティナと一緒に王都の屋敷に向かう事になった。
屋敷は、何年も放置していたので、掃除と修理が必要だから、
一度、見に行くことになったのだ。
王都までは3日掛かる。
その為、今回の旅の護衛にライカンスロープの
【オスカー】、【クロウ】、【ザム】の3人が同行している。
他にメイドのエーリカとシーラが一緒だ。
俺は、疑問に思った事をティナに聞いてみる。
「車、持っているよね、それなのになんで馬車なの?」
「こちらに戻ったら、使ってはいけない決まりなの。
それに、向こうの世界の事は、人族には秘密なのよ」
そんな理由があったんだ。
おれは、他に決まりごとがあったら、教えて欲しいと頼んだ。
「いいわ、私が先生をしてあげる」
「うん、宜しく」
その日は、早めに野宿の場所を確保し、夕食の準備に取り掛かる。
料理を作るのは、エーリカとシーラだ。
俺は、その間に、森に入ってみた。
森の浅い場所で、ついでに薪の代わりになる枯れ木を拾っていると、
目の前に、ウサギ?が現れた。
多分、ウサギであっていると思う。
ただ、俺の知っているウサギとは、違っていた。
白い毛に目が6つ?
短い前足に、異常に発達した後ろ足、
口を開けたら、嫌でも目に付く大きな牙。
ウサギ・・・・・だよな・・・・・
その時、帰りが遅い俺を迎えにティナが来てくれた。
そして、目の前の魔獣に気が付く。
「ホワイトラビットなんて珍しいわ」
・・・・・良かった、ウサギで合っていた。
ティナは、魔法でホワイトラビットを倒した。
「早く獲って来てよ、戻ったらシーラに裁いて貰うのよ」
俺は、ホワイトラビットを担ぐと、野営場所まで戻った。
シーラに、ホワイトラビットを渡すと、手際よく血を抜き、皮を剥いだ。
上手いなぁ・・・・・
感心していると、シーラが声をかけてくれた。
「そんなに解体作業が面白いですか?」
「うん、初めて見るから」
「・・・・・やってみますか?」
シーラの提案は、有難かったけど、
1匹しかないので、失敗した時の事を考えると気が引ける。
「今度、お願いするよ」
「・・・・・わかりました。
では、今回は、しっかり見て覚えて下さい」
「そうさせてもらうよ」
俺は、シーラの説明を受けながら、ホワイトラビットの解体を学んだ。
翌日、馬車で移動をしていると、ティナが独り言のように呟く。
「ほう・・・・・こんな道にも出るのだな・・・・」
俺は、気付いたので、聞き返す。
「どうかしたの?」
ティナは、少し悩んだ素振りをした後、いつもの悪い笑みを浮かべた。
――碌な事、考えていないな・・・・・・
その予想は、当たる。
「決めた!
芳士、この先で魔物が待ち構えているようだ。
その始末を、お前に任せる事にしたのだ、精々頑張るが良い」
「いや、無理だよ。
俺、ただの一般人」
「何を言っておるのだ!
芳士は、ハーフヴァンパイアになったのだぞ」
『ハーフヴァンパイアになった』って言っても、何が出来るのか知らない。
「どうやって戦うかくらいは、教えてくれても良いと思うけど・・・・・」
ティナは、驚いた顔をする。
「もしかして芳士は、アニメやラノベを見たり、読んだりした事が無いのか?」
どういう関係が、あるのか分からない。
「勿論あるよ、それが関係あるの?」
「勿論だ、では、頑張るが良い」
ティナは馬車を止め、芳士を突き落とす。
「ここから、見ておるぞ」
そう言って、今日一番の笑顔を見せた。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。
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