俺とメイドと
客席側のチラッと見ると思ったより人の入りが多い。
満席とまでは行かないにしてもメイドさんがバタバタ動いているのが目に入る。
「なんか忙しそうだな。こんな分かりにくい所なのに結構人入るもんなんだね」
「まぁ、俺たちと同じで物珍しさに来てる人も居るだろうから」
悟の答えに納得してしまい大きく頷く。
このメイド喫茶からしてみればここ数日が勝負のときなのだろう。
いかに物珍しさでやってきた客を常連として引き込むか。
そして常連としてやって来そうな客にはいかに金を落とさせるか。
ここでこの店が存続するかどうかが決まるのだろう。
なんだかんだ駅前だし家賃も高そうだもんな。
そんな高校生らしからぬ裏事情を勘繰っているとパタパタとメイドさんが1人走ってやってきた。
目線を下に落としていたので足元しか見えないが一言で言ってしまえばエロい!
黒い靴下に白くて柔らかそうな太ももが見える。なんだこのエッチすぎるお店は! 俺18歳未満だけれど良いんですか!? こんなこと許されるんですか!?
そんなことを心の中で叫びながら顔をあげようとするとメイドさんが先に足を止め、少し息を切らしながら声をかけてくれた。
「おかえりなさいませ! ご主人様!」
生おかえりなさいませだ。
初めて東京スカイツリーを目にした時ぐらいの感動を覚える。
非現実的なものだと思っていたのに今目の前に「ご主人様」と呼んでくれるメイドさんが居るのだ。興奮して倒れそう。
今度こそ顔をあげると興奮した気持ちが一瞬で引き下がり代わりに寒気が訪れる。
別にメイドさんが絶望的なブサイクだったとじゃない。むしろ、可愛い。可愛すぎるぐらいだ。
だが、そんな可愛さを持ってしてもマイナス要素となってしまうようなものがある。
「……なんでお前がいるんだよ」
「いや。それこっちのセリフだし」
「あ。やっぱそうだよね。旭さんだよね」
そうだ。悟の言う通りだ。
このメイドさん。旭桜花だ。
俺の幼馴染の旭桜花なのだ。
「こっちのセリフって……俺たちはメイド喫茶がオープンしたっていうから来ただけだ。むしろ桜花はなんでここに居るんだよ。学校は?」
「終わってから走ってきた。だから今対応してるんでしょ……いつか知り合いと会うだろうなとは思ってたけど1番最初がゆーくんとかありえないし」
本気で嫌そうな顔をしている。いや、なんか申し訳なくなるからやめて。
「桜花ちゃーん。ご主人様たち早く席にご案内してあげてね」
「……分かりましたー!」
店長らしき人からの指示に桜花は笑顔で受け答える。
流石だな。プロ意識が違う。まぁ、多分桜花は数週間もやってないんだろうけど。
「ゴホン……ご主人様。席へご案内しますね!」
一瞬また嫌そうな顔を見せたが咳払いひとつで切り替え俺たちを案内してくれる。
物凄く変な気持ちだ。