俺と元カノと幼馴染と
適当な席を選んで座り適当にコーヒーとパンを頼む。
遠慮するということを知らない雪はわけのわからん長い名前の飲み物を注文する。
親しき仲にも礼儀ありって言うだろ。俺の財布をこれ以上涼しくするのはやめてくれ!
「最近の美咲ってどうなんだ?」
雪は飲んでいた飲み物を置いて顎に手を当てる。
同じクラスとはいえ絡みがなければ対して知らないと言われればそれまでだ。実際問題俺だって海がどうやつだったのか分からなかったし現状も分からない。
「毎日毎日違う男の子が迎えに来てたわね」
「名前は?」
「そんなの知らないわよ。まぁ少なくともウチのクラスじゃないのは確かね」
「そうか。まぁ、別れた時のセリフ的に他の男と遊びまくってても驚きはしねぇーけど」
セリフを噛み砕いて解釈すれば浮気したくないけど遊びたいから別れようということだ。
そりゃほかの男と遊んでいても当然だろう。
美人なのは間違いないわけだし本人の意思次第で男を作ることなんか容易い。
「でも、周りから見てて気持ちの良いものではなかったわね。その相手と遊んだ感想なんかを大声で仲良い女子たちと話してたりしてたもの。怒るほどでもなかったけれど」
雪はそんなことを言うといつの間にか俺のパンを盗み食いしており「これ美味しいわね」と感想を漏らしている。
こっちも気持ちの良いものではないですね。
「それに鎌ヶ谷くんと別れたばかりの時は生き生きとしてたわよ」
「うわぁ……それ結構悲しいな」
「そうね。でも日に日に弱々しくなって行ったわ。最近なんかだと鎌ヶ谷くんと寄りを戻したいと話してたりもしたわね。周りの女子たちからは『あの人ならまた寄り戻してくれるよ』とか言って煽ててたわよ」
つまり、その煽てられた流れで告白されたのだろう。
「正直そっちの方がムカッとしたわね。鎌ヶ谷くんは腐っても幼馴染だからあまり聞いてて面白くなかったわ」
「俺ってそのレベルの人間だからな。仕方ないっちゃ仕方ないだろ」
「そうね。それについては否定しないでおくわ」
少しはそうじゃないよって言葉を期待していた俺が馬鹿だった。
「鎌ヶ谷くんがどういう選択をするかなんて私には決められないけれどもしも迷っているのなら告白されても断るべきね」
思ってもいない言葉が雪の口から出てきて思わずポカンと口を開けてしまう。
「どうしてだ?」
興味深い内容だったし、わざわざ告白されたことを言う必要も無いと思い濁しつつ訊ねた。
「周りから見てた感想だから実際の所どうなのかは分からないけれど少なくとも私から見た感想は鎌ヶ谷くんが軽い男だと思われている気がしたのよ」
「はぁ……」
「鎌ヶ谷くんがそれを望んでいるのなら私からはこれ以上何も言えないけれど幼馴染がそんな軽い男だと思われるのは面白くないのよ。それに私以外もきっと同じこと言うわよ」
「それはどうか分からないけどな。まぁ、どの道今のところは付き合う気は無いかな。別れたのに付き合おうって言われたって困るだけだし」
「そう」
素っ気ない返事をするとまた俺のパンを食べた。
あのぉ。残り1個しかないんですけど。しかも俺まだ一口も食べてないよ。
盗まれないうちに俺はパンを口の中に放り込んでコーヒーを飲み雪が食べ終えるのを待ってカフェを出た。
大まかではあったが美咲が俺と別れてからどんな生活を送りどういう流れで俺に告白をしてきたのかが分かっただけでも大きな収穫だと言えるだろう。
そして同時に俺を遊び相手だと思われていることに気付き受け入れなくて良かったなと告白された時の俺を素直に褒めたい。
自画自賛しつつ俺は帰宅した。
◇◇◇
家に帰ってスマホを見ると1件連絡が来ていた。
見覚えのあるアイコンに見覚えのある名前『美』だ。
「美咲からか……わざわざなんだ」
告白断ったことを根に持ってるのかと思いつつトーク画面を開く。
『私諦めないから。本気でゆーくんのこと好きだっての見せつけるから』
そんなメッセージだった。
雪の話を聞く限りこの言葉が心からの言葉だとは思えない。
だから俺は適当な返事をしてしまう。
『そうか。もう1度俺を惚れさせるなら頑張れ』
こんな臭くて地雷なメッセージを送ってしまった。
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