俺と元カノ
空のペットボトルでポコポコ音を出しながら歩く。
そうでもしていないと落ち着かないのだ。
仮にも元カノだ。冷静に歩けるわけが無い。
「それで。話ってなんだ?」
何も喋らない間が嫌で嫌で仕方なくその空気を切り裂く。
「ゆーくんって思ったよりモテるんだなぁって」
「はぁ……俺はモテねぇーよ」
「またまたご謙遜を」
美咲はハハハと笑いながらそんなことを口にするが本当に謙遜などしていない。
きっと美咲が言うのは幼馴染達のことだろう。確かにヤツらとは仲が良いのは是認しよう。
だが、あれがモテているとは思えない。夏海にしろ、楓にしろ俺のことは信用出来る都合の良い人間ぐらいにしか思っていないだろうし、桜花に関しては距離を少し置かれているような気すらする。雪はそもそも俺じゃなく海という頭のおかしい奴のことを好きなのだし、美咲の言っていることは正しくない。
「周りに可愛い子が多いだけなんだよ」
「ふーん。そ」
美咲は興味無さそうな返事をしてみせる。
本人は自覚しているのかそれとも無自覚なのかはわからない。
だが、間違いなく言えることは美咲もかわいい女の子に分類されるということである。
「つまり……ゆーくんにはまだ彼女はいないんだ」
隣を歩く美咲は俺の事を見つめながら訊ねてくる。
目が合うと思わずドキドキしてしまう。3年間一緒に遊んだりした関係だったのに少し離れただけでまた緊張するような距離感になってしまったということなのだろうか。
そう考えると少し寂しい。
「みっちゃんには彼氏出来たの?」
「……え。私?」
聞かれるとは思っていなかったのだろうか。
少し驚くような仕草を見せた。
泣いているようにも見えるが泣いていない。単純に汗が額から流れているだけである。
やっぱり暑いよね。これで30度超えてないってどういうこと?
「今はいないよ。フリーなんだよね」
美咲は照れくさそうに頬をポリポリとかく。
そうしてまた二人の間に静かな間が流れる。
美咲も俺も友達になろうと思っていてもやはり元カレ、元カノという概念が頭の中をうろちょろし勝手に気まずくなる。
そんな小さな壁とっぱらってしまえば良いのだろうがそんな簡単にとっぱらえるようなものでも無い。
1度壊した関係というのはそう簡単に元のステージまで持っていけないのだ。
ジェンガと一緒でとある1つの関係を抜けば全てが崩れる。
俺と美咲のジェンガは全て崩れている状態だ。だから気まずくなってしまう。
「だからさ。私ともう1度やり直さない? 離れて気付いたの。私にはゆーくんしか居ないんだって」
汗が太陽に照らされキラキラ光る。
俺は少し間を開けてはっきりと口にした。
「俺もう腹括っちゃったから……それには応えられない」
「そ、そっか」
「人ってな。結構トラウマってはっきり覚えるんだよ。また突然振られるからもしれないと思いながら付き合う気はさらさらない」
嘘と本当のことを織り交ぜながら皮肉っぽいことを口にし、俺の口からそんな言葉が出てくると思っていなかったのか呆然と俺を見つめる美咲を置いて俺は先に帰った。
気まず過ぎるから仕方ないね。
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