強制転移させられました。
俺は、目を覚ますとベッドで横たわっていた。
「ここは何処だ?
誰かが、救急車を呼んでくれたのか・・・・・」
そんな事を思っていたんだけど、部屋の作りがどうも違う。
辺りを見回して見たが、高そうな調度品や天井の付いたベッド。
ゆっくりと体を起こしてみたら、激痛が走った。
「痛てぇぇぇぇ!!」
大声を上げた為に、部屋の扉が開き、1人の女性が入ってきた。
「お目覚めになられたのですね、お嬢様を呼んで参ります」
女性は、そう言い残して、部屋から出て行った。
――あの人、どう見てもメイド服・・・・・だったよな・・・・・
そんな事を思っていたら、再び扉が開いた。
「やっと目が覚めたのね、ホント、人族からの進化って時間が掛って仕方ないわ」
そう言いながら、少女は、近づいて来る。
「あ、あの・・・・・あんたが助けてくれたのか?」
「そうよ、感謝しなさい。
それから、『あんた』じゃないわよ!
私は【ティナ ツベス】、ヴァンパイアで貴方のご主人様よ、覚えておきなさい」
「ご主人様!?」
「そうよ、わかったら、言葉使いに気をつけなさい」
俺は、驚きながらも目の前の少女を見る。
「金色の髪、人形の様な真っ白な肌。
それに・・・・・可愛すぎるだろ!
この子が、俺の御主人様?」
『プルプル』震えながら、ティナの顔は、真赤になっていた。
「あ、あんた・・・・・初対面の女性に何を言っているのよ!」
「あれっ!?
俺、口に出してた?・・・・・・」
「無意識だったの!
本当に馬鹿なのね」
ティナは、そう言いながらも、顔は赤いままだった。
「ところで、なんでティナが、俺の御主人様なんだ?」
「あんたねぇ・・・・・まぁいいわ、説明してあげる。
あんたは、私が地球にいる時に、バスターミナルで死にかけていたのよ」
ティナの話を詳しく聞くと、バスターミナルで死にかけていた俺を拾い、
死ぬなら下僕にしようと決めて、ハーフヴァンパイアに生まれ変わらせて、
自宅に持ち帰ったと、教えてくれた。
「だから、私に感謝しなさいよ!」
「はい、はい、感謝しますよ・・・・・それよりも、ここは、何処なんだ?」
「質問ばかりね・・・・・」
ティナは、溜息を吐いた。
「ここは、『アルカディーラ』、私の故郷。
勿論、地球ではないわよ」
「地球では無いって・・・・・どういう事?」
「また、質問なの!
もう、飽きたから、後で教えてあげるわ、
それまで、大人しく寝ていなさい」
ティナは、部屋から出て行った。
「俺だって、戸惑っているんだよ・・・・・・」
小声で呟くと、部屋に残っていたメイドが、話しかけてくれた。
「この国の貴族の子弟は、5歳になると地球に転移させられます。
そして100年過ごした後、アルカディーラに戻り、
社交界にデビューする事が決まっているのです」
「転移?
なら、本当にここは異世界なんだ・・・・・」
「左様で御座います」
俺は、最後に一番大切な事を聞く。
「俺は、地球に帰れるの?」
「新しい子が産まれれば可能性は、御座います。
ですが、貴方はハーフヴァンパイア、お嬢様の下僕です。
離れて生活する事は、出来ません。
死にますよ」
下僕のハーフヴァンパイアは、主の血を飲む事で、命を繋いでいる事を教えてくれた。
その為、1人で地球に戻れば、『死』を意味する事だと理解した。
俺は悩んだが、この世界で生きる事に決める。
「なら、この世界の事を教えて欲しい」
メイドは、笑顔を見せる。
「良い心掛けです。
暫くは、お嬢様と行動を共にし、自分の目で見て学んで下さい。
私の名は【エーリカ】、それでも、分からない事があれば、教えて差し上げます」
エーリカは、そう言い残し、部屋から出て行った。
――俺、人間じゃ無くなったんだ・・・・・・
夕食時、ベッドで横になっていた俺のもとに、メイドが迎えに来た。
「さっさと起きて下さい、蛆虫」
「えっ!?」
「聞こえませんでしたか、変態」
「あ、あの・・・・・俺、蛆虫でも変態でもありませんよ」
「そうでしたか、失礼致しました、ド変態」
――なんか、酷くない・・・・・
そう思っていると、布団を取り上げられる。
「主を待たせる下僕が、何処にいますか!
