俺と幼馴染と恥じらいと
楓を連れてまた歩く。
しばらく歩くと太鼓の音が近づいてくる。
どうやらお囃子が見られるらしい。
あの独特で耳に残るメロディ。凄まじい。
「懐かしいなぁ」
楓はお囃子を見てそんなことを呟く。
相変わらず手は離してくれないのでもう諦める。
「懐かしいって……楓お囃子やってたっけ?」
「うん。楓やってたよ。数週間」
「じゃあ知らねぇーわ」
簡単な会話のキャッチボールをしてまたお囃子を眺める。
喋ろうにもお囃子の音で掻き消されてしまうので相当大きな声を出さないといけないし、そもそもお囃子に見蕩れてしまい喋ろうとも思わない。
一見するとごちゃごちゃしているがそれぞれに役割がありそれをしっかり担って躍動する。
どれだけ練習すればここまで上達出来るのか。
ダンスと同じような括りにして良いのか分からないがダンスと似たような匂いを感じる。
はぇーっと周りのことなど気にせず見蕩れていると楓に引っ張られる。
抵抗しようとする前にグイッと引っ張られてしまったので力に従うまま引っ張られる。
「楓もあれ出来ると思う?」
お囃子の場所から少し離れて楓は歩きながらそんなことを聞いてくる。
「無理だな。絶対に無理だ」
「えー。そんなに否定しなくても良くないー?」
お気に召さなかったようで口をプクーっと膨らます。
そういう所があざといんだよなぁ。
計算でやっているなら小賢しくて脱帽ものだし、素でやっているのだとしたら可愛すぎて脱帽ものだ。
「でも、楓があんなお化粧してこういうキラキラした浴衣じゃなくてああいう硬派な浴衣きて踊ってたら可愛くない?」
「自分で可愛くない? って聞くのがまず可愛くない」
「えー。なんでー? 可愛いって聞くの可愛いくないー?」
楓は二の腕を掴みキスをするんじゃないかと思わせるぐらい近寄る。
俺も楓も足を止める。
あぁ。これはキスされるんだなと理解する。
嫌だったら全力で拒否するのだろうが不思議と嫌だとは思えない。
むしろ、幼馴染という括りを外せばただの可愛い同級生だ。
そりゃ、男として嫌悪感を抱くわけが無い。むしろ、ご褒美扱いされるようなものだろう。
「……すると思った? どう? 可愛いでしょ。ドキドキしちゃったでしょ!」
楓は迫りに迫ったところでニコッと笑い俺の体からそっと離れた。
そのタイミングで楓はずっと握っていた手を離す。
「あぁ……キスされると思ったしめっちゃくちゃドキドキした……心臓に悪い……」
いつもならそんなわけねぇーよ的なことを照れ隠しで言うのだが、そんな照れ隠しをしている余裕すら無い。
胸に手を当てなくても心臓の鼓動が身体を伝うぐらいには鼓動が鳴り響く。
「え……あ……うん……ごめん……」
楓は楓で徐々に顔を赤く染め、俯きどんどん力を抜くような喋り方をして最後の方はギリギリ聞き取れるか聞き取れないかレベルになっていた。
「あ、楓ちょっと用事あるから! うん。また集合場所で!」
楓はパッと顔を上げると来た道をパタパタと走って去った。
俺は特に何をする訳もなくただボーッと走り去る楓を見つめていた。




