俺と幼馴染と金魚
「アンタ鼻で笑ったでしょ……まだこんなの実力のうちに入らないんだから」
睨みつけながらそう言うと夏海はまたお金を店員に渡しポイを貰う。
そして精神統一でもしているのか大きく深呼吸をし真剣な眼差しで優雅に泳いでいる金魚を見つめる。
壮大な構えをして固まる夏海。
店員はニコニコ夏海のことを見つめる。
「今だっ」
夏海は綺麗なフォームでポイを水槽の中に突っ込み真っ黒な出目金をポイで捉える。
ドヤ顔をしながらポイを水槽から上げると出目金は捕まるものかと暴れに暴れポイを破って水槽の中に帰っていく。
「仕方ない……そういう時もある」
うんうんと頷き夏海はまた店員にお金を渡す。
「アンタ。見てなさい。次こそ私の本気を見せてあげる」
自信満々にそんなことを口走るが成功する未来が1ミリも見えない。
それでも夏海自身は出来ると疑っていないようでまた出目金を狙いポイをゴミと化した。
諦めが悪い夏海はまたお金を渡す。
「ちょっと貸してみ」
金魚すくいは得意ではない。
むしろ得意か苦手かどっちだと迫られたら苦手だと答えるような人間だ。
だが、夏海よりは上手い。これだけは間違えのない事実だ。
「は? アンタじゃ取れないから」
「じゃあ……ちょっと待ってろ」
仕方なしに財布から小銭を取り店員に渡す。
店員はニコっと笑いポイと皿をくれる。
斜めにポイを入れるだとか水面上に居る金魚を狙うだとか金魚すくいのコツらしきものを耳にしたことはあるがソースも分からない不確かな情報なので実質知らないようなものだ。
それにコツをしてっていたところで実践できるだけの技量はない。
だって初心者中の初心者だもの。
適当にポイを水槽の中に入れたまたま上を通りかかった小さくて元気な金魚を捕まえる。
そして素早く皿へとぶち込む。
ポイこそ破れてしまったが、金魚はしっかりと捕まえられた。
「どうだ? 捕まえたぞ?」
「アンタが出来るなら私だって……」
夏海は対抗心を燃やし挑戦するが捕まえる前に破れてしまう。
「諦めろ」
俺はポンと優しく夏海の肩を叩き諦めさせる。
挑戦する心はとても大切だが、挑戦し時に諦めるのもまた大切である。
引き際を間違えるとただのギャンブラーと化してしまうからね。
俺は捕まえた金魚を店員さんにビニールへ入れてもらう。
金魚はビニールの中で元気よくあっちこっち泳ぐ。
まるでさっきまであっちこっち屋台に走っていた夏海みたいだ。
別に金魚すくいをやりたくてやったわけでも、金魚が欲しくてやった訳でもない。
ただ、単純に夏海へ取れるぞってのを見せつけたかったのと昔を思い出してちょっと同じことをしたくなっただけである。
「くれてやる」
俺はお金を出そうとしている夏海に金魚を渡す。
ポカンとしている夏海に無理矢理握らせた。
昔もやってもやっても金魚が取れずに俺がとった金魚をあげたのを思い出し、何だかんだ変わらないんだなとほっこりとした気持ちになった。
あの大きな金魚元気なのかなぁ……
いつもありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!




