俺と裏
今話しかけてはいけない。
俺の勘がそう叫んでいるので俺は見て見ぬふりをして帰ろうとする。
1歩出して教室から離れようとした時たまたま顔を見上げた楓と俺の目が完全にあってしまった。
お互い見つめ合い何も言わない。
俺も楓も共に……
流石にこの状況で逃げ帰る訳にもいかないので俺は教室に入る。
だが、気の利いた言葉も行動も浮かばずただ泣いている楓を立って見つめるだけになってしまう。
きっとここでラブコメ主人公ならカッコイイセリフや惚れちゃうような行動ができるのだろうと思う。ラブコメ主人公じゃなくても悟とかもなんだかんだ優しく接したり出来そうだ。
そんなことを考えると自分がいかに役立たずなゴミ人間なのかを理解出来る。
あのいじめっ子に立ち向かえないし、ここでまともなアフターフォローも出来ない。
俺は環境に恵まれただけな価値のない人間なのだ。
価値の無い人間が何を出来るか。
ここで何か浮かべば良いのだが浮かばない。だから価値の無い人間なのだ。価値があればとっくに浮かんで行動している。
自分を卑下していると泣いていた楓は立ち上がる。
化粧は崩れ久しぶりにすっぴんの楓が垣間見える。
まだ泣き続けている楓は突然走り出し逃げるのかと思ったら俺に飛びかかってきた。
殺しに来たわけじゃない。思いっきり抱きついてきたのだ。
力強く抱きしめられる。
ここで振りほどくほど俺は落ちぶれてはいない。
俺はそっと優しく楓を抱きしめてあげる。
楓は震えて嗚咽しながら泣く。
「あぁ。すまん。つい……」
抱きしめたことが嫌だったのかととりあえず謝罪すると楓の抱きしめる力がさらに強くなった。
「違う……安心しちゃって……止まらなくなっちゃった」
それだけ言うと顔を俺に埋めてワンワン泣き始める。
我慢していた涙腺のダムが決壊したかのように泣き叫ぶ。
こんなに苦しい思いをしていたんだな。こんなに悲しい思いをしていたんだな。
なのに俺はなぜ気づいてあげられなかったのだろう。
そう考えると心が苦しくなり楓のことを包み込むようにして抱きしめる。
「そか」
俺は変にカッコイイことを言うよりもそっと胸を貸してやるべきだと判断した。
だって俺はラブコメの主人公でもなければ陽キャでもない。ただのそこらに居る陽キャでも陰キャでもない男子高校生なのだから。
小刻みに震えて暖かい楓を俺はしばらくそっと抱いていた。
自分の胸に秘めていた思いを全て吐き出して、俺の胸にぶつけて楽になるまでずっと。ずっと。
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