俺と不思議くんと幼馴染と
『ありがとう』
俺は悟にメッセージを送る。
『りょーかい』
すぐに悟からは返信が来た。
多分これで今教室には海しか居ないだろう。
告白をするには絶好のチャンスだ。
「ぶつかってこい」
「鎌ヶ谷くんは私のことを誰だと思っているのかしら。任せなさい」
むふんとドヤ顔をしながら雪は教室に入っていく。
俺は死角で座り込み盗み聞きをする。
探そうと思えばきっとどこかに教室の中も見える絶好なポジションがあるのかもしれない。
だが、俺は知らない。だからこうやってコソコソと盗み聞きをする。
「海くん。少し良いかしら」
「……また君か」
教室でおちゃらけている海とは違う声。なんだか低い。
そして喋り方も変わっている。
女子だけだとこうなるのか。それとも雪だからこうなっているのかは分からない。
表と裏。人間の怖さを認識させられる。
「あの、私はあなたの事が好きだわ」
雪はストレートに思いをぶつける。
こんな脈絡なくストレートに言えるのは1度告白しているからこそだろう。
少なくとも初回でこんなストレートに言うことは出来ない。ある種ボーナスだ。
「俺は付き合わない。君とも付き合う気は無いし、他の人とも付き合う気はサラサラない」
「理由を聞かせてもらえるかしら」
雪は食い下がらない。
ここで玉砕して泣いて教室を出てきたところを慰めてハッピーエンドという計算だったので予想外でしかない。ただ展開的には面白いのでじっと話を盗む。
「君もそうだし他の人もそうだけれど皆俺の事を好きなんじゃない」
「中々興味深いことを言うわね」
「周りからモテている人を好きになっている自分を好きになってるだけだ」
海の言わんとすることは分かる。
恋に恋する乙女状態だと言いたいのだろう。これは海に限らず悟も同じことを言っていた。
「俺は本当の恋愛をしたい。上辺で自分の価値をあげるためだけに付き合うのは恋じゃない」
そんなことをたまに嘆いたりしている。
だから悟は全て告白を断り1人を選んでいる。
「君だってそうだろう。心当たりはあるはずだ。好きな人が」
「私は――」
「俺の心を欺こうとするのはやめた方が良い。何度も告白されてきたし何度もそれが上っ面な告白なのも見透かしてきた。だからわかる。君の告白も同じだってことが。そして君には別の本当に愛する好きな人がいる」
あのクラスで訳の分からないことを口にする人間とは思えないほど熱弁する。
もしかしたら女性ホイホイになっている自分を隠すためにあのようなキャラを演じていたのかもしれない。
俺はさっきこれを裏と言ったがもしかしたらこれが表でクラスでのキャラこそが裏の海という人物だと言われても疑いはしない。
「私にはそんな人いない」
「それは違う。まだ気付いていないだけ。別に今それをはっきりさせる必要なんてない。ゆっくりと覗いて考えて苦しんで。そして自分の好きな人を導けば良い。後は君が認められるかどうかだからね」
つまり雪には本当の好きな人という謎の人物Xが居ると。そしてその人のことを好きだと雪自身は認められていないということらしい。
理由は分からないが海は謎に自信を持って口にしているので何かしら根拠はあるのだろう。
そして実際に雪は何も喋らないのだから心当たりはあるのだろう。俺よりも幼馴染の心を読めているのはかなり悔しい。
幼馴染との接し方を少し変えたりした方が良いのかもとまで思ってしまう。
「それに……俺は女性は好きじゃない。俺の対象は男だ。だから君が俺のことを好きでも俺が君のことを好きになることは絶対にない」
とんでもないカミングアウトを聞いてしまった気がする。
「そういうことだ。俺のことはきっぱりと諦めて本当に好きな人を好きだと認める努力でもしておくと良い。さようなら」
タンタンと足音が近づいてくる。
流石にバレる訳には行かないので息を殺し海が立ち去るのを待つ。
階段を降りた所で俺は雪にもとへ寄る。
「本当に好きな人……」
頬を赤らめて呟く雪が夕日も相まって天使に見えた。
いつもありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!




