俺と癖
しばらく時間が経っても美浜さんは絡まれている。
ここまでだる絡みされてなお表情を崩さず丁寧に対応している美浜さんも凄いがそこまで執着して絡み続けるオタクも侮れない。
表面上はしっかり対応しているように見えるが人の裏を読もうとすれば美浜さんの対応は明らかにあしらっている感じだ。
それに気づかないのがオタク感満載である。
さっさとやめろ! 見てるこっちが恥ずかしくなってくるんだよ!
「ご主人様はご主人様なのです」
「そう言わずにさぁ」
そんな俺の心の声は届かずにオタクくんはまだ続ける。
実際叫んでいるわけじゃないので届くはずもないのだがそんなことどうでも良い。なぜ周りを見て空気を読むということをしないのか。
少なくとも周りに迷惑をかけないようにしようぐらいの気概があればこんなしつこくメイドさんのプライバシーを侵害したりすることは無い。
コイツはオタクどうこうの前に1人の人間として何かが欠落しているのだ。
「あ。ちょっとやばいかも」
桜花はなんの脈絡もなく突然そんなことを言い出す。
「ヤバいって何がだよ。エスパー能力なんて持ってないからお前の心なんて読み取れないぞ」
「美浜さんが……」
「今に始まったことじゃないじゃん」
相変わらず絡まれ続けている美浜さんを見ながら返事をする。
「イライラし始めちゃったし。多分そろそろキレちゃうかも」
「は? なんで分かるんだ?」
きっと何か兆候があったのだろうが俺には分からない。
さっきと同じような美浜さんでしかない。いかにも愛想笑いみたいな笑顔で応対する美浜さんだ。
「美浜さんってイライラし始めると髪の毛凄く触り始めるの。ほら」
言われて気にしてみれば確かに髪の毛を触っている。
でも、言われなければ気にならないレベルだ。
露骨に髪の毛をパッサパサ触っている訳じゃなく軽くクルクル指で遊んでいる程度である。
「でも、良いんじゃねぇの? 迷惑客なのに変わりはないし」
「それはそうなんだけれど。メイド喫茶で怒鳴るメイドさんがいるってゆーくんどう思う?」
「嫌だなぁとは思うな」
「でしょ。だから店長が怒鳴ることだけは絶対にするな。そういう時は俺がするって言ってたの」
そういう店事情があるんだなと納得し店長は何しているんだろうかと探すと厨房前のカウンターでのほほんとした表情をしながら美浜さんの死闘を眺めていた。
多分あれ楽しんでると思う。
「あれが動くのを待つのか?」
「少なくとも私たちには何も出来ないし」
「そりゃそうだなぁ」
「俺も絡みに行こうかな」
悟は楽しそうにそんなことを呟く。
お前も一緒に怒鳴られてしまえ