早く着替えなさい!」
メイドは、そう言うと、ベッドの上に服を置く。
「こちらに着替えて下さい」
ベッドの上に置かれた服に、着替えようとするが、メイドは、その場から動かない。
「あの・・・・・着替えるので、外で待っていてください」
「何故です?」
「・・・・・恥ずかしいからです!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「私は、恥ずかしくありません、早くして下さい」
「俺が恥ずかしいんです!!」
「・・・・・仕方ありません、今回だけです。
早く、支度をお願いします、ド変態」
メイドは、そう言って部屋から出て行った。
――俺、やっていけるかなぁ・・・・・
俺は、服を着替えると、部屋の外で待っていたメイドと合流した。
「お待たせしました」
メイドは、俺の身だしなみをチェックする。
「フッ、変態にも衣装・・・・・ですか・・・・・」
「それっ、『孫にも衣装』ですよね」
メイドは返事をせず、歩き出した。
「ちょっ!」
慌てて後を追い、メイドの後ろをついて歩いた。
案内された部屋に入ると、大勢の人が俺を待っていた。
「遅くなって申し訳御座いません」
俺は、案内された席に着いた。
「では、始めましょうか?」
綺麗な女性は、隣の男に話し掛けた。
男は頷くと、椅子から立ち上がった。
「今日は、100年ぶりに帰って来た娘の歓迎会だ。
来週には、学園に行ってしまうが、それまでは、ゆっくりして欲しい。
ティナ・・・・お帰り、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
食事が始まると、次々に料理が運び込まれた。
――ヴァンパイアって、普通の食事もするんだ・・・・・・
俺がそんな事を考えていると、隣に座っていたティナが睨んで来る。
「あんた、失礼な事、考えていないわよね」
俺は、全力で首を振った。
「そう・・・・・なら、いいわ」
――こいつ、人の心が読めるのか?・・・・・
その後の食事は和やかに進み、全てを食べ終えると、最後に紅茶が出された。
「ティナ、そろそろ紹介してくれるかな」
男に答えるように、ティナが立ち上がる。
「芳士、立ちなさい」
俺は、言われるがまま立ち上がった。
「彼は、芳士。
私が、地球で見つけた下僕よ」
皆の視線が集まる。
「初めまして、白兎 芳士です。
お嬢様の下僕になりました」
「そうか、私は【ヴァン ツベス】、この地の領主であり、伯爵だ、これからも娘を頼む」
俺は、頭を下げた。
――領主って、お偉いさんだったんだ・・・・・
その後、領主の隣に座っているのが、ティナの母親で【パトリシア ツベス】で
2人の世話をしている男が、執事のセルだと知った。
後は、部屋で自己紹介してくれたメイドのエーリカと、俺を変態扱いしたメイドの【カーリア】、
大人しいメイドの【シーラ】だと紹介を受けた。
カーリアは、ティナの学園行きに同行するらしく、今もティナの世話を甲斐甲斐しくしていた。
でも、時折、俺を睨むのは、止めて欲しい・・・・・。
食事も終り、席を立つと、ティナが声をかけて来る。
「芳士、この後、部屋に来なさい」
「えっ!?」
ティナが睨む。
「返事は?」
「はい・・・・・」
食堂を出て、部屋に向かっていると、後ろから殺気を感じた。
やはり、後ろからカーリアが付いて来ている。
その為、後ろが怖い・・・・・振り向けない・・・・。
ティナの部屋の前まで来ると、カーリアに命令する。
「カーリア、お茶を2つお願い」
「はい、お嬢様」
カーリアが去った後、ティナは、俺を部屋に招き入れた。
「適当に座っていいわよ」
ティナの部屋は、綺麗に片付いており、凄くいい匂いがしていた。
――初めて入った女の子の部屋・・・・・・・だが、ヴァンパイアだ・・・・・
俺は、近くにあった椅子に腰を掛けた。
「あんたも私に同行して、学園に行く事になるのよ、
だから、王都の事と学園の事を説明するわ」
そう言うと、机の中から、資料を取り出した。
不定期、のんびり投稿ですが、宜しくお願い致します。
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