俺と部屋と幼馴染
「アンタさ。私の記憶抹消してたでしょ」
母の後ろからニョロっと出てきて部屋に入ってきたのは夏海だ。
威圧感を出しつつも髪の毛の先っぽをチョロチョロ触っているので可愛さの方が勝っている……なんてことを口に出したら怒られそうだから黙っておこう。
「……ってことだから。ごゆっくり〜。あ、夏海ちゃんはウチでご飯食べていきなね。連絡しておいてあげるから〜」
「え。いや。そんな大丈夫ですよ」
「あら〜謙虚になっちゃって。いいのいいの。今日お父さん飲み会らしいから大丈夫よ」
母は一方的に丸め込んで楽しそうに部屋から立ち去っていく。
夏海より母の方がやかましいなとか思いつつ俺はベッドから起き上がる。
「んで。なんで夏海がウチに来たんだよ」
「何? 私が来ちゃまずかった?」
「いや、まずいまずくないじゃなくてさ、普通に考えて付き合ってもない人の家来るか?」
「は? キモ。もしかしてアンタ私の事そういう目で見てるの? 大丈夫。安心して。アンタがその気になっても私はその気になんないから」
「はいはい。そうですか。そうですか……」
まぁた俺振られたよ。悲しいなぁ。実質4人に振られたことになるもんなぁ。
一宮が優しく見えるわ……
「にしてもさ……アンタの部屋来たのっていつぶりだろ」
夏海はキョロキョロと落ち着かなさそうな感じで見渡している。
「知らん。でも少なくとも中学生の時は来てないし4年ぐらいは来てないんじゃないの?」
「そっか……でも、あんまり変わらないね。私の記憶の中にあった部屋のままだよ」
「女子じゃあるまいし。そんなバンバン模様替えしないからな」
いや……まぁ。女子が模様替えするのかどうかも知らないんだけどね。
「あ。そうだ」
夏海はなにか思い出したかのように突然立ち上がる。
そしてあっちいったりこっち行ったりとまるで俺の部屋で何かを探すかのように動き回る。
「あれないの? あれ」
「あれってなんだよ。俺はエスパー使えねぇーぞ」
「あれってあれしかないでしょ。男子の部屋にしかないあれ……あの。エッチな……」
自分で口走って顔をさくらんぼのように真っ赤に染め上げる。
そんな恥ずかしいのなら言わなきゃ良いのに好奇心には勝てないのだろう。
気持ちは分からないことも無い。俺も女子の部屋行ったら薄い本探しちゃう気がする……いや、ないな。腐女子かどうかとか知りたくもないし。
「無い。大体最近はエロ本なんて売ってねぇーからな。スマホで全部済むんだよ。本当に便利な世の中だね」
「うわぁ……キモイ。こっち見ないで。変態!」
「アンタ……夏海ちゃんに手出したのかい? 本当に……別れたら早速ほかの女の子に手出して」
知らぬ間にお茶を持ってきていた母が俺の事を蔑むような目で見てくる。
なんでよりによってこんなタイミングで入ってきたのだろうか……
「違うから。手出てないから。てか、普通に無いから」
「まぁ、ほどほどにね」
母はまるで気を使いますよみたいな雰囲気を出してお茶を置いて踵を返す。
あぁ。間違いなく勘違いしてるね。あれ。
「……変態」
「やめろやめろ。勘違いどころか手遅れになるから」
「はぁ……」
夏海はつまらなさそうに貰ったお茶をグビグヒと飲む。
そんなに勘違いされたのが嫌なら言えば良いのに。変なところで律儀だよな。
せっかくならツンツンするのもやめて貰えるとありがたいわ。
いつもありがとうございます。
日間ジャンル別ランキング24位貰いました。
日間ランキングにもランクインしていたみたいです。本当にありがとうございます!
これからも是非お付き合いよろしくお願いします。