俺と再会と
「お姉ちゃんー!」
感動の再会。
と全てを終わりにしたかったがそうもいかなくなった。
深い理由はない。単純にかのんが抱きついた相手が美咲だったからである。
俺も美咲もそして雪も皆訳が分からないという感じで呆然としてしまっている。
美咲に妹がいるのは知っていたが会ったことは無かった。
3年も付き合っていたのにあった事ないのは間違いなく俺の責任だ。怖くて会わない会わないと逃げに逃げた結果こうやって災いとして降り注ぐ。
「ゆーくん……一宮さん。こんにちは……こんばんはかな?」
「どうも。茂原さん。この時間であればどちらでも問題ないわよ」
2人はすんなりと会話を始めたように傍から見れば見えるがこのトーンが低すぎて怖い。
なにか口を挟もうとするが雪からギロッという恐ろしい視線を送られるので思わず口を噤んでしまう。
そしてやーやー騒いでいるかのんは美咲に相手して貰えず飽きたのかこちらへやって来て「喧嘩だー」と楽しそうに騒ぐ。
「先にかのんを保護してくれたお礼を言っておくね。一宮さん」
「あら。ご丁寧にどうも。でも、最初に保護したのは私じゃなくて鎌ヶ谷くんなのよ」
「えー。そうなんだ。ゆーくんありがとう」
声のトーンを2、3段階上げて俺へ声をかける。
目の前で本当の姿を見せられているのに一応取り繕うとするあたり女子っぽい。
「それで一宮さんとゆーくんはなんで一緒に? 何も無いただの幼馴染が一緒に祭りへ来ているとは思えないけど?」
「別に茂原さんに答える必要はないと思うのだけれど」
「私はゆーくんの元カノだから……そしてゆーくんのこと好きだから。好きな人のことを知りたいと思うのは当然なんじゃない?」
「そう。好きな人とマンネリ化したからって別れて、他の男たちと遊んで飽きたから鎌ヶ谷くんとまた付き合おう……そんな人が好きとか語るのはちょっと失礼だと思うのだけれど?」
「他の人たちと遊んでたのは認めるけれど……だからこそゆーくんがどれだけ特別だったのかを思い知らされたの」
「だから、好きだって迫ってもう一度付き合いたいと……」
「そうだね。私はゆーくんが好き。男ったらしって言われようが、遊び呆けてゆーくんを1度捨てたダメ女だって周りに罵倒されたって良い。それでも私はゆーくんが良い。ゆーくんが手に入るのならなんだって受け入れられる」
「その誓いも信用にならないわね。茂原さんは自分の欲を優先して鎌ヶ谷くんを捨てた。この事実は変わらないわ。そんな人の誓いなんて信用に値しないのよ」
「それでも――」
「結局茂原さんは自分本位ね。今だって鎌ヶ谷くんの気持ちを確かめないで押しかけているじゃない。結局人って変わらないのよ。表面上は幾ら変わっても本質は変わらないの」
目にかかったであろう前髪を雪はファサッとカッコよく避けて俺の方を見た。
「鎌ヶ谷くんはどうしたいのかしら。私は復縁すべきだとは思わないわ。なんなら、ここでしっかりと縁を切るべきだとも思うわね」
かのんも周りの空気を察して静かになる。
お囃子の音と周りの視線だけがうるさい。
「でも、これはあくまでも私の意見。全ては鎌ヶ谷くんが決めることよ。今ここでどうしたいのかハッキリしておくべきだと思うわ」
雪がどこまで俺の心を理解しているのかは分からない。
だが、こうやってタイムリミットを強制的に作ってもらえなければきっと俺は永遠と美咲という人間に追われ続けることになったのだろう。
「俺はみっちゃん……いや、美咲には感謝している。こんな俺と3年間っていう長い期間一緒にいてくれてありがとう」
「それじゃ……」
「でも、美咲に今俺が思っていることがわかるか?」
「……なんだろう。疲れたな……とか?」
「不正解だ。正解はあんな別れ方をしておいて良くのうのうと帰ってきて一方的に好きだのなんだのって言ってられるな……でした」
「え」
「俺がどれだけショックを受けてたか分かるか? 俺がどれだけ美咲のことを好きだったか分かるか? どれだけ泣いたか、どれだけ愛したか……でも、もう全部焼却したんだ。美咲への愛はな。だからもう戻らないし、戻ることも無い」
美咲は黙る。
雪も黙る。
「この間好きにすれば良いと言ったがアレは嘘じゃない。だが、積極的にするだけじゃ惚れられるどころかうっとおしいと思う一方だな」
「じゃあ……どうすれば」
「近寄らない。俺の気持ちを理解する……それが出来りゃ良いんじゃないか? もう俺の気持ちが動くことは無いだろうけどね」
スマホをチラッと確認するともうすぐ集合時間だ。
「そういうことだから。さようなら」
「鎌ヶ谷くんからの返答が聞けて良かったわね」
雪は美咲の方へ近付く。
「私たちの邪魔はしないで」
小さきながらそう美咲へ伝えて歩き出す。
本人は美咲だけに伝えたつもりみたいだが丸聞こえだ。
かのんはポカンとした後「バイバーイ」と何事も無かったかのように手を振っている。
迷子を隠すためにプライドを持っていただけであり、実際はやはりただの子供だ。少し大人びているなと思ったけれど取り繕っているだけであった。
前を歩く雪に俺はひたすら着いていく。
少し気持ちがごちゃごちゃしているので仕方ない。
いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




