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俺とチェキ

 「美浜さんチェキ指名されたからよろしく」


 店長は美浜さんに向かってそう叫ぶ。

 少しつまらなさそうな表情をしていたのは気のせいだろうか。


 「分かりました」


 一方美浜さんは薄っぺらい作り笑いから晴れたような笑顔へと変わる。


 「呼ばれてしまったので〜」


 嬉しそうに声を弾ませながら美浜さんはオタクの元を去り、オタクは「アハ」とキョドりながら対応する。

 気持ち悪いったらありゃしない。


 今までと変わらない甘ったるい香りがほわほわ香る中、周りの空気だけは変化する。

 美浜さんとオタクのやり取りが終わったことによりそっちの方ばかり気にしていた周りのメイドもイライラしていた悟も通常運転へと戻る。


 状況が改善したから終わりと投げ出せるかと言うとそうでは無い。

 周りは終わっても後処理が残っている。

 俺が美浜さんとチェキを撮るというビッグすぎるイベントだ。

 腹を括ったとはいえ緊張するものは緊張する。

 あのほわほわ系お姉さんと写真を撮るのだ。緊張しないのは陽キャだけだ。


 「ふふ。助けてくれたんですよね?」


 美浜さんは俺の所へやってくるなり頬っぺを突っついて遊んでくる。

 こっちからはお触り禁止なのにそっちからお触りしてくるのはセーフなんですか。それってずるいでしょ。


 「なんのことですか?」


 「そんなに強がらなくたって良いんですよ。ご主人様」


 ほれほれと人差し指でつんつん突っつく。

 そんなに人の肌を突っついて楽しいのだろうか。

 でも、美浜さんは楽しそうだしまぁ楽しいのだろう。女子は本当に分からない。


 「美浜さん。ゆーくんに突っかかってないで早くチェキ撮ってきてください。ゆーくんも困ってますから」


 いつの間にかやってきていた桜花は美浜さんの手を掴んで急かす。


 「ふふふ。嫉妬?」


 「違いますから。さっさと行ってください」


 「もう。仕方ないね……じゃ、ご主人様チェキ撮りに行っちゃいましょうか」


 「はい」


 チェキを撮る。

 そういうものに触れてこなかった俺からしたら右も左もわからずドキドキしっぱなしであったが実際撮ってみると価値観は大きく変わる。

 感覚としてはプリクラから機械要素を大きく省いたというような感じだ。

 メイドさんとチェキを撮り、いたずら書きをする。


 ぶっちゃけ結構楽しいがお金がかかるのが欠点すぎる。

 1度やればしばらく良いかなと思えてしまう。

 多分ここで自制が効かなくなる人がオタクという街道をひたすらに走り続けるのだろう。


 「ありがとうございます」


 「こちらこそありがとうございます」


 写真を受け取る。

 これで俺のやりたかったことは全て終えた。

 正解だったのか失敗だったのかは俺には分からないがチェキは楽しいという新たな発見が出来たので結果オーライである。

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