俺とくじ引きと
金魚を片手に夏海は歩く。
この風景1枚をパシャリと写真に撮ればまさに夏祭りだ。
浴衣に美人、手元には金魚で背景には屋台。
もしも『夏の日の思い出』的なタイトルで作品展にでも出せば最優秀賞が貰えちゃうんじゃないのってぐらい構図は完璧だ。
やっぱり結局は素材なんだよね。うん。
「後は何かするのか?」
パッとスマホを確認するがまだ集合時間まではかなりある。
そして相変わらず電波の入りは悪い。
「うーん。金魚は取ったし……アンタは何かあんの?」
腰を捻りながら振り向いて訊ねる。
ファサッと髪の毛が遠心力で浮き上がり周りの人の目を引く。
「ねぇーな。焼きそばはさっき桜花と食ったし」
「ふーん。そ」
夏海は突然不機嫌になる。
隣にピッタリくっついたと思ったら俺の足を思いっきり踏みつける。
「いってぇな」
「知らない」
夏海はプイッとそっぽを向く。
そしてまたなんの目的もなくただ屋台の端を目指して淡々と歩く。
目的はない。
「あれとか?」
夏海の視線の先にはくじ引き屋がある。
景品として後ろにPS5やら三テンドースイッチやらの箱がドドンと目立つところに置かれている。
それ以外にもトレーディングカードゲームなども置かれている。
ただ騙されてはいけない。
置いてあるから当たるわけじゃない。
当たりくじが入っていたとしても確率はかなり低いし、そもそも当たりくじが入っている保証だってこれっぽっちも無い。
こんな所で諭吉さんを何人も旅させるのであれば4人ぐらいの諭吉さんをゲームショップで旅させた方が効率的だし現物が確実に手に入る。
それに箱が当たったとしても箱の中身にゲーム機が入っていないなんてことも有り得るかもしれない。
いや、実際にそんな現場会ったことないしそもそも当たったことすらないけれどね。
「無いな」
「いや、あるでしょ」
「何? もしかしてやるの?」
「まぁ……1回ぐらいはやっとかないと」
もう言ってることが完全にギャンブラーだよ。
さっきの金魚すくいといい夏海はギャンブラー気質すぎる。絶対にパチンコとかやらせちゃいけないタイプの人間だ。
宝くじとかも「買わなきゃ当たらないから」とか言って毎回毎回買ってそうだな。
「1回やらせて」
「あいよ」
椅子に座っているくじ屋のおっさんは夏海からお金を受け取ると不正がないかくじを引く手元を凝視する。
俺はその中身に不正がないかを知りたいけどな。
「あー……はい」
夏海は納得いかない表情をしながら出てきたくじをおっさんに渡す。
おっさんはパッとくじを確認しパッとおもちゃなのかガラクタなのか分からない寄せ集めのコーナーを指さす。
「そっから好きなのひとつ持ってきな」
「いらない……」
夏海は眉間に皺を寄せながらガラクタを漁る。
漁りながら「うー」だとか「あー」だとか吟味し、本人的にまだマシだと思ったであろう謎のマスコットのラバーストラップを選ぶ。
「それね。どうぞ」
おっさんは景品を確認し、手に持っていたくじをポイッと捨てる。
左手に金魚、右手に謎のラバーストラップを持つ夏海を隣に置きながら俺は歩く。
「何そのキャラ」
考えれば考えるほど気になってしまい思わず訊ねてしまう。
「知るわけないじゃん。良くわかんないけどまぁ可愛いかなって」
「……そうか」
女子の感性は分からん。
まぁ、本人が可愛いと思っているのならそれで良いだろう。満足はしていないだろうけどね。
いつもありがとうございます!
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