俺と思考
「ただいま」
玄関を開けてそう口にしても誰も何も言わない。
靴がないのでみんな出かけているのだろう。
どうせ両親は仕事で姉はどっか適当な男とほっつき歩いているのだろう。
あの姉貴は顔と胸だけは良いからモテるにはモテる。だから良く男を財布にして遊びに行っているのだ。
いつか殺されても文句1つ言えない生き方をしている。
これは多分大学でも変わらないんだと思う。流石に大学の姉貴までは知らないけどね。
冷蔵庫から適当なジュースを手にして自室に入る。
「うわっ……サウナかよ」
これ以上ないぐらいの温風を喰らった俺はブツブツと文句を言いつつ冷房をつける。
今はまだ暑いが時期に涼しくなるから我慢だ。
なぜ俺は美咲を断ってしまったのだろうか。
可愛いと思う気持ちに変わりはない。付き合えたら、この人が彼女だったらと考えていたのも事実だ。
でも、あの時は迷わなかった。突っかからずに喉をすっと通って断り文句が出てきた。
振られたことを根に持っているわけじゃない。
俺の中で本当に割り切りがついて未練が全くないということなのだろうか。
「あー。わかんねー」
悩んでも悩んでも出てこない答えに少しイライラし始める。
それになぜ美咲は突然俺に告白をしてきたのかも分からない。
振ったのは美咲だ。恋人という関係じゃなく友達という関係になりたいと言い出した。
でも、やっぱり元に戻したいと彼女は言った。
自分で言い出して未練があったということなのだろうか。
「あれ。待てよ」
美咲のことを考えていると突然振られたと報告してきた雪の顔が浮かんでくる。
振られたのに雲ひとつない綺麗な笑顔。
あの時に俺の心の中にあった違和感が解けた。
「自分の胸の中にある本当の気持ちに気付いてないだけなんじゃ……」
多分今は自分の気持ちに蓋をしているのだろう。
振られたという事実を見たくないがために振られたことも好きだったことも全てを蓋して見て見ぬふりをする。
だから雪は振られたのにあんな笑顔を見せてきたし後悔のこの字も無かったから違和感となっていた。
そしてきっと、時間が経てば激しく後悔して美咲と同じ道を辿ることになるのかもしれない。
カップルか片想いかという状況の違いはあれど根本はとくに変わらないだろう。
「明日でも聞いてみるか」
美咲のことなんかどうせ考えたって今の答えは出ないだろうと一旦放置し解決策がポッと出てきた雪の方に力を注ぐことにした。
幼馴染として後悔はして欲しくない。後悔して道を間違って欲しくない。
やるなら全力でぶつかって玉砕して欲しい。ボロボロと少しずつ剥がれ落ちるのは見ているこっちも辛いから。
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