俺と親友と幼馴染と
しばらく待っていると桜花が走って戻ってくる。
ハァハァと息を切らしているのがまた可愛らしい。
手にはケチャップを持っている。あの良くアニメや漫画であるオムライスにお絵描きなるものをやってくれるのかと思うとワクワクを通り越して興奮してしまう。
「じゃあまずはこっちから……何か希望はございますか?」
少し間を置いて桜花はニコッとメイドモードに入った。
「希望って言われてもなぁ。特にない」
「はぁ……それ1番困るやつ。ゆーくんどうせ家でも夜ご飯何でも良いとか言ってるでしょ」
「お前……幾ら幼馴染だからって家覗くのはありえないぞ」
「はぁ……やっぱり言ってるじゃん。とにかく適当に描くけど良いよね?」
「構わん」
そういうと桜花は手馴れた手つきで俺の好きな某RPGのモンスターを描いてくれる。
「うーん。これだけだと少し寂しいからハートも付けちゃうねっ!」
またスイッチを入れたようでメイドモードの桜花はモンスターの周りにハートを次々にぶち込む。
それでも満足いかなかったようで「うーん」と唸った上、皿に同じゲームで世間一有名な黄色いネズミの絵も描き始めた。
さっきのモンスターよりスラスラ描いてて練習していたんだなというのが伝わってくる。
「これで完成!」
「すげぇーな。桜花いつからここで働いてるんだ?」
「ん? つい最近だよ?」
「マジで? にしては描くの上手くない?」
「そりゃ練習してるし。キャラクターの絵描いてくださいとか結構言われるからそこそこ上手くなるまで練習するんだよ」
桜花は立ち上がり少しズレてまたしゃがむ。
次は悟のオムライスに絵を描くらしい。
「ご主人様はどんな絵が良いですか?」
俺にはやってくれなかったのに悟には入りからメイドモードだズルすぎる。
「猫!」
「猫ちゃんですね〜」
なんかほんわかとした空気が二人の間で流れる。
イケメンと美少女がキャッキャウフフしながらオムライスにいたずら書きをする光景。見ていてなんだか心にある何かが削られていくような気がしてならない。
しかも桜花は桜花で簡単な顔だけの猫じゃなくてリアリティを追求したような猫をオムライスに描いていた。
それはもう猫ちゃんじゃくてキャットだ。
「はい。ご主人様たちおまたせしました!」
完成したオムライス2つをそれぞれ食べやすい位置に並べてくれる。
そういう細かい気遣いを含めてメイド喫茶なのだ。
「それじゃあ、ご主人様たちも一緒にお願いします」
桜花はチラッと悟を見て微笑んだ後俺を見つめ……いや、睨んできた。
なんで? ちょっと扱い酷くない?
「美味しくな〜れ」
桜花はハートマークを作ってなにかやり始めた。
これを俺たちにやれって言ってるのかよと思っていると「美味しくな〜れ」とノリノリで悟はやり始める。
「お、美味しくなーれ」
2人がやったのにやらないわけにもいかないので恥ずかしがりながらやる。
「萌え萌え」
「萌え萌え」
「え、は? も、もえもえ?」
動揺しつつ真似をする。
「ポワポワ」
「ポワポワ」
2人は楽しそうに続ける。ぶっちゃけ厳しい。
「ぽわぽわ……」
この後俺は心を無にして2人に着いて行った。
羞恥心など振り捨ててメイド喫茶は来ないといけないということを俺はこの時肌で感じたのだった。