俺と親友と中身
ただの非常口みたいな扉が目の前に佇んでいる。
このビラの情報が正しければここがメイド喫茶らしい。
とてもメイド喫茶とは思えない。大体こんな重そうな扉が入口とかおかえりなさいじゃなくて頼もうだろ。
「なぁ。本当にここなのか?」
不安すぎて思わず悟に訊ねてしまう。普通に考えれば悟だって知らないはずなのに。
「でもこれにはここって書いてあるから」
片手に持ったビラをヒラヒラとさせながらそう言う。それを言われてしまうと俺からはこれ以上何も言えなくなってしまう。
悟は目の前の扉を引こうとするが中々重そうだ。
野球部のエースでさえビクともしない。
「押してダメなら引いてみろって言うもんな」
1人で勝手に呟きウンウン頷いた悟はグワッと扉を押す。
すると簡単に扉は開きガタンっという大きな音が響き渡る。
恥ずかしかったので俺は知らんぷりしていると中から甘ったるい匂いが漂ってきた。
チラッと中を確認するとどこもかしこもピンク、ピンク、ピンク!
どんだけピンク推しなんだよ。俺の脳内かよ。えっちじゃん。
「おかえりなさいませ。そちらの椅子におかけになってしばらくお待ちください」
タキシードを着たお兄さんがニコニコしながら近くにある案内待ち用の椅子に座るよう指示してくれる。
30歳にいっているかいっていないか。そんな微妙なラインだ。
根拠は何一つ無いけれどきっと店長とかオーナーとかそんなあたりだろう。
「なぁ。あの人がメイドさんなのかな」
悟は本気の眼差しで問う。
仮に本気でそう思っているのなら俺は今すぐお前を病院へ連れて行きたい。
「冗談だから。そんな目で見ないでくれ」
縮こまりながら悟は気恥しそうにそんなことを口走る。
その態度を見ていると尚更本気で思っていたのではないだろうかとそう疑いたくなってしまう。
椅子の横に1枚のメニュー表らしきものが置いてあった。
特にやることも無く、スマホを弄るか、悟と話すかの2択だったので新たに降り注いできた選択肢であるメニューを見るという選択をする。
開くとメニューは書いておらずこのメイド喫茶のルール的なものが記載されていた。
ルールと言ってもそんな堅苦しいものではない。
お触り厳禁やチェキは別料金、後はお店のコンセプトだったりというものが柔らかい文言だ。
コンセプトはメイドに癒されるカフェというものらしい。なんの捻りもないが変にニャンニャンメイド喫茶とか和風メイド喫茶とか融合されてしまうよりもしかしたらマシかもしれない。
「ん? なんだそれ」
「お店のルールらしい。お触り禁止だかんな」
「んなこと言われなくたってしねぇーよ。大体女子の体触るぐらいなら告白した女の子に頼めば簡単」
「お前最低なこと言ってる自覚ある?」
「あぁ……言い終えてからとんでもないこと口走ったなと思った」
俺は横目で軽蔑の視線を悟に送りつつ持っているルール表を元の場所に戻した。
「裕貴! 俺は……俺はそんなことしてない。頭の中で少し思っただけで実行に移してないからっ!」
片手で俺の体をグラングラン揺らす。
「知ってる」
でも、頭の中でそんなこと思ってたんだという風に思ったことには変わりない。
思考がDVをするやつのそれである。まぁ男なんてそんなもんだろうと同時に思ってしまった俺ももしかしたら同罪なのかもしれない。
とりあえず心の中に秘めておこう。
いつもありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!




