俺と親友とオタク
「あ。隣の駅とか? この辺じゃなさそうだもんね」
「アハハ……私はご主人様の家に住み込みで働いていますので」
「この辺住宅街ばっかりだもんねぇ」
オタクくんと美浜さんの会話は傍からみたら全く噛み合っていない。
そういう状況を作り出しているのはある種美浜さんの努力が実っているとも言えるかもしれない。
いつ助け舟を出すのだろうと俺はもう一度店長の方に視線を向けるが店長はニコニコ美浜さんを見つめるだけである。
そしてオタクくんが喋り始め美浜さんが当たり障りのないことを言う。その1連の流れを見て店長は俯き震えてしばらくするとニコニコした表情でまた見つめる。
「そろそろあのオタクうざくなってきたんだけど」
美浜さんもそうだが俺の目の前に座っているやんちゃボーイもイライラし始めたらしい。
イラつかせなければただの温厚イケメンゴリラなのだが怒らせると少し面倒である。
大体悟が怒ると俺も巻き込まれる。というか、止めに入らないといけない。普通に面倒だ。
「まぁ落ち着け」
ここで仮に悟がキレたらどうなるだろうか。
きっと静かにオタクに近寄り軽い口論になったうえ、オタクくんは無駄にイキって悟を更に挑発し殴られるだろう。そして警察沙汰になり俺は事情聴取……あぁ。ダメだ。面倒すぎ。
「桜花」
「ゆーくんどうした?」
「あれ止めて来て」
「え!? あたし? 無理だし。あんな所割り込んだら美浜さんに逃げられて次あたしが絡まれるじゃん」
そんな技量ないよォと謙遜するのかと思ったらただの保身だった。
まぁ、普通そんな面倒事にわざわざ首を突っ込んだりはしないだろう。現に俺も面倒事に首を突っ込みたくないから桜花に任せたのだ。
却下されてしまった時点で選択肢は限られる。
俺が直接止めるか、店長が出てくるのをじっと待つか、俺が動かざるを得なくなっている悟を落ち着かせるかの3択だ。
冷静になって考えればもっと選択肢はあるのかもしれない。だが、今ここで簡単に思いつくのはそれぐらいしかない。
残念なことに俺はラブコメの主人公でも異世界転生をするような主人公でもないのだ。
機転の利いたアイデアなんて思いつかない。
じゃあどうしようか。
少なくとも誰かが被害を被らなければならない。全員が幸せになるような解決策なんて思いつけない。
全ては話し合いで解決できるなんて夢物語は本当に夢物語であり現実ではない。故に現実は誰かが傷付き、誰かが被害を受け、誰かが諦めて物事が完結する。
全てが綺麗さっぱり丸く収まることなんてありえない。
丸く収まったように見えても実はどこか角張っているものなのだ。
故に今回は俺が被害を受けようと思う。ぶっちゃけ警察に事情聴取受けることになるよりもここで軽く目立つ方がマシだ。
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