俺と幼馴染とりんご飴と
色んなタイプの屋台が存在する。
客足が伸びず周りの屋台のおっちゃんと談笑しているタイプの屋台に幾ら人を捌いても次から次へとやってくるタイプの屋台。
祭りを楽しむ来訪者はカップルから男子中学生か高校生ぐらいの集まり、家族にちっちゃい子供たち。
老若男女問わず来ており、浮かない顔をしている人達なんてどこにもいない。
皆楽しそうに笑い、食べ歩き、写真を撮る。
周りは楽しそうにガヤガヤするが肝心の俺たちは喋らない。
独特な沈黙が流れている。
俺は俺でどんな話題を提供すれば良いか悩み喉まででかかって留める。
そして桜花も何も喋らない。
だからどんどん沈黙だけが流れ、喋るような空気ではなくなっていく。
美咲と初めてデートした時もこんな感じだったなと思い出し少し初々しさまで感じてしまうがそんな悠長にしている暇もない。
男として……いや、一緒に祭りへ来ている一人の人間として桜花を楽しませる義務が俺にはある。
「あのりんご飴とか食べるか?」
色んな屋台がある中パッと目に入ったりんご飴を提案する。
我ながらナイス選択だと思う。夏祭りで女の子がりんご飴を持つとかそれだけで風情があって良いもんね。
それに桜花は甘いものは嫌いじゃないはず。
その点でも完璧だ。
「う、うん。じゃあ並ぼ」
「おう。そうだな」
りんご飴を大体的に売り出しているだけでありりんご飴しか売っていない訳では無い。
いちご飴やパイン飴などなんでお前たち我が物顔でそこにいるんだよみたいな商品たちも居る。
だが、そのバリエーションの多さがテンションを上げるひとつの要因になる。
「ゆーくんどれにしようかな」
このように隣にいる桜花は絵に描いたようにテンションを上げている。
さっきまでの気まずさなんかどこかへ吹き飛び桜花はもう祭りという空気に飲み込まれこの環境を含めて楽しんでしまっている。
そうやってすぐに切り替えることが出来るのも1種の才能だ。
普通に羨ましい。
「あー。桜花の食べたいヤツ選べば良いんじゃないか?」
「あたしは……うーん。これとこれとあれが良いかも」
桜花は子供みたいに大きなりんご飴と小さなりんご飴後はパイン飴をパッパっと手際よく指さす。
吟味している姿は本当に楽しそうで不思議と見ているだけなのにこちらも楽しくなってきてしまう。
「そんな食ったら太るぞ。1つにしとけ」
「太らないし! ってか、女子に向かって太るとかダメだし」
口をムスッと膨らませて怒る。
いや、うん。デリカシーなかったなって今思ったよ。
「じゃあ3つとも買うか?」
「ううん。あれだけにする」
惜しむように桜花はデカいりんご飴をひとつ選んだ。
欲望に忠実なのは変わらないんだなと思いつつ、まぁこういう祭りという非日常でわざわざ我慢する必要も無いだろう。
むしろこういう時にパァーっと全てを解放しておかないと人間やっていけない。
「これください」
英世を1人渡して微々たる小銭を受け取る。
その後にりんご飴を受け取り列から離脱して桜花に手渡す。
「良いの?」
りんご飴を受け取った桜花は目をぱちくり開いて訊ねる。
「いや、奢られる気満々だったんじゃないの?」
「え……あたしそんな風に見えた?」
「いつもそうじゃん」
「そっか……まぁ、奢ってくれるって言うのなら遠慮なく貰っちゃうし」
桜花はそう言うとさっそくりんご飴に覆いかぶさっていたビニールを外して美味しそうに舐め始める。
大きいのに慣れた手つきで食べていく姿を見て可愛いとかじゃなく単純に凄いという感情が湧き上がってしまう。
しばらく食べた後に桜花は「あっ」と何かを思いついたような反応をみせだらーんとスマホを弄っていた俺の事を見つめてくる。
最初は気の所為だと思い一瞬だけ目を合わせすぐにスマホへ視線を戻す。
「ゆーくんも食べる?」
純粋な目で問うてくる。
本人は何も気にしないのだろうか。ビッチかな?
それとも天然ぶっかましてるだけなのかな?
どっちにしろ恐ろしい子。
「桜花のなんだし桜花が食べろよ。それに……ほら、あれだろ?」
何がアレなのかは深く言わない。
それでも桜花には伝わったようで「あ、そっか」と顔を赤くして後退りする。
そんな反応されると更に恥ずかしいなとか思いながら照れ隠しを含めて俺は意味もなくスマホを触っていた。




