俺とお面と
「おい。夏海と再会したのに置いてって良いのか?」
「うーん」
楓は空いている手を口元に持ってきて唸る。
「良いんだよー。どうにかなるからー」
楓は俺の手を更に強く握ってパーッと走る。
手を繋いでいるという表現をすれば良いものに聞こえるが実際は連れ回されているが正解だ。
マジで俺はペットなんじゃないかって思うぐらいには連れ回されている。
多分周りからも嫉妬の目は向けられない。むしろ、大変そうだなという同情の目を浴びているぐらいだ。
「はぁ……それで何するんだ?」
「何もしないよ」
「何もしないのかよ。それじゃあ俺を連れてきた意味がねぇーじゃん」
「違う。違う。楓はね、裕貴と一緒に夏祭りを楽しみたいの。この空気をね! だから目的なんていらないんだよ!」
白い歯を見せニコッと笑う。
中々嬉しいことを言ってくれる。
恋しちゃいそう。
「どう? 可愛くない?」
楓は顔を覗かせる。
「あー。そうだな。可愛い可愛い」
「ムーっ。釣れないなぁ」
そんななんてことの無いやりとりをしながら歩く。
歩いて歩いて歩きまくる。
意味もなく手を繋いで歩く。
今度は引っ張られたりするわけじゃない。
お互いがお互いを意識し歩幅を合わせてゆっくり歩く。
今回はさっきと違って周りからもカップルのように見えているのだろう。
そんなことを思うと少し恥ずかしくなってくる。
美咲と手を繋いでデートしていた時は恥ずかしさよりもこんな美人な彼女を連れているんだという優越感が勝っていたが今回は付き合っている相手ではない。ただの幼馴染だ。
だからこそ変に緊張してしまうのかもしれない。
「んー。じゃああれが欲しいかな」
楓の指さす方向には人気アニメキャラのお面がある。
子供に大人気な某電気ネズミや戦隊モノ、小さな女の子から大きなお友達にまで人気のある女の子の戦隊モノなど幅広い。
そして今空前絶後のブームを巻き起こしている某アニメの兄妹のお面もあったりする。
「どれだよ」
「お面が欲しいだけだしなー……そうだ。楓に似合いそうなお面を裕貴が見繕ってよ」
手をぽんと叩いてさも妙案だと言うような感じで口にする。
全然妙案じゃないし、そもそもお面に似合うもクソもないような気がするのは俺だけなのだろうか。
だって、お面付けたら顔見えなくなるよね。絶対に似合うも似合わないも無いだろ。
だが、ギラギラと目を輝かせている楓を見るとそんなこと言えるはずもなく似合うお面を見繕うことにする。
無論、何が似合うのか、何が似合わないのかなんて普通のファッションですら分からない俺だ。お面の似合う似合わないを判断できるわけもないので適当ななんのキャラクターなのかも分からないお面をチョイスする。
屋台のおっちゃんにお金を渡してそこそこ可愛いお面を受け取りそのままの流れで楓に渡す。
マジでなんのキャラクターなのは分からない。
「どう?」
楓はお面を片耳を隠すように着ける。
良くアニメやゲームのキャラで狐の仮面をズラして付けているような感じに近い。
「まぁ……似合うんじゃねぇーか?」
思っていたより似合っていたので陰キャみたいに視線を泳がせながら口にした。
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