俺と姉貴と着付けと
『もう良いよ』
由梨からそんなメッセージが届く。
もう良いよという短いメッセージだがこの言葉には早くリビングに来いという裏のメッセージが込められている。
恐ろしいったらありゃしない。
このタイミングで意味もなくわざわざ逆らうほどマゾ気質じゃないので気持ちは乗らないがリビングに向かう。
ホワホワとした柔らかい匂いが鼻に攻撃を仕掛けてくる。
女の子って居るだけでフワフワしちゃうんだから凄いね。男だったらモワモワ暑苦しくなっちゃうんだから。
顔を見せるとそこには綺麗な浴衣を着た幼馴染達が居た。
桜柄の着物を着ている桜花に、爽やかな水色を基調とした着物を着ている夏海、オレンジ色でトンボらしき絵柄が点々と描かれており秋を彷彿とさせる着物を着ている楓に、白に謎の赤い花が描かれた着物を着た雪が居る。
まぁ、普通に可愛いよね。
「その……ゆーくんどうかな」
桜花は浴衣の端をギュッと掴み上目遣いで訊ねてくる。
そんな目線で聞かれたら頷くしないでしょ。
頷きながら「おう。良いと思うぞ」と深堀せず上辺だけ褒める。
いや、流石に可愛いぞと口に出せないから。気持ち悪いって言われておしまいだもん。そんなの嫌だん。
「えへへ」
桜花は褒められて嬉しそうに笑みをこぼす。
「それじゃあさ、ゆーくんはこの中で誰が1番可愛いと思う?」
桜花は突然そんな質問をしてきた。
本人にそんな意図が無いのは分かっているのだが俺を窮地に陥れるような質問すぎる。
それこそちっちゃいお胸と大きなお胸どっちが好きですかと言われるぐらい究極の質問だ。
迷いつつ桜花からズラーっと他の3人の浴衣姿も目に入れる。
自意識過剰なだけかもしれないが他の3人の視線もこちらに向いているような気がする。
尚更難しくなっちゃうじゃん。
そんなことを思っていると最高の逃げ道を見つけそれを行使しようとする。
「あー。裕貴。お姉ちゃんのことが1番ってのは嬉しいけど今はダメだよ。それにみんな可愛いってのもダメね」
先に逃げ道を塞がる上に更なる逃げ道まで塞がれた。
腐っても姉弟……
「いやー、うん、まぁーそうだなぁー」
どういう逃げ道で逃げ去るのが正解なのか考えに考えるが答えが分からない。
困りに困った挙句最終手段を行使する。もうこれしか分からない。
「そうだなぁ。桜花が可愛いと思うぞ」
「えっ」
「あ。でも、可愛いってのはあざとさだけどな。そうやって『誰が可愛い』って聞いてくるあざとさがウザ可愛い。ペットみたいでな」
こんな完璧な逃げ存在するのだろうか。
自画自賛していると姉貴がチッと舌打ちした。
なんでだよ。そもそも姉貴が道塞いだからこうなったんだぞ。寧ろこっちが舌打ちしてぇーわ。
「でも、まぁなんだ。皆似合ってると思うぞ」
「ふーん。少しは成長したんだ」
「成長って何がだよ」
「んー。お姉さんだけの秘密」
由梨は上機嫌になりながら荷物をまとめ始める。
時間的にもそろそろ出発しても良い頃合だろう。
花火は19時からだった気がするのでそれまでは出ている屋台を回るというようなスケジュールになると思う。
とりあえず焼きそばだけは食いたいな。
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