俺と親友の友達と
昼休み。俺は無理矢理悟を連れてラウンジへ向かった。
ラウンジに到着すると既に何席かは埋まっており昼飯を食うもの。カップルでイチャイチャしているもの。様々いる。
この前の図書室とは比べ物にならないぐらい盛況だ。
「涼太ってやついるか?」
悟は「うーん」と唸りながらラウンジ全体に目を向け涼太を見つけたらしく指さした。
「あそこか。行こ」
涼太の方へ向かう。
その席にはワックスでしっかりとセットしたオシャレな男が座っていた。
肌は白くとても野球部だとは思えない。
それよりもなによりもイケメン! なんだかんだ悟との付き合いは年単位になりかけているのでイケメンへのハードルはそこそこ上がっていると自負しているがそんな俺でさえイケメンだなという感想を抱くくらいにはイケメンである。
だがどこか信頼に値しない。言葉には表せない不思議な雰囲気が涼太からは出ている。
しかもなんか奴からは無駄に柑橘系の匂いがする。なにこれ。香水?
「おう。コイツが俺の友達、鎌ヶ谷裕貴。で、こっちが柏涼太な」
「どうも。鎌ヶ谷です」
「どうも。柏涼太だよ。んー。みんなからは涼太って言われてるから涼太って呼んでくれて構わないかな。それに裕貴くんのことは悟から色々聞いてるから」
爽やかさ全開な涼太はニコニコしながら喋る。なんだろうか。なにもかもが負けたような気がする。いや、そもそも勝負なんてしてないんだけれどさ。
「色々……」
「そう。色々。例えば茂原さんと別れたってこととか、楓ちゃんと裕貴くんは幼馴染だってこととかね」
俺はジロっと悟に視線を送ると手をパシンと合わせてごめんねのポーズをとる。
女の子がやるから可愛いんであってイケメンがやっても腐女子が喜ぶだけだ。だから悪いことは言わない。大人しくやめておけ。
「それで今日は僕に何か用なのかな。実は僕からもお願いしたいことがあるんだ」
「はぁ……そうですか。とりあえず用件は1つです。明後日放課後に図書室来て貰えませんか?」
「あぁ。それは構わないけれど……悟部活少し遅れることになったから」
「オッケーオッケー」
悟は聞いてるのか聞いていないのか分からないような返事をする。
「裕貴くん。なんか固くない? 同級生なんだしもっと軽い感じで良いんだよ?」
「いやぁ――」
「コイツ人見知り激しくてな。そのうち慣れる!」
「そうなんだ。まだ心開かれてないって感じかな?」
涼太はニコッと笑うがあまり心には響かない。
「それで? 涼太も何かあるんだろ? もう裕貴帰りたがってるから早くしてやれ」
悟ったら俺の心読めちゃうの? エスパー使えちゃうの? もしかして俺のヒロインだったりしちゃう?
「先に1つだけ質問させてね。裕貴くんと楓ちゃんってどういう関係なのかな」
「……幼馴染? まぁ、古くからの付き合いってところですかね」
「そっか。付き合ったりはしていないんだね。そしたらお願いしたいんだけれど……僕と楓ちゃんをくっつけるお手伝いして欲しいんだ」
「は?」
イマイチ理解できなかった。
いや、正確には理解はできた。だが、俺の脳内がその言葉を受け入れることを拒む。
「だって、裕貴くんと楓ちゃんはただのお友達なんだよね? なら問題ないと僕は思うんだ」
「いやぁ……その断らせて――」
「僕は君が信頼している悟からの信頼も得ている。君にとって不都合は無いはずだよね。裕貴くんが楓ちゃんのことを好きなら話は別だけれど」
コイツの不思議な雰囲気の正体はこれだ。
俺の事を人じゃなく楓と付き合うための経路としか考えていない。
見た目で惑わされたがコイツも立派な性猿だ。
悟から感じ取れる冗談の雰囲気じゃない。本気の雰囲気。はっきり言って気持ち悪い。
「……どうかな?」
「断ら――」
「もしも、裕貴くんが断ったら僕は君のおねがいを聞かない。人のお願いは無視して自分のお願いは聞いてもらおう。そんな都合の良い話はないよね?」
「……分かった。俺に出来ることはやります」
「うん。その言葉を待っていたよ。あと、本当に敬語使わなくて良いからね。まるで僕が敬語使わせてるみたいで楓ちゃんからの評価下がっちゃうと困るから……ね」
涼太は手をヒラヒラさせてその場を去る。
「お前……良くアイツと仲良くできるな」
「うーん。涼太ってもっと穏やかなんだよ?」
悟は「うーん」と首を傾げる。
とにかく問題を1つ解決するために大きな問題を抱えてしまった気がする。
別に涼太の言い分は何も間違っていない。だが、それでも。アイツに楓を引き渡すのはダメな気がする。少なくとも楓は幸せにはなれない。
それでも楓がそれを望むのなら……
「まずは目先の問題か」
そのことを悩むのは後で良い。まずはイジメを解決しなくてはならない。
今回の作戦が確実に成功する保証だってどこにもないのだ。
「悟。戻るか」
重い腰を上げて俺は教室へと戻った。
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